第26話 幼馴染みの身勝手な思惑
あかりが側にいてくれたおかげで、苦しい思いを吐き出す事が出来た俺だが、儀式以外でしてはいけない行為をするという法度を犯してしまった。
体は大丈夫との事だったが、あれ以来、あかりは自分の部屋に籠もりきりで一度も会えていない。
菊婆の死と恐らく法度を犯してしまった罪悪感に塞ぎ込んでいるのだろうか。
申し訳なさと心配のあまり、キーとナーに連絡を取るも、二人して会う度に怒りのドロップキックを仕掛けて来て、あかりの事を聞いても罵倒してくるのみで教えてくれない。
あれから、島民会(椙原の爺ではなく、その息子)と冬馬&茜、後見人の女は頻繁に社にやって来て、第二の贄の提案を受け入れるよう要求して来た。
菊婆の死に奴らが関与している可能性も否定出来ない中、奴らへの怒りが込み上げるも、新しい責任者、御堂さん始めスタッフの皆は贄の立場にある俺は危険と判断し、会わせては貰えなかった。
「え?奴ら、あかりに手紙を託して!?」
「え、ええ……。例の後見人上倉さんが、生き神様にぜひにと……」
ある時、奴らが帰った直後に保坂さんからそんな話を聞いて、俺は以前の自分の状況を思い出した。
あの時は、冬馬に生き神が贄の生気を吸い取り、何百年も生きている化け物だという出任せを吹き込まれ、更に何者からか、助けに入るからこの島から逃げようと唆す手紙を渡された。
あの手紙の差出人が上倉、もしくは冬馬側の人間だとしたら、今回の手紙にも、あかりの弱みをついて向こうの要求を飲むよう脅迫するような内容が書かれているかも知れない。
「保坂さん、その手紙は、まだあかりには渡さないで置いてくれ! ちょっと俺、行ってくる!」
「えっ。行くって、贄様っ?! いけません!! 危険です!!」
保坂さんに止められる中、俺は奴らを追うため屋敷の外に出た。
いざとなれば、俺にはこれがある。
事切れた菊婆の懐にあり、スタッフの皆から一時的に預かっていた始祖の札を上着のポケットに忍ばせて、社の庭まで走って来たところ……。
「あっ!真人っ……!!✧✧」
お屋敷の門の辺りでこちらの様子を窺っていた茜と目があった。
「嬉しい! 真人、やっと会えたぁ!」
「っと。茜っ。奴らはどうした?」
パアッと明るい表情になり、飛び付いて来ようとする茜を躱しながら俺が聞くと、奴はキョトンとして答えた。
「え? 島民会の椙原さん(息子)と、
冬馬くん、上倉さんは帰ったよ?」
「チッ。遅かったか……」
俺が舌打ちすると、茜は憮然とした表情になった。
「何よ、私だけいればいいでしょ? 菊婆の事があったから、落ち込んでるんじゃないかと、真人の事心配してたのに!」
「余計なお世話だよ! 大体お前達のせいで菊婆は死んだんじゃねーのかっ?」
茜の呑気な物言いに、言わずに抑えていた事を言ってしまうと、案の定、奴は激しく反論して来た。
「はあ? 人のせいにしないでよ! 菊婆の死因は心臓発作だったんでしょ?
普通の人間にそんなの引き起こす事出来るわけないじゃない。
いつも不思議な力で攻撃して来るのは、社の生き神でしょうがっ!」
「あれは、生き神じゃなくて精霊がっ…て、そんな話はいい。
茜、この際だから聞いておく。お前が冬馬の許嫁になって、奴を第二の贄にしようと協力するのは何故だ?
お前は一体何が狙いなんだっ!?」
俺の問いに茜は、手を口元に当ててニヤニヤしながら答える。
「ああ〜。私が冬馬くんの許嫁になった事? 真人、妬いてるのね? 安心して? 冬馬くんとの関係はあくまで形式上の物で、私は真人一筋だから!」
「いや、妬いてねーし、それはどうでもいいんだが……」
「どうでもいいって何よっ!!」
げんなり答える俺に、茜が噛みついた。
「冬馬くんと真人と結ばれるよう取り計らってくれるっていう約束で、仮の許嫁を引受けたの。他の事は何も知らないわ。
真人ったら、生き神様に誑かされて社に閉じこめられて可哀想。男好きの生き神様にはイケメンの冬馬くんを贄として宛てがってあげればきっと満足するでしょ?
そして、贄の役目から解放された真人と私が晴れて結ばれるというわけ。どう? 完璧な計画でしょ?」
「はあっ? 何が完璧な計画だ?! お前、頭イタイのか!?」
茜のドヤ顔に俺は寧ろこっちの頭が痛む思いだった。
「あんな提案を受け入れたら、社と生き神様の権威は失墜して、島民会や病院側の思うがままに支配される危険があるって分からないのか?
俺はそんな事望んじゃいない!社で幸せに暮らしているんだから、変な策略に加担せずに放っておいてくれよ」
「でも、贄は、男性不妊だと役目が果たせないんでしょう?生き神様に見捨てられたり、嫌われたりしたら終わりだよね?」
「っ……! それは、風切総合病院のでっち上げでっ…。うわっ!」
茜の言葉に怯みつつ、言い返そうとすると、奴は俺に抱き着いて来た。
「私なら、男性不妊だろうと何だろうと真人の全てを受け入れられる。元々苦手だし、子供なんか出来なくても全く構わないわ。社や生き神様がどうなろうが知った事じゃない。
二人で幸せに暮らして行きましょう?ねっ?ここから逃げよう?何なら、島の外へ逃げても構わない」
「よ、よせって!!」
「キャッ!」
恍惚とした表情で自分勝手な未来を語る茜をやっとの事で引き剥がすと、俺は大声で叫んだ。
「何と言われようと、俺がお前を選ぶ事はない! 俺は最後まで社と生き神様を守る! 敵になるなら、例え幼馴染みと言えども、容赦しないからなっ!!」
「あっ。真人っ……!」
縋るように呼びかける茜に背を向けて、俺は屋敷に戻って行った。
*おまけ話* 精霊の仕返し
「真人ったら……。あばずれの生き神様にすっかり騙されて……」
上月茜が去り行く想い人の背中を眺めながら嘆く様に呟いた時……。
ビビビビッ!
「ギャアァッ!! いったぁ!! 何っ?!」
突然体に強い静電気のような痛みが走り、その場に蹲った。
『この愚かな我儘娘め! 生き神様を男好きやあばずれなどと罰当たりな事を言いよって! 早うここを去ね!!』
「ギャアアア! また、祟りぃっ!? 畜生! 覚えてなさいよ〜!!」
茜はスタコラと逃げて行った。
「ふんっ。懲りん娘よ……。しかし、この件は今の生き神様には報告し辛いのぅ……。」
生き神の命令で真人の警護をしていた精霊、ナーは、暗鬱な溜息をついたのだった……。
*あとがき*
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m(_ _)m
今後ともどうかよろしくお願いします。
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