第5話  先代贄 出立前の助言《四条灯視点》 

「生き神様からご相談とは珍しいですね…。どうぞ、そちらにおかけ下さい。」


先代贄様は、久々に勉強部屋に訪れた私を優美な笑顔で迎え、ソファを勧めて下さった。


「はい。失礼します…。えーと、話というのはですね…。」


腰を下ろし、どう切り出したらと迷っていると、先代贄様は全てを悟っているように頷いた。


「はい。あらかた予想はついておりますよ。贄の真人の事ですね…?」


「…!どうして分かったのですか?」


驚いて目を見開くと、先代贄様は、切れ長の瞳をいたずらっぽく煌めかせた。


「最近の生き神様は、真人の事を四六時中心配されていらっしゃいますので…。まぁ、彼も危なっかしいところがありますから、無理もありませんが…。クックックッ。」


「……。///」


先代贄様に笑われてしまい、私は赤面しつつ、肯定した。


「はい。私…。確かに無茶をする真人の事がいつも心配で、遊びや祭りなど、何度も会う機会を作ってしまいました。

でも、そのせいで、真人と気持ちが近付き過ぎてしまって…。」


『俺に出来るのは命を縮めると分かっていながら儀式を手伝うことだけっ。

それしか出来ないんだよっ…。う、ううっ…。』


自分の事で涙を流してくれた真人の辛そうな顔を思い浮かべ…。


『真人。あなたを…贄として愛しているわ。』


母様から恋をしてはいけないと言われていたにも関わらず、真人に愛していると言ってしまった事を思い出し、私は俯いた。


「決まりを破って、儀式以外に贄と会ってしまう事が本当によかったのか…。

真人に余計に辛い思いをさせてしまっているのでは、私自身も真人を想うあまりに生き神としての仕事に支障が出るのではと思ってしまうんです。」


「生き神様…。深刻なお悩みの様ですね…。ふむ…。」


不安を吐露する私に、先代贄様はしばらく考えるようなポーズを取っていたけれど、やがて結論を出したのか、私に微笑んだ。


「それでは、お互いの為、今後はしきたりを守り、生き神様か贄の真人と相見えるのは儀式の時のみに致しましょうか?」

「えっ!」


驚いて声を上げる私を、先代贄様は面白がっているような表情で見て来た。


「嘘ですよ?驚きました?」

「せ、先代贄様!」


思わず非難する眼差しで見てしまった私に、先代贄様は優しく言い聞かせるように言った。


「私は生き神様が真人と会う事が必要だと思われるなら、反対しませんし、むしろ積極的に協力するでしょう。


ですが、その選択を私に委ねてはなりません。


私に反対されるならやめておこうと思われる程度のお心の弱さでは、この先が立ち行かなくなるでしょう。」


「先代贄様…。」


私の甘えを突き放す先代贄様の言葉に私は胸を突かれた。


「これから生き神様にとって試練が訪れるかもしれません。それに備える為には強い御心が必要です。


なすべき道を知っているのは神の力を持つ貴方様のみ。


何を為したらよいのか、為すべきでないのか、その判断はご自分でなさって行って下さいね。その判断に社の者は皆従わせて頂きます。」


「はい…。生き神の身で先代贄様に甘えた事を言ってしまい、申し訳ありませんでした…。」


諫言が身に沁みながら、頭を下げると、先代贄様は、困ったように笑った。


「いえいえ。生き神様が私などに頭を下げられても困ってしまいます。こちらも、厳しい事を申し上げてしまいました。ちょっと調べたい事がありまして、しばらくここを留守にしますので、その前にお伝えしなければいけないと思いまして…。」

「…!」

部屋の隅に荷物を纏めてあるのを見遣って私は先代贄様にお聞きした。


「先代贄様。どこかへ行かれるのですか?けれど、先代贄様は…。」


贄として社のお屋敷からは出られない筈で、しかも、母様である先代生き神様の亡くなられた際、代わりに亡くなられた事になっていたのではと思ったのだけど、先代贄様はニヤリと笑った。


「そこは、キーとナーに協力してもらええたらと思っています。よろしいですか?」


「もちろん構いませんが、先代贄様。そこまでされて、最近一体何を調べていらっしゃるのですか?」


先代贄様が、最近昼夜を問わず忙しく調べ物をしたり、誰かと連絡をとっている事。そして儀式での例にない力の高まり。


それらに関連性があるなら、不穏なものを感じ、問い糾さずにはいられなかった。


「先ほど試練が訪れるかもしれないとおっしゃいましたが、何が起こっているのかご存知なんですか?儀式をする度に神の力が強まっていく理由もそのせいなんでしょうか?」


「それは…、今はまだ推測に過ぎませんので、確心を得た時にお話させて頂きます。

継嗣の儀まではおりますし、私がいない間は、社の人々や真人に色々頼んで対策を取って置きますので、ご心配なさらないで下さいね?」


先代贄様は私を安心させるようにニッコリと微笑まれたのだった。






*おまけ話* 生き神の歴史と考察By真人



約400年前 生き神の始祖と島の長の息   

     子の婚姻

  →強大な神の力で災害は最低限に。

  紅糸島は実りある島に変わる。


↓始祖の血が薄まるにつれ、生き神の持 

 つ魂の器は小さくなっていく。



約220年前  双子の生き神生まれる     ↓

約200年前 姉 生き神になる。

  →能力は、儀式を通した地盤強化、 

  生命力の補給、人の意識や動作への

  干渉など。

  (先読みの力など他の多くの術は失 

  われる)

  →寿命は半減

 

※現在の生き神にも同じ状況が引き継  

  がれている。


     弟 軟禁され若くして死亡。

                ↓   

    もし、生きていたとしたら?

                ↓

※神の力(先読みの力や他の術)を引き継いだまま、逃げ延びていたとしたら、子孫に神の力の一部が宿っているのではないか。


生き神弟の子孫を見つけて儀式の負担を分けさせてもらえないか頼めないか?

うまくいけば、あかりの寿命が延びる。


課題

①精霊達 生き神弟の死を確認している。

→仮死状態で、途中で生き返ったりした可能性は…?

②生き神弟生きていて、子孫がいたとしても、どうやって見つける?

→生き神と精霊の力で紅糸島の近海ぐらいまででなら、感知できるらしいので、偶然近くに子孫が来てくれるのを気長に待つしかない。

③神の力は使うのに長年の鍛錬が必要。

→あかりに子孫にスパルタ教育をしてもらうしかない。

✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


「ふうっ。」


俺は、あかり、精霊達に聞いた生き神様の歴史とあかりを助ける為の方法、それについての課題について考察したものをノートに書き付けると息をついた。


「こっちの線も諦めきれず、更に考えてみたけど、万が一生き神弟が生きていて、神の力やそれを受ける魂の器が受け継がれていたらの話で、それに子孫がいたとして、たまたまこの近くに来るなんて、そうそう都合のいい事ないよな〜。

確かにキーとナーの言うように荒唐無稽だったか?」


自分の書き付た文面を見て、苦笑いすると…。


「やっぱ、別の方法を考えてみっか。例えば、生き神様の隠された秘宝や、能力を記した書物が、この島のどこかに隠れていたとしたら…。」


更に荒唐無稽な方向へ考えを巡らせていると気付かず、俺は目を輝かせて、新しい思索に耽るのだった…。



*あとがき*


読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m


本当は前話の後に入れるべきだったおまけ話を今回入れさせて頂いてます。

色々ご迷惑をおかけしますが、今後ともどうかよろしくお願いします。

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