第7話 浴場での思わぬ遭遇《前編》《四条灯視点》

継嗣の儀当日の朝ー。


チャポン…。ザパァッ。


「ふうっ…。」


塩入りの広い湯舟に浸かり、身を清めながら、私はため息をついた。


真人の事について、先代贄様に相談してから、真人に会うことも出来ないままこの継嗣の儀式の日を迎えてしまった。


その間、何度も真人から「会いたい」という文や、食べ物を送られたけれど、私からは「継嗣の儀の準備で体調を整えているので、今は会えない」と短い文を返すのみだった。


確かに、継嗣の儀に合わせて月のものを早め、妊娠しやすい体の状態にする為に、神の力で調整する必要があり、集中力を切らしていけない時期だった。


けれど、それだけじゃない。


『なすべき道を知っているのは神の力を持つ貴方様のみ。


何を為したらよいのか、為すべきでないのか、その判断はご自分でなさって行って下さいね。』


先代贄様から言われたように、自分で考えてはみたものの、真人へ気持ちと、生き神としての責務、二つの間で葛藤がある私は、結局結論が出せず、会うことも出来なかったのだ。


気持ちをはっきり自覚してから、一週間も真人に会えないのは、正直とても辛かったし、寂しかった。真人からの文を日に何回も読み直して、寝る前にはそれを抱き締めて眠った。


「でも、今日は、ちゃんと真人に会えるのよね…。///」


後継者作りは生き神と贄の大事な仕事。

真人への想いも生き神としての責務も矛盾なく同時に遂げられる事に私は気持ちが浮足立っていた。


「継嗣の儀を終えたら、この体に新しい命が宿るのね…。」


チャプッ…。


私は、湯舟に浸かっている下腹の辺りを撫で、何か感慨深い気持ちになり、後継者の女の子は真人に似た子になるんだろうかと少し気の早い事を考えていると…。


コンコンコン!

「…!?」


急に浴室のドアがノックされ、私は体をビクつかせた。


「生き神様…。継嗣の儀は今日の夜ですよね?よろしいのでしょうか?」


いつも私の身の回りの世話をしてくれる浴室のドア越しにスタッフの羽坂さんに聞かれ、私は肯定した。


「え、ええ。分かっているけれど…?」


「…!生き神様がご存知の上の事でしたか。失礼致しました。私は戸口から少し離れたところで待機していますので、ゆっくりとなさって下さいませ。」


「???え、ええ…。ありがとう…?」


継嗣の儀の為にお清めの湯に浸かっているのだし、何故今更日時を再確認するのだろうと私が首を捻っていると…。


ガチャッ!

ザッザッザッ。


「…?!!」


が脱衣場に入って来た音がして、私は身を強張らせた。


ガタンッ。バサバサッ。


「え?え?な、何で中に入って来てしまうの…??」


脱衣場で着替えている気配とその人の気を感じて、私は困惑して目をパチクリさせた。


ガラガラッ!

「ふはぁ〜!ここの湯舟、広くて気持ちいいんだよなぁっ!」


「…!!」


その人は、勢いよく浴場の戸を開け、タオルを片手にざかざかと浴場に入って来て、タオルを胸に当てて固まっている私と目が合うと、目をパチクリさせた。


「はれ…。あ、あかり…??💥💥」

「ま、真人……。///」


無遠慮に浴場に乱入して来たのは、今夜、共に継嗣の儀に臨む事になっている贄の真人で、私はどんなリアクションをしたらよいのか分からず、困っていた…。



*あとがき*


読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。


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