第31話 すれ違いと癒し 《四条灯視点》

「そう……。真人の元許嫁、香月茜さんは、生き神である私に風切冬馬を第二の贄として差し出せば、真人が解放されると思ったのね……?


 真人と復縁して、島の外へ逃げる覚悟もあると……」


「い、生き神様っ! しかし、それはあの娘の一方的な想いでして、真人はそんな事望んではおりませぬっ!」


「そ、そうです! あの娘、少し思い込みが強いところがありまして、困ったものですじゃ!」


 胸の奥がざわつくのを感じながら、その報告を聞いていると、ナーちゃんと、キーちゃんが慌てて私を気遣うような言葉をかけて来た。


「それでも……。私とは違って、彼女なら真人に普通の人生を歩ませてあげられる事は確かだわ。

 もしかしたら、これから起こるかも知れない悲劇も回避でき…」


 血を流して倒れている真人の姿が思い浮かび、私は顔を覆った。


「生き神様、そんなお考えはなさらないで下さい。今の真人の幸せは生き神様と共に過ごす事にあります!」


「そうです。このような形で新しいお命を迎えられてご心配なのは分かりますが、その状態が悲劇を産むという訳ではありませぬ。

 それとも、何か他に心配の種がお有りですか?」


「っ……。キーちゃん、ナーちゃん、ごめんなさい…」


「「生き神様ぁ……」」


 心配そうな顔のナーちゃん、キーちゃんにはとても言えない。


 真人の事を救う為に解放してあげた方がいいのか、それとも自らの想いのままに真人を側に置くのか?


 どちらを選択するにしても、もはや、今の私は生き神としての判断が出来ていないなんて……。


        ✽       

 

 そして、動揺したまま参加した真人とスタッフとの話し合いでは、島民会、風切病院側の手紙が読み上げられた。


 そこには、寄附金と島民会で極秘に持っている社の情報を盾に、納得できる説明が出来なければ明後日までに第二の贄の提案を受け入れるよう要求する内容が書かれていて、もう一枚の一筆箋に、補足が書かれていた。


『なお、「島民会で極秘に持っている社の情報」とは、であり、があったとしても、全て明らかにされ得る事をご了承下さいませ』


 と……。


 第二の贄の風切冬馬の後見人の女性、上倉希さんは、キーちゃん、ナーちゃんの力を無効化するような力を見せていた。


 私にあの恐ろしい夢を見せたのが、彼女だとしたら、その内容を島の人達やスタッフや真人に知らせる。彼女はそう示唆して来てる。


 島の人は災害と悪神になるかもしれない生き神に怯えて、パニックになって社に押しかけてくるかもしれない。真人は自分に降りかかるかもしれない運命に絶望するかもしれない。


 私は回らない頭で、どうしたらよいかを必死に考え、「期限を先代贄様の戻られる明々後日まで延ばしてもらえないか、それが出来なければ第二の贄の提案を前向きに検討すると回答する」と皆に伝えた。


 3回の儀式の後であり、新しい命が宿り、もはや継嗣の儀も不要の今、例え第二の贄の提案を受け入れても後で無効化出来ると思ってそう言った事だけれど、島民会、風切総合病院の人達が社に押しかけてくるかもしれないと、真人に大反対された。


「キーとナーが守ってくれるとはいえ、上倉という女は、二人の姿が見えていて、その力を無効化してみせたんだぞ?


 菊婆の死も、そいつが関わっていたかもしれない。


 俺が渡された精霊達の力を封印する札の事もある。それに、内部の人に内通者がいる可能性もゼロとは……」


「真人っ!!」


 私は心配してくれる真人を責めるような声を上げてしまい……。


「ほ、保坂さん、他のスタッフの皆さん、今のは失言でした。申し訳ありませんでした……。

 だけど、あかり。島民会側に危険な存在がいるのは、確かなんだ。

 どんな事があろうと、上倉だけは、この社に二度と入れさせないようにしてくれ。」


「分かったわ。それに関しては、贄である真人の意見を尊重します。」


 真人の懇願に、私は厳しい表情で頷いた。

 私を想ってくれる真人に、隠し事ばかりで、傷つける事しか出来ない自分が心底嫌だった……。


        ✽


 その後、(恐らく私の事も気遣って)精霊達が真人の様子を見に行ってくれた。


「生き神様。ご心配なされなくとも、真人は大丈夫ですじゃ。生き神様の想いはしかと、伝えて置きましたし……」

「鳩を使って友人と連絡も取れたようです」


「! あの鳩が真人のところに来たのね?」


 久々の朗報に私は少し安堵する思いだった。


「真人の奴、この状況で懐いてくれる相手がいて嬉しいのか、鳩に山程エサをやって、生き神様への想いも語り出し、見るに堪えぬ有様でしたわ……」

「ええ。今夜は部屋に泊まらせるつもりのようです」


「そ、そう……。何にせよ、今、その子が真人の側にいて癒してくれるなら本当によかったわ」


 真人のすぐ側にほんのり小さな気を読み取り、心温まる思いで私は微笑んだ。


 その翌日、その小さな気が消失するような事態になろうとは思いも寄らなかった……。





*あとがき*


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m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。






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