第26話 共にあれる時間
神社の境内で目眩を起こしてしまったあかりが心配で、あの後すぐに精霊達に送っていってもらった。
祭りの後片付けのため、会場に戻ると、他に誰もいなかったが、大体のものはスタッフさんが片付けてくれたようで、祭りで使った道具類がひとまとめに置かれていた。
「結構な大荷物だな…。何回かに分けて運ぶか…。」
取り敢えず荷物の中の手提げ袋何個かと、大きな段ボールを持ち、自室へ戻ろうとしたところ…。
「おお、真人、戻ったのか。荷物、私も運ばせてもらおうか。」
「先代贄…!ああ、ありがとう。」
ふと会場を覗いた先代贄の神山明人が声をかけてくれ、残りの荷物を持ってもらう事になった。
歩きながら、先代贄は優美な笑顔を見せ、労を労ってくれた。
「祭りの準備ご苦労だったな…。あんなに楽しそうな生き神様は初めて見た。
精霊達もな。
発想力といい、行動力といい、誰にでもできることではない。本当にお前はすごい奴だ。
他のスタッフも、普段恩恵を受けるばかりだった生き神様に少しでも何かして差し上げる機会が出来て、お前に感謝していた。
生き神様の教育係として、私からも礼を言わせてうぞ。本当にありがとう、真人。」
いつも皮肉屋な先代贄に手放しで褒められ、俺は照れてしまった。
「え。い、いやぁ、そんな。//皆に手伝って貰ったから出来た事だよ。先代贄も、すごい忙しそうな中、祭りの用品を集めてくれたり、他のスタッフさんに連絡とってくれたり、本当にありがとうな?」
「ふっ。生き神の笑顔の為なら、そんな事は何でもない事だ…。」
「先代贄…。」
普段はストイックで自分の感情を努めて見せないようにしている先代贄が珍しく、娘である生き神様への想いを露わにしているのに俺は少し驚き、今だったら以前から聞きたかった事を聞けるのではないかと躊躇いながら口にしてみた。
「あ、あのさ…。先代贄、先代の生き神様の事、聞いていいか?」
「先代生き神様の事か…?ああ、いいが、何だ…?」
「先代生き神様と、先代贄との仲はどうだったんだ?お互いに、どんな存在だった…?」
「…!!」
「いや、ごめん!答えたくないなら、言わなくていいんだけど…💦」
目を見開き、先代贄の顔が一瞬辛そうに歪んだのを見て、慌てて俺はそう言ったが、先代贄は、ゆっくりと首をふった。
「いや、答えたくないという事はない。むしろ、そうだな。お前には、言っておいた方が良いかもしれんな。」
先代贄は、苦笑いをして語り出した。
「私と先代の生き神様は、役目を果たす為の割り切った関係であり、お前と当代の生き神様のような近しい間柄ではなかった。
生き神様は、儀式以外で私と関わる事を好まれなかった。あまり、お心を露わにする方ではなかったので、私をどう思っていらっしゃったのかは分からない。
しかし、初めてお会いして以来22年、私にとってあの方は人生の全てであった。」
「……。先代の生き神様を愛していたんだな。」
「ああ…。」
「けど、愛した人と、22年もの間、儀式の間会うことが出来て、先代贄はさ、し、幸せ…だった…か…?」
俺は、先代生き神と先代贄の関係を自分の身にも重ね合わせ、縋るようにそう聞いてしまうと…。
「真人。生き神様と過ごした22年間は、あっという間の時間だ。自分が幸せだったというのは、過ぎ去った後に分かった事だった…。」
「…!!」
そう語る先代贄の瞳は哀しみに満ちていて、今はもう逢えない先代生き神への痛切な想いを物語っていた。
「生き神様と共にあれる時間は驚く程短い。後悔する事のないよう、毎日を大事に過ごす事だな…。
まぁ、今日の祭りのように、言われずともお前は生き神様の為に精一杯尽くすのだろうが。」
そう言われ、先代贄の言葉に動揺している事を悟られまいと、俺は不自然に明るい声を出した。
「お、おうよ!あかり祭だって、また開催してやるぜ!来年のあかりの誕生日にやってもいいしな!」
「そう…だな…。来年…か…。」
「先代贄…?」
少し顔を曇らせた先代贄を不思議に思い、呼びかけると、彼は優美な笑顔に戻った。
「いや、またできるとよいな。その時はまた協力させてくれ。荷物、ここまででよいか?」
「あ、ああ…。ありがとう、先代贄。」
話し込む内いつの間にか自分の部屋の前まで来ていた事に気付き、俺が頷くと、先代贄はっこりと笑い片手を上げた。
「では、真人、数日後には儀式もある事だし、今日はゆっくり休めよ?」
そんな彼の後ろ姿を見送り、荷物を部屋に運び入れると、俺はさっき抱き締めた時のあかりの恥ずかしげな表情、体の柔らかさ、温もりを思い出していた。
あかりの全てが愛おしくて大事で仕方がないのに、いつかはそれを失わなきゃいけない日が来るって言うのかよ。
それもそう遠くない未来に…。
『生き神様と共にあれる時間は驚く程短い。後悔する事のないよう、毎日を大事に過ごす事だな…。』
先代贄の言葉を反芻し、寒々しく身震いをすると、しばらく俺はその場から動けなかった…。
*あとがき*
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