第42話 閑話 先代贄からの電話 《保坂亜希視点》

 刈谷さんと富田さんには睡眠薬入りの飲み物を飲ませ、羽坂さんと贄様には注射で鎮静剤を打ち、眠らせた後全員を和室へ運び込むと、私は外で騒いでいる島民会と社の警護役の男衆の面々の前へ出て呼びかけた。


「皆さん、お静まり下さい。社の責任者、保坂です。このようにずっと睨み合っていても島民会、社共に益がありません。 今、スタッフで話し合いまして、第二の贄の受け入れについて前向きに検討する事に致しました。風切総合病院の関係者の方のみ、こちらにお入り下さい。」


「ええっ。保坂さん、いいのかい?」


 目を剥く野木さんに、私は神妙な面持ちで頷いた。


「はい。社の皆の総意でそうなりましたので。島民会の方が大勢押しかけて暴動を起こされると困りますので、どうか屋敷の敷地内から撤退させてそのまま警護して頂くようお願いします。」


「わ、分かった。 ホラ、島民会の人はここから去ってくれ」


「そ、そう言われても……。上倉くんと高校生二人組だけで社に残して大丈夫なのか?」


 島民会取り締まり役の椙原さんが不安気に上倉さん、風切冬馬さん、香月茜さんを見遣ると、三人はにこやかに頷いた。


「お任せ下さい。必ずや、社との交渉を成功させ、後で良いご報告をさせて頂きますよ?」

「僕も精一杯尽力させて頂き、第二の贄としての役を務めたいと思います」

「私も精一杯サポートさせて頂きたいと思います」


「まぁ、そんなに言うなら、頼んだよ?何かあればすぐに呼んでくれ」


「「「了解致しました」」」


 こうして島民会の人達は、野木さんに連れて行かれ、屋敷の敷地内から外へ、上倉さん達は、私に連れられ屋敷内へ移動する流れになったのだった。


「いよいよ、生き神であるあの子に会えるんだな?」

「いよいよ、真人に会えるのね?」


「ええ。間もなくですよ?お二方」


 屋敷内の廊下を移動中の三人のやり取りを聞きながら、私は上倉さん・希様の青白い顔に気付き、耳打ちした。


「(希様 お顔の色が悪いようですが、大丈夫ですか?)」


「(問題ない! 大事の前で少し緊張しているだけだ)」


 私の指摘に希様はうるさそうに顔を顰めてそう言うと、そっぽを向いた。


 希様は最近ずっと食欲がなく、よく眠れていないようだった。


 菊婆様の件は、私には「計画に支障のあるものを取り除いただけだ」と話していたけれど、恐らく相当こたえているのだろう。


 今まで、目的の為に鉄の意志をもって多くの人の死に関わっている彼女であっても、やはり肉親の死は特別ということか……。


 この最も大事な局面において、今の彼女の不安定さが計画の綻びになりはしないだろうかという懸念はあれども、自分にそれをどうこうしようとする気概はなかった。


 どちらに転ぶにせよ、私は希様に従い、その行く末を共にするのみ……。


「そちらは手筈通りやってくれたんだろうな?」

「はい。もちろんでございます。」


 希様にジロリと睨まれ、私はにっこりとそう答えた。


        ✽


 それから、贄様を茜さん、生き神様と冬馬さんを密室で二人きりになるよう取り計らった後、スタッフ達が眠る和室に戻り、希様は息をついた。


「ふうっ……。流石に精霊達を操るのは力を使うな……」


「希様。大丈夫でございますか?」


 辛そうに畳に身を横たえた希様に声をかけると、彼女は苦しげに眉根を寄せて答えた。


「まぁ、負担は大きいが、ここが計画の正念場だ。なんとか気力で保ってみせる。

 冬馬の方は気が弱い生き神をなんとか出来るだろうが、あの茜という女は彼を籠絡できるだろうか?」


「さぁ、どうでしょうね……? 贄様は、茜様とはあまり相性がよろしくなさそうに見えましたが……」


「はぁっ……。元許嫁が役に立たなかった場合は、無理矢理島の外へ連行する事になりそうだな」


 希様が苛立たしそうに前髪をかき上げた時……。


 チャ〜ララ♪ チャ〜ララ〜♪


「「!」」


 私の携帯の着信音が鳴り響き、急いで確認すると着信先は知らない番号だった。


「8◯0から始まる番号ですね。イタズラでしょうか?」

「待て、確か8◯0は衛星回線の番号だ。何か気になるから、出るだけ出てみろ」

「了解致しました」


 希様に言われ、スピーカー状態で応答すると……。


『ああ。保坂さんですか?』


 聞き覚えのある男性の声が響き、私は反射的に笑顔で答えた。


「もしかして、そのお声は先代贄様ですか?」

「!」

 希様が突かれたように飛び起きる。


『ああ。保坂、出てくれてよかった。間もなく島に戻るところだが、そちらはどうだ?』


 希様は瞳に警戒の色を滲ませながらも、「当たり障りなく対応しろ」という表情で頷いたので、私は一瞬言葉に詰まった演技をする。


「は、はいっ……。それが……。今、大変な状況になっておりまして、私が社の責任者を務めております。というのも……」


『ああ、時間がないので、長い説明はいらんぞ。お前らの正体と、お前らが菊婆の命を奪い、後継の御堂も圧力をかけ追い出し、風切冬馬を『第二の贄』として推す島民会と揉めた混乱に乗じて、スタッフを制圧した事は分かっている。』


「!!」

「先代贄様、一体何を……」


 先代贄様から音沙汰がないのはおかしいと思っていたが、我々の素性や社の様子を調べ上げていたのか。


 冷や汗が背中を伝う中、当惑した風を装うと、先代贄様は単刀直入な質問をして来た。


『生き神様をどうされたか、私はそれのみを聞いている。近くに上倉はいるか?』


「せ、先代贄様、おっしゃっている意味が分からないのですが……」


『ふっ。しらを切るか。それなら、奴に伝えてくれるか?「」と……』


「何だとっ!?」

「希様っ……!」


 先代贄様の言葉に大声を上げる希様に私も思わず諫めるような声をかけてしまったのだった……。



*あとがき*


読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。

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