第41話 蘇る記憶 《四条灯視点》

「んうっ……。んんっ……」


 嫌っ……! 気持ち悪いっ……!!


 風切冬馬に無理矢理抱きすくめられ、口付けをされ、口内を這い回る舌の不快な感触に、涙が溢れた。



 この人じゃないっ……!!


 この人じゃないっ……!!


 私が選んだのは……、私が好きなのは……、……!


 私の頭の中で何かが弾けた。



 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽



『大きくなったら、ぜったい君をお嫁さんにするからな〜!』


『そんな事出来ないわよ〜!私には役目があるもの!』


『じゃあ、将来、俺がその役目を助けてあげる人になるよ〜!』


 ――神社の境内で一緒に遊んだ事も無げにそう言って、笑ったのは……。


『えっ。でも、特別な人しかなれないの!』


『じゃあ、俺特別な人になれるように頑張る!じゃ!』


 カンカンカン……!


 ――言いたいことだけ言って、神社の階段を駆け下りていったのは……。


 タンタンタン………!


『??』


 ――その後、何故かまた階段を駆け戻って来て目をパチクリさせている私に屈み……。


 チュッ。

『……!!///』

『へへ〜。///お別れの挨拶!』


 ――私の頬にキスをして、真っ赤になりながら得意げな笑みを浮かべたのは……。


『もう、ったら、また……!///』




 ――そう。あなた真人だった……!!




 キーちゃんに内緒で術をかけてもらって、神社の境内で遊んでいる時に出会って、喧嘩しながら真人と仲良くなった。でも、私には生き神としての役割があって……。


『真人くんは、憧れなんだよね……』

『そ、そうなの……。カッコいい人なのね?』

『うん。皆の人気者なんだ。 彼に負けないぐらいカッコいい人になろうと思うの。その時に、君とまた会いたいな……。』


『え、ええ……。会えたらいいわね』

『約束だよ?』


 偶然ケガの手当てをした真人の友達の女の子の話を聞いて、将来を思うと切なくなった。


 真人にいきなりキスをされて、怒りながらも本当は嬉しかったけれど、母様に見つかって、私達は記憶を……。


 でも、それでも、私は心の奥深くでずっと真人を……!



 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 ドンッ……!!

「いやあぁーーっ!! 真人っ!!」


「うわっ……!」


 渾身の力で突き飛ばすと、目の前の相手は尻もちをついた。


「あ、あかりちゃん? 何するんだよ。 僕と君は小さい頃に将来を誓い合った運命の相手なのに……」


 当惑している風切冬馬に私は拳を握り締めて、捲し立てるように叫んだ。


「私が将来の約束したのはあなたじゃないっっ!!

 当時はあなたの事を女の子だと思っていたし、再会の約束をしただけ。最初に出会って将来を約束したのは真人よ!今思い出したわ!」


 私の言葉に、風切冬馬は愕然と呟いた。


「う、嘘……だろっ……? 僕は君と再会する為だけに今まで頑張ってきたっていうのに、あの時から君は既に真人と出来ていたっていうのかっ……?」


 ショックを受けている風切冬馬の顔に次第に怒りと憎悪の色が広がっていった。


「君まで僕をコケにしやがって……! ふざけんなよっ! このっ!!」


「っ……! いやっっ!!」


 掴みかかってくる風切冬馬の手を必死で払い除け、抵抗していると風切冬馬は嘲笑うような表情を向けて来た。


「ハッ! なにえり好みしてんだよ!

 条件さえ満たせばどんな男でも交わる。生き神なんて、そういう役割の女だろ?例え真人のような底辺カーストの猿だろうとも! 皆の人気者でエリートの僕だろうとも!

 条件を満たして目の前に現れてやったのに何で拒否するんだよ!」


「贄の選択権は生き神である私にありますっ! 私が贄に選んだのは真人!!

 あなたのような邪悪な人はお断りよっ!!」


 風切冬馬を睨みつけ、真っ向から言い返すと、彼は激昂のあまり顔を真っ赤にして、向かって来た。


「何だとっ!真人の名前ばっかり言うな! 君が何と言おうが、今、ここにいるのは俺と君だけだ! 力づくでも妊娠させてやるっ!!」


「やめてぇっ!! そんな事をしても無駄っ……。ぐっ……」


 荒々しく帯に手をかけられた瞬間、お腹が痛み、体の奥から急に込み上げるモノがあった。


 気持ち悪いっ……! 堪えられないっ…。


「うっ……。おえぇっ……!!」


 その場に蹲り戻しそうになっていると、背後で風切冬馬の気がドス黒く渦巻いた。


「……!! 吐きそうなほど嫌だっていうのか? ふざけやがって! そこまで僕が嫌いかよ!? 真人にはこの体を好き勝手させていたくせに!」


 ガッ! ドガッ!! 


「きゃあっ! うぐっ! 」


 風切冬馬に後ろから背中を拳で殴られ、蹴られ、私は苦痛と共に声を上げた。


 両手で必死にお腹を庇いながら、私は心の中で必死に叫んでいた。


 キーちゃん! ナーちゃん! 先代贄様! 助けてっ!!


 真人! 真人っ!! お願い! 私達を助けてっっ!!



 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽

《先代贄視点》


「ふうむ……。おかしいな……」

「ん? どうした、AKI? もう間もなく紅糸島に着きそうだぞ」


 私が眉を顰めて呟くと、船を運転してくれている春日は、そう言い、目の前に迫る島を指差した。


「ああ。ちょっと迎えが遅いような気がしてな……」


 一刻を争う事態故、島で最低限の用事を済ませて、予定より一日早く春日に送ってもらっていたが、それも向こうの想定済みだったのかもしれない。


 キーとナーには、私が気を感じ取れる範囲に入った時点で、迎えに来てもらうように頼んでいたが、あと少しで島に着こうかという区域に入っても迎えが来ない。

 羽坂からの連絡も途切れている。

 何か手を離せないような騒動が起きているか、あるいは……。


 精霊達を封じた札の事を思い出し、私は顔を顰めた。


 力を封じられたか……、もっと悪ければ、精神干渉を受け、敵方に操られているか……。



 いつになく大勢の人が集まっている船付き場を見遣り、私は春日に現状況を告げた。


「春日。すまないが、迎えは来ないかもしれん。その上、恐らく船付き場には島民会の奴らが見廻っていて上陸する事もままならないかもしれんな。」


「ええ! じゃあ、お前、どうすんだよ!」


 目を剥く春日に、私は肩を竦めた。


「まぁ、何とかするさ。また衛星電話を貸してもらっていいか?」


「あ、ああ……。また、例の信頼できるスタッフに電話か?」


「いや、敵に寝返ったスタッフと……20年ぶりの実家にな?」


「何だってっ!? うおっとぅ!」


 春日は俺の答えに再び目を剥き、船のハンドル操作を誤りそうになっていた。





 *あとがき*


 引き続き、胸糞な展開で大変申し訳ありません。

 来週からはいよいよ先代贄のターン。最悪の状況を打開し、真人くんとあかりちゃんを助けることが出来るのか?

 よければ見守って下さると有難いです。

 今後ともどうかよろしくお願いします。m(_ _)m

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