第84話

城へ着くと、既に父様と母様が待っていた。更にその後にはエミールの姿もある。


(あれ?なんで私だけアルフレードこいつと一緒に登城なのよ)


どうせ城で落ち合うならば、最初から一緒に来れば良かったんじゃね?と苛立ちと不満が爆発しそうだったが腕を組み、にこやかに微笑む両親にそんなことは言えず、仕方なく顔を引き攣らせながら傍へ寄った。


「まあまあ、閣下ありがとうございます」

「ローゼル。閣下との空中遊泳はどうだったかな?」


傍にいるアルフレードを見ながらニヤニヤとする二人に察した。


(あ、これ、わざとだ)


この二人は婚約相手にどちらの騎士を選ぼうが構わないというスタイルだが、愛だの恋だのに無関心な私を無理やりその気にさるつもりなのだろう。……まあ、ただ愉しでるとも言い切れない。


幼いころから「自分の愛する者と一緒になりなさい」と言われて育ったが、残念なことに前世の記憶を持って生まれてしまったので今更恋愛とか考えられない。


まあ、その感情が分からないが本当の所なのだが。


「さて、では参ろうか?」

「は?」


急に腰を引かれ、密着するように身体を押し付けながら言われた。その様子をニヤニヤしながら静観している両親に殺意が沸く。


「まあ、ローゼルちゃん。言葉遣いが悪くてよ?……それに、殿方のエスコートは黙って受ける。でしょ?」


母様に睨まれビクッと肩が震えた。


(母様……その目は娘に向けるような目じゃありません)


完全に罪人を黙らせる時の目をしていた。


観念してアルフレードの身体に寄り添っていると頭上からクスクスと笑い声が聞こえた。顔を上げると口に手を当てて必死に笑いをこらえている姿があった。いや、声が漏れている時点で堪えている意味はないのだが。


「……なんです?」

「いや、なんだかんだ言っても母親には弱いのだな」

「………………アルフレード様は母様の恐ろしさを知らないんです」


マジで怖ぇからな!!と声を大にして言いたいが、そんなことを言った日にはどんな仕置きをされるか分かったもんじゃない。


「では、閣下宜しく頼みました」

「ああ、そちらも頼む」

「承知いたしました」


アルフレードに頭を下げ、二人は会場の方へと歩いて行った。


「──で?私はこの状態からどうしろと?」


今だに腰から手を離さないアルフレードに声を掛けた。


「とりあえず、私の部屋を使ってもらう。今回お前が来ていることを知っているのはごく一部の者だけだからな」


なるほど、部屋が用意できないから私室を使えと………………


「それは駄目でしょ!!」

「何故だ?」

「要らん噂が立つでしょ!!私は部屋なんてなくても木の上で十分です!!」


元より部屋なんか期待してなかったし、木の上でだってそれなりに落ち着けれる自信がある。何より、今この男の私室なんかを出入りしてたら火に油を注でるのと一緒だ。火消しに苦労するぐらいなら最初から近づかないのが一番いい。


「要らぬ噂か……それは願ってもない事だな」


不敵に笑った顔を見て「あ、しまった」と思った時には既に遅かった。


アルフレードは軽々と私を担ぎ上げると、そのまま回廊を歩き始めた。


ふと、目線の先にエミールの姿を捕らえたので「助けて」と口パクで伝えるが、ニコッと微笑んだだけで助けてくれる素振りはない。それでも黙ってついてくるのだから、なんとも忠実な犬だこと。


そうこうしている内に私室に到着。


部屋の中は思っていたより殺風景で、物もあまりない。あるのは書類の積まれた机に本がぎっしり並んだ本棚。部屋の真ん中には小さなテーブルと長椅子が置いてあり、奥には大きなベッドがあるだけ。


王弟という立場からてっきり豪華絢爛な部屋を想像していたので、随分と拍子抜けだ。


「そんなにキョロキョロとして男の部屋は初めてか?」

「ち、違う!!それに、私だって男の部屋ぐらい入ったことぐらいあります」


得意気に言っているが、入った事があるのは父様とエルス。それにアランぐらいなもの……果たして、そこはカウントしていい者達なのか悩むが、異性には変わりない。


「ほお……その者らがローゼルとどういう関係なのか聞いても?」

「─────ッ!?!?!?!?」


冷気を感じ視線を上げると、目の前には鬼の形相のアルフレードがいた。


「いけない子だなローゼルは。男の部屋に入るという行動がどういう意味を持っているのか分かっていないようだ」


そう言いながら長椅子に覆いかぶさるようにして押し倒された。


心臓が口から出そうなほど脈を打ち、全身が発火しそうなほど熱を持ち熱すぎる。

これは耐えられん!!とエミールに顔を向けるが、明後日方向を見ていてこちらをチラリとも見ようとしない。


(お前は私の騎士じゃないのか!?)


いや、きっと騎士としての対応は間違いじゃない。多分間違いじゃなのだろうが、今だけはその間違いを正してくれ!!


鬼気迫る心の声が天に届いたのか、コンコンとノックする音が聞こえた。


「アルフレード様。お時間です」

「…………………………チッ」


この男、今舌打ちした!?


「すまないが、続きはまた後だ」


乱れた髪と服を整えながら、立ち上がるアルフレードは非常に艶っぽい。


世間のご令嬢が悲鳴を上げたくなるのもよく分かる………………って何考えてんの。


「先日伝えた手筈で頼む」

「……了解」


アルフレードが差し出した手を取り、ゆっくりと体を起こしながら伝えた。

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