第21話

えぇ-、この間の一件から数日後。改めてオースティン邸にてお茶会が開かれると言うことで、私はシャーリンの元を訪れた。

私の他に数人の令嬢が呼ばれたらしく、テーブルを囲んで雑談をしていた。


「まあ!!ローゼルさん!!!」


遅れてやってきた私に気づいたシャーリンが笑顔でこちらに駆けてきた。


「先日は申し訳ありませんでした。再びこの様な席にお呼び頂きありがとうございます」


とりあえず当たり障りのない謝罪と挨拶をする。

シャーリン以外の令嬢は私を見るなりヒソヒソと密談している。


(まあ、そうなるよね)


どうせ黒い噂しかない私がなぜ王子の婚約者であるシャーリンのお茶会に来ているんだ?って思っているんだろうな。


「先日の件はお気になさならいで下さい。それよりもお怪我は大丈夫でしたの?」

「えぇ、従者の者が身を呈して護ってくれたので私は無傷でした」


「それは良かったわ」と言いながら私をテーブルまで案内してくれた。


そこにいたのは、ヴァルデ伯爵家のシーラ。それにラングナー子爵家のアネット、同じく子爵のクラウディア・リーベルスだった。


私はあまり社交界には詳しくわないが、シーラは確か王子の婚約者候補に名が上がっていたはず。


(シャーリンと仲がいいのか?)


お茶会に呼ぶぐらいだから仲は悪くないのだろう。そう結論を出し自分の席についた。


「皆様、こちらローゼルさん。わたくしのお友達ですのよ」

「ローゼル・シェリングです。皆様にお会い出来て光栄です」


シャーリンの顔に泥を塗らぬ様、言葉を選びながら笑顔で挨拶をした。


「まあ、流石はシャーリン様ですわ。ローゼル様とだなんて」


嫌味全開な言葉を吐いたのはシーラ。

扇を口元に当て見えないようにしているが、嘲笑っているのがバレバレ。

要は「こんな女と友達だなんて、品が疑われる」と言いたいのだろう。

まあ、本当の事だから何も言わないけど、シーラこの女は中々度胸がある。

大底の令嬢は私とは距離を取り、話しかけて来ることはおろか目も合わさないのに。


だからこんな面と向かって嫌味を言われてちょっと感動している自分もいる。


「私みたいな者がのシャーリンとお友達だと心配になられますわよね。シーラ様はお優しいですわね」


王太子妃を強調しながら「シャーリンを心配してそんな口を聞いたんだろ?」と遠回しに言ってやると、シーラは悔しそうに顔を歪めた。


(私も些か性格が悪いな)


こうして始まったお茶会だが、お茶会とは名ばかり。

ここは相手の腹の中を探り合う心理合戦だった。


「それにしても、妃教育が忙しい中この様な場を設けてくださるシャーリン様には感服致しますわ」

『略:どうせ厳しすぎて逃げてきたんでしょ』

「そんな事ありませんわ。妃教育と言っても、幼い頃から教えこまれてきたものばかりですから」

『略:あんたとは出来が違うのよ』


「おほほほほ」と笑っているが、見てる方からしたら笑えない。


この場に私を呼んだのは十中八九ライバルの顔を知ってもらうためだ。

正式に婚約者という肩書きが付いたが、それを不服に思っている者もいる。

隙あらば突き落としてでも勝ち上がりたい者も。そう、目の前の令嬢のように敵意むき出しでかかってくる者とかね。


(子爵の二人はきっとシーラの取り巻きだな)


ピリピリとした空気が漂う中「やあ、シャーリン」と軽い挨拶が聞こえ、振り返るとそこにはシャーリンの婚約者のノルベルト殿下がいた。


この殿下の登場にあからさまに喜んだのがシーラ嬢。


「まあ!!ノルベルト様!!こんな所においでくださるなんて!!」


こんな所って……婚約者の家に来るのは普通だろうに……


シーラの言葉を聞いたシャーリンだが笑顔を崩さずノルベルト殿下を迎え入れた。

でも、私には分かる。シャーリンは静かに怒っている。


「殿下、来られるなら連絡の一つも頂かないと……」


なんて言ってたからね。

シーラは失言に気づいたらしく、若干顔色を青ざめた。


「あぁ、忘れてた。まあ、別に大したことじゃないだろ」


殿下は適当にあしらい、椅子に腰掛けるとお茶を手配した。


シーラはどさくさに紛れて殿下の隣をキープ。

シャーリンは溜め息を吐くと殿下の正面、私の隣に座った。


「ノルベルト様。こちらを」

「あぁ、ありがとうシーラ嬢」


シーラはお茶を持ってきた使用人からお茶を奪い、甲斐甲斐しく殿下の世話焼いている。

たまにシャーリンの方を挑発するかのような目で見てくるが、当のシャーリンは知らん顔。


「……それで?何にか御用があってこちらに来たのではないのですか?」


シーラと話をしていて一向にこちらを向かない殿下に痺れを切らし、シャーリンが問いかけた。


「婚約者の家に来るのに用事なんている?それに、こんな楽しい事してるなら僕も呼んでくれないとね?」


そう言いながらボンクラ王子は隣にいるシーラの顎を持ち上げて顔を近づけたもんだから、シーラは顔を赤らめ夢現の表情。


シャーリンは笑顔を崩さなかったが、手に持っていた扇がミシッと音を立てるほど握りしめていた。


(こいつ……本当にあの国王陛下たぬき親父の息子か!?)


国王陛下は、ああ見えて王妃様を大事にしている。

浮気もせず王妃様一筋。国民からはおしどり夫婦だと言われるぐらいだ。

そんな夫婦には三人の子供がいる。


長男は目の前のボンクラ王子のノルベルト殿下。

次男は病弱だと言われているライナー殿下。

末っ子は王女のエリシャ様。


ライナー殿下が病弱じゃなければ次期国王はライナー殿下だと言われていたが、ここ最近は伏せってばかりらしい。


末っ子のエリシャ様は私によく懐いてくれている。父様のお供として城へ来た際、まだ幼かったエリシャ様の子守りをしていたからエリシャ様は私を姉のように慕ってくれているのだ。


(シャーリンの相手がルドルフ殿下なら良かったのに……)



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