第22話
今、私は己の婚約者が目の前にいるのに、他の女とイチャコラしている男を黙って見ていると言う苦行を行っている。
私はいいけど、シャーリンからしたら面白くないだろう。
いくら王子のことを好きじゃなないと言っても一応婚約者なのだから。
いい加減このままにはしとけんな。と思ったところでシーラが動いた。
「ノルベルト様ぁ。こんな所より、わたくしの屋敷に来ませんか?今の時期は薔薇が見事に咲いておりますのよ?」
「ほぉ、それは見てみたいな」
「でしょう!?今から参りましょう?」
「そうだな。こんな所にいてもつらんしな」
その時のシーラの勝ち誇った顔。思い出しても腹が立つ。
シャーリンは止めるかと思ったが、二人を快く送り出した。
その後を取り巻きの子爵二人もついて行き、残されたのは私とシャーリンだけになった。
「はぁぁぁ、やっと帰りましたわ」
私だけになったところで、シャーリンが疲れたように椅子にもたれた。
「……良かったんですか?あれ……」
「良いんですよ。婚約者とは名ばかりで、わたくしは殿下のお目付け役として指名されたに過ぎませんから」
「そうでなければ、あんなのが婚約者なんて冗談じゃありません」そう付け加えながらシャーリンが微笑んだ。
確かに、この婚約についてクラウスから話を聞いているが好きでもない、しかも相手は節操なし。そんな奴と結婚なんて……
いくら政略結婚だと言っても、これは酷すぎるだろ。
「ふふっ。ローゼルさんがそんな顔をしなくてもいいですよ。わたくしは生まれた時から殿下と婚姻を結ぶよう言われて育ちましたから。それが例えどんなクズ野郎だとしても……」
クズ野郎って言ってるよ?
(相当我慢してんだろうだろうなぁ)
こればっかりは私ではどうすることも出来ない。
私に出来ることと言えば……
「──よしっ!!気晴らしに街に行こう!!」
「え?」
「ストレス発散!!シャーリンもちょっとは遊んだ方がいいよ!!」
シャーリンの手を取って、半ば無理やりに街に出かけることとなった。
この行動が後に間違っていたと気づかずに……
◇◇◇
この世界の商店街は活気があって私は凄く好き。
そりゃあもう、屋敷を何度も抜け出すほどに。
(その都度、母様とエルスに大目玉食らうけどね)
それでも止められない。だって私の
「ローゼルさん!!あれは何ですの!?」
私よりも興奮しているのが隣にいるシャーリン。
シャーリンは殿下の婚約者候補で命を狙われることも少なからずあった為、滅多な事では街に来れなかったらしい。
街に来てもこんな風に好き勝手歩くことを許されず、決まった店にしか行けなかったと言うんだから不憫で仕方ない。
今回は私とエルスが一緒だと言うことで、特別に街探索を許された。
(初めて街に来た子供みたい)
いつもの落ち着いた感じは一切なく、目を輝かせてはしゃぐシャーリンはまるで子供のよう。
そんな姿に「ふふ」と笑みがこぼれた。
「……何ですか?気持ち悪い」
怪訝な目をしながら言ってきたのはエルス。
そろそろこの男に従者としての口の利き方を教えようかと本気で考える。
「シャーリンが楽しそうで嬉しいのよ」
「お嬢様にもそのような感情があったのですね」
わざとらしく言ってきたもんだから、思わず睨みつけたら「冗談ですよ」とすぐに否定してきた。
「最近私の扱いが酷くない?」
「そんな事はありませんよ。どんなに手のかかる主でも、尊敬しておりますよ」
「手のかかるって誰の事よ!?」
顔色一つ変えずにサラッと言ったエルスの胸ぐらを掴んで抗議したが、ここは街の中心。
周りにはいつの間にか人集りが出来ていた。
「……ほら、お嬢様の声がデカいから」
「あんたねぇ……って、あれ?シャーリンは?」
エルスと言い争いをしていて、シャーリンを見失った事に気がついた。
「ヤバっ!!!」
「まったく、これだから手がかかるって言われるんですよ?」
「うるさい!!今はそんな事言ってる場合じゃないのよ!!手分けして探しましょう!!私はこっち、エルスはそっちね!!」
「はい」
私は右、エルスは左に向かって走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます