第23話

私はシャーリンを探して街中を走り回っている。


正式に殿下の婚約者となったシャーリンは、今や令嬢だけではなく政治の駒にしようとする輩にも狙われている。

そんな事、重々承知していたのに……


(──っち!!どこ行った!?)


息を切らし、汗が滴っているがそんなものを気にしている間は無い。


「あれ?ローゼか?」


肉屋の前で声をかけられ、足を止めた。

声をかけてきたのは肉屋の息子のハンス。街に何度か来ているうちに仲良くなった奴だ。


「ハンス!!ここら辺で一人で歩いてる女の子見なかった!?見た目は上の上、育ちの良いのが雰囲気から見て取れる貴族の子!!」


言い方が悪いかもしれないが、ハンスはシャーリンのことを知らない。かと言って殿下の婚約者とも言えない。


「あぁ~……茶髪のウェーブのかかった大人しそうな子か?」

「それ!!!」

「さっき、男数人に囲まれてあっち行ったぞ?」


ハンスが指さした方には宿屋が建ち並んでいる方向。


(よりにもよってそっち!?)


この世界には娼婦館というものは存在しない。

そこで誰が決めた訳でもないが、ただ寝泊りをする宿屋と異性を買ったり、逢い引きしたり、体を重ねたりする宿屋の二通りの宿屋街ができあがった。


まあ、簡単に言えば花街。


そして、シャーリンが連れていかれた方角の宿屋は後者の方。

シャーリンの貞操がヤバイ!!!


それと同時に私の命もヤバい!!

無理やり街に連れ出した挙句に誘拐され、純潔を失ったなんて陛下や父様、更には母様にバレた日には私の命がない。


私はハンスにお礼を言うと、すぐさまシャーリンが連れ込まれたであろう宿屋街へ走った。



◇◇◇



宿屋街へ一歩足を踏み入れると騒がしい雰囲気が一変、艶っぽい雰囲気に包まれた。

あちらこちらでは男女がイチャイチャ身体を擦り寄せながら歩いており、物陰では抱き合っている者もいた。


(この中の何処かにシャーリンが……)


ここの宿屋は10軒。一つ一つ当たっていては間に合わない。


(仕方ない……)


「──ルド」


物陰に隠れ、もう一人の従者ルドを呼びつけた。

すると、すぐに黒い渦の中からルドが現れた。


「何や?僕を呼ぶなんて珍しぃなぁ」


気だるそうに登場したルドは、これまた気だるそうに問いかけてきた。


「説明は後。シャーリンの居場所を教えて欲しいの」

「──シャーリン?……あぁ、王子さんの婚約者の?」

「そう!!それ!!早くして!!時間が無いの!!」


「グズグズするな!!」と叱責すると「せっかちやなぁ」と言いつつ、真顔になりシャーリンの居場所を探り始めた。


「ここから、3件目の2階の角部屋やな……けど、早う行かんと数人の男に羽交い締めにさとるよ?」

「分かってるわよ!!」


ルドに言われた通り3件目の宿屋に入った。


「いらっしゃいませ~!!」

「ルド、対応宜しく!!」

「え!?はぁぁぁ!?」


店主と話してる暇は無い。面倒ごとは全てルドに丸投げし、私は一目散に2階の角部屋に行き、ドアを蹴り破った。


すると、ベッドに男3人に押し倒されているシャーリンを見つけた。


服は……まだ着てる!!!


「ローゼルさん!!!!」


シャーリンは涙を流しながらも、私が来たことに顔が綻んだ。


「おいおいおい、なんだ?お前も仲間に入りに来たのか?」

「おっ!!こっちも中々の上玉じゃないか?」

「売り飛ばす前にこっちも味見しとくか」


一人はシャーリンが逃げない様に押さえ込み、残り2人は私を捕らえるためにやって来た。


(……クソ共が)


スッとスカートを捲り上げると「なんだ、やる気満々じゃねぇか!!」と悦んでいたが、それも一瞬。

男は眉間にナイフが刺さり、血を噴き出し倒れたんだもの。


「なっ!?」


残りの2人が顔色悪くしたけど、すぐに事態を把握して私に飛びかかってきた。


「シャーリン!!目を瞑っていて!!」


シャーリンは私の言う通りギュッと目を瞑ってくれた。

それと同時に響き渡る叫び声。


流石に他の客も何事かと部屋を覗いてきたが、血飛沫で真っ赤に染まった部屋を見て全員一目散に逃げて行った。


「ヒュゥ~、また派手にやったなぁ~」


ドアの縁にもたれながら部屋の中の惨状を見てルドが言ってきた。

その後ろにはここの店主であろう男が泡を吹いて卒倒している。


「──ルド、悪いけどこの部屋元戻してくれる?」

「まったく、僕の主は人使いが荒くてかなわんなぁ~」


文句を言いながらも、部屋を元の状態に戻してくれた。


「あれ?死体は?」

「あぁ、このままやと面倒や思うて、人気ない所に捨てといたわ」


「何処に?」とは聞かない。

ルドの顔を見れば大体の見当はつく。


それよりも、ベッドの上で震えているシャーリンの方が問題だ。


「シャーリン!!大丈夫!?」

「……えぇ、ローゼルさんが必ず助けに来てくれると信じてましたから」


顔を引き攣らせながらも笑顔を見せてくれたシャーリンを抱きしめた。


「ごめんね!!私が街に誘ったばっかりにこんな目に合わせちゃって!!」


そもそも私が無理やり連れてこなければこの様な事にはならなかった。

全ては私の責任。


「──……謝らないで下さい。自由に街を歩けることが嬉しくて周りを見ていなかった私に非があります。自業自得なんです……」


シャーリンは俯きながら私に伝えてきた。


そのまま沈黙が続き、重苦しい雰囲気になった。

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