第24話
「お嬢様!!!」
沈黙を破ったのは、ようやく現場に到着したエルスだった。
エルスはこの場所を特定するまで走り回っていたのだろう。額から汗が滴り落ちているし、シャツはベッタリと体にくっ付いている。
「どちらも無事ですか!?……って、お嬢様……その血は何です!?もしや、お怪我を!?」
エルスは私の服を掴み、そのまま脱がしそうな勢いで聞いていたから慌てて、今までの経緯を話した。
「──……なるほど……という事は、そこにいる男は黒魔術師で、更にはお嬢様と主従関係にあると……?」
「そ、そうなの。だから手遅れになる前にシャーリンの居場所が分かったって訳。魔術師便利でしょ?」
「あは?」ととぼけたように笑って誤魔化したが、エルスはギロッと睨みつけたまま。
まさかこんな形でエルスにルドの事がバレるとは思いもしなかった。
「──……おかしいと思ったんですよね。自分の世話もろくに出来ないお嬢様が獣なんて拾ってくるはずありませんからね」
「ちょっと!!自分の世話ぐらいできるわよ!!」
「僕は獣やのうて豹や!!」
私とルドが反論したが、エルスは私達を睨みつけて一言「煩い」と言いやがったが、これ以上エルスの怒りを買うのはまずいと判断。大人しく黙りました。はい。
「はぁ~……この件は一旦持ち帰ります。今はシャーリン様のケアが先決です」
今だベッドの上で震えているシャーリンを見ながらエルスが言った。
エルスの言っていることは最もだ。こんなくだらない事で言い争っている場合じゃない。
私達はすぐにシャーリンの自宅であるオースティン邸へ急いだ。
◇◇◇
屋敷に着いたシャーリンはホッとしたのか、すぐに眠りについた。
私はシャーリンが眠りについたのを確認すると、オースティン侯爵に会って、今までの経緯を報告し誠心誠意謝罪した。
しかし、オースティン侯爵は叱責するどころか無事に助け出してくれた事に感謝の言葉をかけてきた。
「あの子が勝手にはぐれた事は分かっています。ローゼル嬢には感謝はすれど叱責するなど出来ません」
そう言われた。
その言葉に私も救われたが、問題は
「──……ローゼルちゃん?ちょっと……」
はい。シェリング家に戻ってきて早々母様からの呼び出し。
周りの使用人達の目を見れば分かる。
──あっ、死ぬかも……
エルスとルドを道連れにしようかと探したが、エルスはしれっと母様の元に。ルドは黒豹になって母様の足元に擦り寄っている。
(きったねぇぇ!!!)
私の味方はゼロだと言うことが判明した瞬間だった。
連れてこられた先は地下にある武術場。
なんせシェリング家は表向き商家だから、地下に武術場がある。
地下にあれば誰に見られることなく訓練できるし、技を盗まれることもない。
「今回、シャーリンちゃんとはぐれたと聞いたけど、貴方……いつからそんなに周りを気にしなくなったのかしら?」
母様の目付きにゾクッと悪寒が走った。
「……すみません……私の不注意です」
「そんな事聞いていないの。いつも言っているわよね?常に周りを気にしなさいって」
「はい……」
「そんな事も出来ない出来損ないはシェリング家には不要。今の貴方は不要な人物です」
ハッキリと私は要らないと言われた。
エルスが何か反論しようとしたが、母様に睨まれて黙った。
「──……けれど、それは私にも責任があるわ。最近はエルスにばかり頼って、貴方の稽古を疎かにしていたものね」
そう言うなり、私の足元に木剣を投げ「拾いなさい」と。
「さあ、ローゼルちゃん。母を殺る気で来なさい。手を抜いたら、貴方が死ぬわよ?」
母様の雰囲気が変わった。
これは
母様直伝暗殺武術──……
母様の殺り方は繊細かつ俊敏。それでいて美しい、しなやかな動きが特徴。
父様はどちらかと言えば頭脳派。
幼い頃から頭を使いたくないと思っていた私は、真っ先に母様のやり方を真似ることにしたのだ。
ふぅ-と息を吐き、キッと前を向くと母様目掛けて飛びかかった……
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