第25話

その後、母様のしごきは休憩無しで朝方まで続けられた。

体中至る所に痣ができ筋肉痛に襲われ、しばらく体を動かすのに苦労した。


そして、ようやく体が動けるようになった本日。

私は父様の執務室に呼ばれた。


目の前には頭を抱えた父様。その隣にエルス。

そんな二人を前に私は正座でお説教を聞く準備万全です。


何故説教だと分かるか?

だって、私の後ろに人の姿をしたルドが立ってるから。


エルスの奴、私が動けるようになったタイミングでルドのことを父様にチクリやがったみたいで、逃げるまもなく父様に呼ばれた。


(てっきりあやふやにしてくれてるんだと思ってたのに……)


ジロッと恨みを込めた念をエルスに送るが、エルスは素知らぬ顔。


「……ローゼル。私はお前には自由に伸び伸び育って欲しくて多少の事には目を瞑ってきたが……まさか魔術師と契約を結んでくるとは……」


盛大な溜息と共に父様が苦悶の表情をしながら言ってきた。


「で、でも、父様?そのおかげでシャーリンの居場所が分かったのですよ?」

「ローゼル。母様から聞いてるよ?今回の件は、周りに気を配れなかったお前の責任だ」

「……はい……すみません……」


久々に見る、父様のこの目は本気まじで子供を叱る時のものだ。


(やっべぇ、自分で地雷踏み抜いた)


ここはもう、大人しくしといた方がいいと判断。


(今から私は貝になります)


足が痺れてきたがそんなもの気にならない程、目の前の父様の視線が痛い。


「なあ、一言ええか?」

「……何だい?」


ルドが父様に問いかけた。


怖いもの知らずって恐ろしい!!


「自分で言うも何やけど、ぶっちゃけ僕を仲間にしといた方があんたらには都合ええんとちゃうの?」

「なに?」


父様の雰囲気が変わった。


(お願い!!ルド、余計なことは言わないで!!)


私は心の中で必死に祈った。


「あんたら、スミリアと敵対してんのやろ?──……僕、スミリアの人間やで?」

「「は?」」


思わず私も声が出た。


「僕は元々ヘルツェグ男爵家の見張り役としてこの国に来たんよ」


それは、初耳何ですけど?なぜ、そう言う重要な事を先に言わないんだこの男は!?


「正直、ヘルツェグ男爵家あのおっさんには見切り付けててん。そこにお嬢が現れた」


「だから乗り換えた」と簡単に裏事情話してくれたんだけど……


「──お前がスミリアの人間だと言うなら、尚更うちの娘の傍にはおけない」


父様が殺気めいた目でルドを睨みつけた。


そうですね。だってスパイを傍においているのと同じだもん。

スミリアにこちらの手の内が筒抜けになってしまう。


「あんたらアホか?お嬢と僕、主従関係結んだって言ったやろ?主に危険が及べば僕だってタダじゃすまんのやで?」


確かに、術者と主従関係を結ぶと言うことはそう言う事だ。

しかし……


「私はこの男を信じられません」


エルスがルドを挑発するように前に出てきて言った。


「何や?いざとなったら役立たずの癖に僕に意見するん?……負け犬ほどよく吠えるって言うしな」

「貴様──!!」


いつもはこんな安い挑発に乗らないエルスが珍しく血相を変えてルドの胸ぐらを掴んだ。


「──やめろ」


地を這うような低い声に私は勿論、エルスとルドも一瞬で息が止まるかと思った。


なんて言うの?

声で殺せる。いや、マジで。

本能的にヤバいと体が叫んでいるのか、尋常じゃない汗が出てくる。


「ローゼル」

「は、はい!!」


急に名を呼ばれて驚いた。


「契約を結んでしまった以上仕方ない。3日やる。この男が本当に信頼に値するのか、そして使えるかどうか、お前が判断するんだ」

「えっと……不要だと、信頼出来ないと判断した場合は……?」

「消す」


判断する前から殺る気の父様は、ルドに「私に消さることにならん事だ」と一言。

ルドは「こっわ……」と苦笑いしながら呟いた。


エルスは面白くない顔をしていたが、当主である父様の言葉は絶対。

それは、私でも母様でも覆せない事実。


とりあえず、私は今から3日の間にルドを見極めなきゃいけなくなった事実に頭を痛めたことだけ言っておこう。

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