第40話

アルフレードが止めに来たのでルドが渋々解放したが、解放した瞬間アルフレードがダズの胸ぐらを掴みあげた。


(……言ってる事とやってる事違くね?)


「今すぐ私の部下達を元に戻してもらおうか?」

「はんっ、そんな聞いてやる筋合いないってーの!!──っく!!」


唾を吐き捨てる様に言うもんだから、アルフレードが握っている手に力が入ったのだろう。ダズは首を絞められて必死にもがいている。


「もう一度言う。元に戻せ。……三度目はないぞ」


そこまで言ってようやく観念したのかダズは大人しく解術した。

ルドが確認したから間違いない。


騎士達の顔色を見て安堵の表情をするアルフレードを見て、この人も人の子だったんだなと歓喜深い気持ちになった。


その後、割とすぐに目を覚ましたティーダに経緯を説明し、ダズを王都まで護送する事になった。

その護送役に選ばれたのが……


「ぼ、僕ですか!?」


新人団員のグラムだった。


新人に魔術師の護送は危険だと言ったのだが、誰一人私に賛同する者がいなかった。


「まあ、僕が術使えようしであるし大丈夫や。それに、彼、このままここに残るより安全やと思うよ?……色んな意味で」


周りの騎士やルドに説得され、仕方なく承諾した。


(ああ~、私の癒しが……!!)



◇◇◇



「それでは、行ってまいります」

「本当に大丈夫!?何かあったら殺してもいいからね!!」


小柄の竜に乗り、元気よく手を振るグラムに何度も注意するよう伝えた。


「あちらにはクラウスもいるし、新人とは言え騎士だ。心配するほどのことでもない」

「そうですよ。お嬢様が心配すればするだけ彼のプライドを傷付けているのですよ?」


案の定アルフレードとエルスに責められた。

自分でも過剰かな?と思う節はあったが、放っておけないのだ。


「ローゼル様。またすぐに合流しますから、それまで待っていてください」


とまあ、可愛い笑顔でお願いされたら仕方がない。

大きく手を振り小さくなっていくグラムを見送っていると、ポンッと肩に手を乗せられた。


「では、我々も出発しようとしようか?」


振り返ると獰猛な笑みを浮かべたアルフレードがいた。

そして、そのまま当たり前のように黒竜に乗せられ、そのままスミリアへと飛び立った。


「──……ローゼル嬢は、あの様な男が好みなのか?」

「は?」


飛び立ってから暫くすると背後からそんな言葉聞こえた。


あの様な男とは誰の事だ?

タイプを聞かれたとなると、傍から見て好意がある様に見えた相手……あぁ


「……もしかして、グラムの事ですか?」


聞き返すと、手網を握っている手が微かに反応した。


確かにグラムは可愛いとは思うが、それは恋愛感情とかではなく愛玩動物枠だ。

けれど、他人の恋愛なんぞに興味が無いと思っていた相手からの質問に思わず口角が上がった。


(ちょっと揶揄ってやるか)


「まあ、タイプかタイプじゃないかと言えば、今の段階では何とも言えませんね」

「それは何故だ?」

シェーリング家うちはこんな感じなんで、弱い人間は使用人ですら雇わないんですよ。それが結婚となれば父様を負かすほどの相手じゃなければいけません。グラムはまだ新人でこれから先の伸びしろがあります。それを見越して判断は保留にしておきます」


否定も肯定もしない答えに不満そうな顔をするアルフレードだが、元より結婚するつもりがないのだから仕方なかろう。

それよりも自分はどうなのだ?


「逆に閣下はどうなのですか?」

「私か?」

「ええ、認めたくありませんがモテるのは事実じゃないですか。それなのに特定の人を作らないとなれば、何故なのか興味がありますからね」


既に結婚適齢期は過ぎているが、今だ人気が衰えないのに浮いた話を一度も聞いたことがない。

同じ団長であるクラウスとは大違いだ。


「私の事が気になるか?」

「いえ、ただの興味です」


ここでタイプを聞き出せれば、アルフレードに好意を寄せている令嬢にその情報ネタがいい値で売れる。


令嬢には感謝され、恩を売ることもできるし懐も潤う。なんて素晴らしい!!


「そうだな……あえて言うなら、懐かない猫……だな」

「猫?」


しかも懐かない?

変わり者だとは思っていたが、ここまでとは思わなんだ。

これでは情報ネタとしては弱い。


「最近はその猫が気になって仕方ない。出来ることなら私の手の届くところに置いておきたいが、なにせ言うことを聞かんからな」


「まあ、その方が捕まえがいがある」と微笑むアルフレードはどことなく楽しそうだった。


どうやらアルフレードには気になる人がいるようだが相手にされていないとみた。


(ふ~ん。以外だな)


性格に難があるとはいえ、優良物件に変わりない。

そんな男の手を取らない令嬢がいるとは……


「団長ー!!見えてきたー!!」


物思いに耽っていると、ティーダの声が響いた。

ティーダが指さす方を見ると真っ白な城が見えた。

大きさはガドル王国うちと対して変わらないが、街の風貌は全然違う。


「……思った以上ね」


一見すれば活気があって栄えているように見える街中だが、地上から見れば偽りだと分かる。


賑わっているのは街の中心部のごく一部のみ。

中心部から外れればそこは貧困街。

あちらこちらで物乞いや窃盗が横行している。


この国の王がどれだけ民の事を考えていないかよくわかる。


「……手加減出来るかしら……」


あまりの酷さに思わず心の声が漏れてしまった。


「殺すなよ?」


釘をさすようにアルフレードが言ってきた。

父様からも言いつけられているからしない。

けど、約束は出来ないので返事は出来なかった。


城に着いたら別行動になる。

アルフレードら騎士は、騎士専用宿舎へと。

私とエルスは客人として城へ。ルドはあまり姿を見られたくないらしく陰から私を見守ってくれることに。


「いいか、ここに降りた瞬間から敵の陣地に入る。何かあったらすぐに私を頼れ。一人で突っ走ることは絶対にするな」


心配しているというより子ども扱いに等しい。


「あ~はいはい。分かりましたよ」と適当に返すと、背筋に悪寒が走った。

ゆっくり振り向くと、そこには大魔王がいた……


「……一人で突っ走るな。いいな?」


凍てつくような鋭い視線に反論しようとしたが、コクコクと頷くことしか出来なかった。

アルフレードは満足した表情で、着陸の指示を出した。


さあ、参りますか?

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