第39話

その手を掴んでいたのはアルフレードだった。

アルフレードは頭を抑えながらゆっくり体を起こし、必死に今の状況を把握しようとしていた。


「……ローゼル嬢、簡潔でいい状況を教えてくれ」


そう問われ、これまでの経緯を話した。

本当に簡潔に話したので、理解が追い付かないかもしれないと思ったが「分かった」と一言だけ言って剣を手に取った。


流石は団長だ。状況を理解するのが早い。


「──何故私が目を覚ましたのか不思議そうだな」


静かに落ち着いた声でダズに話しかけるアルフレードだが、その表情は怒りに満ちていて私ですら息を飲むほどだった。


ダズは悔しそうにしていたが「ふははははは!!」と高々に笑った。


「別に?ちょっと心を乱された僕のミスだし。結果が全てでしょ?」


どうやらルドとの一件が功を奏したらしい。

とは言え、他の団員は目覚める様子がない。

まあ、アルフレードだけでも目が覚めて良かったと思うしかない。

それに形勢的には若干こちらが有利に見えるが、ダズの言い方して何やら策がありそうな感じなんだけど……


残念ながら、その予想はすぐに的中することになった。


ダズは不気味に笑いながら両手を広げ──……


「さあ、遊びの時間だよ」

「──っな!!」


その一言で、今まで気を失っていた騎士が起き上がりへ攻撃してきた。


「いや~こりゃやられた。傀儡か」


ルドがそんな事を呟いた。


「呑気なこと言ってんじゃないわよ!!どうにかしてよ!!」

「いやいやいや、無理やり解いたらそれこそ?」


主であるダズに解かせるか殺すしか方法がないって事らしい。


アルフレードは顔色一つ変えずに騎士を一人一人手際よく片付けている。

片付けると言うが、気を失わせてるだけだ。

ただ、その行動があまりにも躊躇がないから逆に心配になる。


竜騎士団ここに配属された人可哀想……)


「お嬢!!!!!」

「えっ……──っげ!!!」


キーーーーーン!!!


アルフレードに気を取られて自分に向かってくる刃に気づくのが遅れた。

私に剣を向けてきたのはエルス。

その目は獲物を確実に仕留める目をしていて、思わず顔が引き攣った。


「ちょっと勘弁してよ……」


いくら稽古で剣を交えていたとは言え、エルスに一度も勝てたことがない。

しかも力を抑えた状態で負けているんだから本気マジで殺る気のエルスに勝てる要素が何一つない。


(とは言え、殺らなきゃ殺られる)


こうなればヤケだ。


「受けて立ってやるわよ!!かかってきなさい!!」


──……なんて強気に出たものの、本気のエルス舐めてた。


スピード、威力それに殺気が半端ない。


(隙が無さすぎる!!)


今までどれだけ手を抜かれていたのか身に染みて分かる。

それが悔しくて無様で弱過ぎる自分が嫌になる。


こっちは息が上がっているのにエルスは今だにすました顔でこちらを睨みつけている。

その顔が無性に腹立たしくなった。


「あんたねぇ!!主人に刃物向けていいと思ってんの!?そんな従者はいらないわよ!!」


──……ピクッ


(おや?)


「そうね……ルドが来たことだし、今日から私の専属従者はルドにするわ!!今この時を持ってあんたはクビよ!!」


ビシッと言い切ってやると、俯きながら聞いていたエルスはグッと剣を握りこちらに猛突進してきた。

慌てて剣を構えたが、二秒遅かった。


エルスの剣は私の頬を掠め、木に突き刺さった。


「……クビ……とは些か承諾できませんね」


耳元で囁かれた言葉に目を見開いた。


「え、エルス……正気に──?」

「ええ、お陰様で。何とも目覚めの悪いものでしたが?」


そう言うエルスの表情を見てヒュッと息を飲んだ。

私を映しているその瞳には怒りの炎が揺れ動いていた。


「いや、あの、誤解があるかと思うけど、これは洗脳を解くためで……」

「分かってますよ。……この件に関してはゆっくり聞くことにします」


慌てて取り繕ったが、問答無用だと言うように睨まれ私は蛇に睨まれてたカエル状態で「……はい」と小さく返事をするのが精一杯だった。


「さて、こんな馬鹿げた事をした命知らずはどちらです?」


思った以上に激おこのエルスと共に辺りを見ると


「あれ……?」

「どうやら、片はついたみたいですね」


「チッ」と舌打ちが聞こえたが、そこは聞こえないふりをした。


まず、騎士達はアルフレードにより全滅。

副団長であるティーダだけ少し手こずったようだが、そこは団長。

部下に負けるはずがない。


「まったく、ここまでしても目が覚めんとは……これは今後の課題だな」


なんて呟くアルフレードは不敵な笑みで転がっている部下を見下ろしていた。


(ご愁傷さま……)


そっと心の中で手を合わせ、今後の騎士達の今後を祈った。


そして今回の犯人、ダズだが……


「お~お~、弱いくせによぉ僕に突っかかって来おったなぁ?……お前、僕を怒らせてタダで帰れるんと思ってんちゃうよな?」


ボロボロになったダズの上にルドが腰掛け、足を組みながら見下すように微笑み蔑んでいた。

ダズは悔しそうに唇を噛み締めながら睨みつけている。


「うるさい!!!元はと言えばお前のせいでこんな事に!!」

「はぁ?自分が弱いの僕のせいにせんといてくれる?」

「──ぐっ!!」


ルドが黙らせるように頭を地面に食い込ませた。


「そもそもお前誰やねん」


この期に及んでも尚分からないらしい。


「──ッ!!!なんで僕のこと忘れてんだよ!!」

「だ・か・ら、知りませんって言うてるやろ」


唇を血が出そうなほど噛み締めるダズ。

可哀想だが、相手がルドじゃなぁ~……


「お前は僕の兄弟子だろ!?なんで分かんないんだよ!!あれほど……あれほど良くしてくれたのに!!僕はお前に憧れてたんだ!!」

「ああ~……」


何かを察したのかルドが頷いた。

因みに、このやり取りを見ていたエルスが「あれに憧れるとは、大層変わり者……いえ、奇特な方ですね」と呟いていた。


「そういや、師匠あいつが弟子拾ってきた言うて面倒見せられたことあったなあ。せやけど、そないなもんいちいち覚えとれんわ」

「──っ!?!!!」


辛辣!!辛辣ですよルドさん。


その言葉を聞いたダズは怒りで残りの力を振り絞ろうとした。

すぐにルドが気づき、重力を掛け地面に食い込ませた所で止めが入った。


「その辺にしといてもらおうか。そいつにはまだ聞きたいことがある。殺されては敵わん」


止めたのは言わずもがなアルフレードだった。

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