第38話
男はどうやらこの霧で道に迷ったらしく、話し声を頼りにここに辿り着いたらしい。
「いや~良かった。あやうくのたれ死ぬところでしたよ~」
安堵の表情を浮かべた男は温め直したスープを口にしていた。
ティーダがアルフレードに許可を取りこの男を保護することにしたらしい。
この男、名をダズと言うらしく見た感じ普通の町青年という感じで愛嬌もあり、すぐにその場に馴染んでいた。
話に花が咲いていたが、夜も更けてきたのでさっさと寝ろというお達しがあり各自、分けられたテントに入り眠りにつくことになったのだが、私は先ほどの怪談話が後を引き眠れずにいた。
自分でもこんなに怖がりだとは思っていなかった。
怪談話なんて初めて聞いたかもしれない。前世では「くだらない」「そんな非科学的なものいるはずない」とみんな現実的だったから話すらしなかった。
(こんなこと
更に馬鹿にされるのが目に見えて分かってる。
溜息を吐きながら目を瞑り寝ることに努めた。
◇◇◇◇◇
どれほど時間が経っただろう……
何やら周囲の気配がおかしいことに気が付き目が覚めた。
「ようやく眠れてたのに……」
のっそりテントの外に出てみると、辺りの光景に目を疑った。
「…………は?」
先ほどの雰囲気とはまったく別人のダズが騎士を足蹴にしていたのだ。
その足蹴にされているのは意識のないグラムだった。
「ちょっと!!なにしてんの!?その足どかしなさい!!」
「あれ?君はなんで動けるのかな?──……ああ、そうか」
「いや、なに意味分からんこと──!!」
「お嬢!!」
飛び掛かろうとした所でルドに体当たりされ、そのまま一緒に地面に転がった。
「いてててて……何すんのよ!!」
「ちょい落ち着き!!よう見てみ!!今動けるんは僕らだけや!!その意味分かっとるか!?」
ルドに一喝されグッと黙った。
改めて辺りを見渡すとグラムはもとより、エルスや団長であるアルフレードまでもが倒れているではないか。
「は?どういう状況なのこれ……」
「いいか、よく聞き。あいつは術者や。お嬢は僕と契約しとるから影響は受けんかったみたいやけど、他の奴は
これ程までにない真剣な表情のルドにこの状況がいかに切迫したものなのか思い知らされた。
(ルドがこんな事言うってことは、相手は相当な使い手って事?)
「因みになんだけど、お知り合い?」
「知らんな」
相手の事を知ってそうな雰囲気だったのでルドに確認したが、即座に否定の言葉が返ってきた。
「あははは!!随分な言い方してくれるね?……君がいなくなったおかげで僕らがどれだけ尻拭いしたと思ってんの?」
「ありゃまぁ、そりゃご苦労さん。そやけど、そんなん頼んだ覚えないしなぁ。僕に恩を売るつもりなら国一個持ってくるぐらいやないとなあ?」
お互い睨み合いながらも一切目を逸らさない。
「──って言うかあんた!!術者って分かってたなら言いなさいよ!!」
思わずルドの胸ぐらを掴み怒鳴った。
そりゃそうだ、ダズが術者だと最初から分かっていればこんな事になっていないのだから。
「いやいやいや!!ホンマにこいつ知らんねん!!」
「向こうは知ってるみたいですけど?」
「あっ!!お嬢、信用しとらんな!!いまさっき会った奴信じるん!?僕悲しいわァ~!!」
ジト目で問い詰めるが、どうも本気で知らないっぽい。
(いや、忘れてるだけじゃね?)
自他共に認める適当男であるルドの事だ、単純に忘れてるだけに違いない。
「ふ~ん。そう……君、僕の事忘れたんだ……」
ほらね。
「忘れたもなにも、知らんもんは知らん。そもそもお前に興味が無いしな」
「──っ!!!!!」
その言葉を聞いたダズの雰囲気が変わった。
これに関してはルドが全面的に悪い。
「僕がどんな思いで……!!」
あっ、これはまずいやつ……
そう思ったの同時にルドと一緒に吹き飛ばされた。
「もお!!なんでこんなに飛ばされなきゃいけないのよ!!」
「まあまあ、愚痴は後でいくらでも聞くで」
態勢を整えながら苛立ちをルドにぶつけると、へらへら笑いながら宥められた。
ダズは禍々しい影を纏いながらこちらを睨みつけていた。
その表情はどこか寂しげで悲しそうだった。
ダズはルドと親しい関係にあったのだろうか。もし、そうならその関係を全否定されたのだ、そりゃ怒るに決まってる。
そう思うと不憫に思えてきた……
(とはいえ、この状況を許せるほど仏心は持ち合わせてない)
地面に落ちていた剣を拾うとしたらその手を掴まれた。
その手を掴んでいたのは……
「閣下!?!!??」
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