第30話
「ふぅ~……やっと最後の一匹。さてと、じゃあルド頼むわ」
「ほんに人使いが荒いなぁ~……」
ダークウルフを一匹残さず魔法陣へ運び終えると、ルドは気だるそうに最後の作業に入った。
淡い光が放たれた魔法陣に包まれたダークウルフは一瞬にして魔法陣からその姿を消していた。
無事に元の場所へ送り届け、一件落着。……と思っていたが、どうにもルドの様子がおかしい。
「ねぇ、どうかしたの?」
「ん?何がや?なんも変わりないやろ」
顔を覗き込みながら聞くが、返ってきた言葉はいつもの軽口。
ヘラヘラ笑っているが、主従関係を結んでいる私に嘘が付けるはずがない。
何か不安がある。そう感じた。
「……ルド」
真っ直ぐ目を見ながらもう一度問いかけると、観念したのか頭を掻きながらその場にドカッと座り込んだ。
「ったく……こんな事になるんやったら主従関係なんて結ばんかったわ……」
「……何かあったの?」
「……
「はあ!?」
今、とんでもない事を聞いた気がする……ルドの師匠が犯人……?
って言うか……──
「あんた、師匠なんていたの!?」
「驚くとこそこなん!?」
いや、だって……ねぇ?
「はぁぁぁぁ~……どっかで見た術式だとは思っとった。解いてくうちに疑念が確信に変わったんよ……」
頭を抱えながら唸るように言葉にするルドになんて言葉をかけていいのか分からない。
黒魔術師だから仕事と言えば汚れ仕事ばかりだと思ってはいるけど……
ルドの様子を見る限りあんまり悪い師匠ではないんじゃないか?そう思ってしまう。
ルドも私が思っている事が分かったようで、小さく溜息を吐いた。
「……師匠は白魔術も使えるんよ。世間の人間は師匠が黒魔術を使えるんは知らん。師匠が隠しとった」
「えっ!?まさか……両術師!?ありえない!!」
この世には黒魔術とは違い白魔術と呼ばれる善良な魔術がある。
白魔術師は基本的には教会や医療関係、一部は王家に配属され待遇は官僚並。
たが、魔術師は黒か白どちらか一方しか術は使えないはず。
両術師なんて聞いた事も見たこともない。
そこで「はっ!!」とした。
先程のエルスの傷を治したのも……もしかして……!?
私が何を察したのかルドにも分かったようで、困ったように微笑んだ。
「……ご名答。僕も少しだけ白魔術を使えるんよ。けど、みんなには
ルドの答えを聞いて納得した。
白魔術なら傷を治すなんてお易い御用だわ。
……なるほど、そういう事か……こりゃ、父様にバレた日にはただの説教じゃ済まされない案件だ。
バレた時の事を考えると「ははっ」と乾いた笑いしか出てこない。
「まあ、僕ができるんは傷を治す程度やし、本業は黒魔術師やからな」
まあ、ルドらしいな。と自然と顔が綻んだ。
◇◇◇◇
エルスが目覚めたのは四日ほど経った時だった。
知らせに来た侍女も涙を浮かべて喜んでいたのを覚えている。エルスの父である爺やは、
私は絶対大丈夫だと信じていたから、今回は泣かなかった。
絶対泣いてやるもんかと心に誓っていた。
その代わりと言っては何だが、一言物申さずにはいられなかった。
「──エルス」
「お嬢様……」
ここまでは感動の再会だろう。
私はスゥーと息を吸い込み、目覚めたばかりのエルスの胸ぐらをつかみ怒鳴りつけた。
「こっっっの馬鹿!!!何で瀕死の状態で私を助けたの!!明らかに自殺行為よ!!そんなに死にたかったの!?」
私の思わぬ行動に周りにいた侍女が思わず止めに入ったが、そんな事はお構い無しに続けた。
「それとも何?私がそこまで弱いと思ってんの!?馬鹿にすんじゃないわよ!!あの時も言ったけど、私は由緒正しい暗殺一家の娘なのよ!!それに──……!!」
一度口にし出したら止まらなかった。
けど「その辺にしとき……」と人の姿に戻ったルドが間に入り強制的に止められた。
侍女達は急に登場した
そして私達だけにして欲しいと頼み部屋を出て行ってもらった。
「……どうやら貴方には借りが出来てしまった様ですね……」
「──お?返してくれるん?そりゃを楽しみにしとらな」
「貴方に助けられたという事実が気に食わないので、早い段階で借りはお返しします」
「そりゃそりゃ、難儀な事で……」
苦笑いしているルドを見て、何だかんだこの二人は似た者同士だなと思ってしまう。
喧嘩するほど仲がいいって言うしね。
「まあ、これ以上貴方に関しては話すことがないので出て行ってくれて結構です。お疲れ様でした」
「おまっ!!それが命助けてもろうた人への言葉ですかぁ?」
「先程その件については話は済んでますからね」
「はぁぁ~……相変わらずやな」
ルドは文句を言いいながら壁にもたれていたが「まあ、あんたはそうやないとな……」と小さな声で呟いたのを私は聞き逃さなかった。
「──……さて、お嬢様」
「な、何よ……!?」
エルスにギロッと睨まれ、思わず尻込んだが強気に言い返した。
「……申し訳ありませんでした……」
出てきた言葉はまさかの謝罪だった。
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