第31話
「えっと……それはなんに対しての謝罪?確かにさっきのは我を忘れて怒鳴っちゃったけど、謝る程の事じゃ……」
「いいえ。私はお嬢様を護るどころか護られてしまいました。……私は従者失格です」
珍しく汐らしいエルスに驚き、戸惑っている自分がいる。
いや、私だけではなく隣にいるルドも腰を抜かさんばかりに驚いている。
いつもの私なら揶揄っている所だが、今はそんな空気じゃない。
さすがの私でも空気は読める。
(これは……)
下手に慰めると返ってエルスを惨めにさせるし、肯定すれば今のエルスは本気で従者を辞めかねない。
悩みに悩んで言葉が出ずにいると、この空気に痺れを切らしたルドが口を開いた。
「なんや?そんなら従者辞めんのか?そんなら僕が代わりにお嬢の従者になったるわ」
「「は?」」
エルスと声が被った。
「僕とお嬢は主従関係が結ばれとるから一緒におるんは当然やし、
(ルドさん……気のせいかな?なにやら棘がある言い方ですけど?)
呆けている私を余所に、ルドはドヤ顔でエルスに「どうや?いい考えやろ?」なんて煽っている。
一発初発かとハラハラしているとエルスが鼻で笑いつつ、ルドを睨みつけた。
「貴方如きではお嬢様は手に余ります。何年お嬢様と一緒にいたと思っているんです?昨日一昨日出会った貴方とは違うんですよ」
「一緒におった時間なんて今から足してけばええ。こう見えてお嬢んこと結構気に入っとるんよ?」
そう言いながら私の肩を抱いた。その瞬間、エルスが殺気を放ちルドを威圧した。
「その汚い手を退けなさい」
「嫌やわぁ~、そんな殺気放って……余裕ないよぉ見えるで?」
「貴様──……!!」
エルスは病み上がりなのを忘れ、ベッドから飛び起きルドに飛びかかった。
ルドはエルスを素早く避け、ケラケラ笑いながら更に煽っている。
(……本当にこの二人は……)
私が頭を抱えていると、低く静かでそれでいて腹の奥底に響くような声が聞こえた。
「二人共そこまでにしろ」
こんな言葉で人を鎮めることができるのはこの屋敷では一人だけ。……父様の登場だ。
「……旦那様……」
「エルス。無事でよかった」
先程の勢いはどこへやら、二人とも大人しく父様の前で居心地が悪そうに立っている。
実はエルスが目が覚めるまでルドの件を保留にしていたのだ。
エルスも目を覚ましたし結論を出す為に来たのだろうが、私も顔色が悪い。
何故か?それは、エルスの一件ですっかりルドのことを忘れていて出された条件を満たしていない。
口を開けばちゃらんぽらんでエルスとは仲が最悪。
いくらエルスの命の恩人だからと言っても父様はそんなものじゃ納得しない。
これは、終わった……
冷や汗が止まらない中、俯きながら必死にルドのいい所を考えているが思った以上に出てこない!!
「旦那様、申し訳ありませんでした。私が不甲斐ないばかりにお嬢様を危険に晒していまいました」
「いや、エルスはよくやってくれた。ローゼルも自分の無力さに気づいただろう」
エルスが父様に向かって深々頭を下げながら謝罪するが、父様は労うように優しく肩に手を置きながら応えていた。
後半私をディスる言葉が聞こえたが、そこは耐えた。
「──さて、ルド。だったね?君の処遇を決めようか」
「なんや?覚えっとたか」
「そりゃね。私の可愛い娘の事だ。忘れる訳がないだろう?」
「……………」
頭に手を当て壁に寄りかかっていたルドは父様の威圧に何も言えなくなっていた。
まずいまずいまずい!!!!
とりあえずこの場を何とか穏便に済まそうと口を開こうとした私より先にエルスが口を開いた。
「旦那様。その事なんですが……」
バッ!!とエルスの方を向いた。
エルスがルドを庇うはずがない。そう思ったから、何とか下手なことを言わないよう目で訴えた。
「私は……その者を不本意ながら認めざるをえません」
「「は?」」
今度はルドと言葉が被った。
「……それはどういうことだい?」
不敵な笑みを浮かべながら父様が問いかけた。
「……その者がいなければ私もお嬢様も無事では帰ってこれなかったでしょう。それに、その者が解術していなければ街にも被害が及びその被害は甚大だった……」
耳を疑うほどの言葉が次々と出てきて私もルドも現実なのか疑問に思うほどだった。
「……以上を踏まえまして、私はその者を
「……──なるほど、お前の気持ちは分かった……」
黙って聞いていた父様が目を伏せ何やら考えているようだった。
部屋の中に沈黙が生まれた。
もう私は心臓が口から出そうなほど緊張していた。
これほど緊張することは滅多にない。
「ローゼル」
「はい!!」
「……お前はその者をどう見ている?」
鋭い目つきで私に問う。この目は父様が尋問する時の目つきだ。
嘘は付けない。少しでも嘘をついた時点でこの尋問は終わる。
スゥーと深く息を吸い込み、覚悟を決め口を開いた。
「……私はルドの考えていることが正直分かりません。いつもふざけてばかりでエルスと言葉を交わせば喧嘩ばかりで私の手に負えるのかも不安です」
「ちょっ!!お嬢!?」
焦って口を挟もうとしてきたルドを父様がお得意の眼力で黙らせた。
私はチラッとルドを見て「大丈夫」と言うように目線で合図した。
「──ですが、いざという時はちゃんと私達を護ってくれます。主従関係を結んでいてもルド程力のある者ならばいつでも破綻することはできるでしょう。それでも私と契約を結んでいてくれるのならば、私はルドを信じ傍に置いておきたいと思っています」
目をそらず真っ直ぐ父様の目を見ながら力強く言い切った。
私の言いたいことは言い切った。これで駄目でも父様に納得してくれるまで何度でも戦うつもりだ。
それほどルドがいない日常は考えられなくなっていた。
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