第32話
私の言葉を聞いた父様はしばらく黙っていたが「ふっ」と優しく微笑んだ。
「そうか……お前がそう判断したのなら私はお前を信じよう」
「父様……!!」
そう言いながら私の頭を撫でてくれた。
きっと父様は最初からこの結末を知っていたのだろう。
わざわざ試練まがいの事をやらしたのは多分エルスを納得させる為。
まあ、父様もまさか命懸けのもになるなんて思いもしなかっただろうね。
けどこれで晴れてルドは我が家の一員に慣れたって訳だ。
「良かったねルド!!」
「おうっ!!これからもよろしゅうな」
そう言って私とルドが抱き合おうとすると、エルスがすかさず間に入った。
「なんや?死に損ない。──あぁ、これでいつお嬢の従者やめてもええよ?あんたも認めてくれたみたいやしな?」
ニヤッとエルスを挑発しながら言う。
父様は話が済んだ所でさっさと部屋から出て行ってしまった。
……何が言いたいかと言うと、今この場にこの二人を止めるれる人がいない。
「私がいつお嬢様の従者を辞めると言いました?頭がおかしいと思っていましたが、耳までおかしいんですね?それに貴方を認めたと言いましたが、お嬢様の元にいることを許可した覚えはありません」
「あ-言えばこう言う……屁理屈ばっかの男はモテんで?」
「お生憎と貴方よりは魅力があると自負してますが?」
「へぇ~……?」
その後、ご想像の通り力で勝負を付けようとした二人によって部屋はほぼ全壊。
隣の部屋も半壊した所で父様の怒りが爆発、二人揃って庭の木に逆さ吊りにされ半日過ごしたのは言うまでもない。
◇◇◇◇
ルドが正式に我が家の一員になってようやく穏やかな日々が送れる……と思っていたのに。
「何故貴方が……?」
「久しぶりだなローゼル嬢」
私が父様の執務室を訪れると、そこには憎たらしいほどのいい笑顔であいさつをする竜騎士団団長であるアルフレードがいた。
「ご挨拶だな。私は一応客なのだが?」
「それはそれは大変申し訳ありませんでした。
内心「招かざる客なんだよ!!」と思いつつ、嫌味ったらしく頭を下げて挨拶をしてやると、アルフレードは満足気に鼻で笑った。
(なんなんだ!!って言うか何故ここにいる!!)
イラついているのが分かったのだろう。
父様が「ローゼルも座りなさい」と促してきた。
「……閣下も、あまり娘を揶揄わないで下さい」
父様が忠告するも、アルフレードは気にする素振りは全くない。
本当に何しに来たのか……ただお茶を飲みに来たとは思えない。
私の鋭い視線に気がついたのか、アルフレードの口元が一瞬上がったのが見えた。
「私が何故ここにいるのか知りたくて仕方ないって顔してるな」
「……別に閣下が何処で何しようが私には関係の無いことですので」
「まあ、そう言うな。それにローゼル嬢にも関係のある事だ」
私をこの場に座らせた時点で何かに巻き込まれそうな事は察していた。
だけど、私はまだ何も聞いていない。
(逃げるなら今しかない)
「……申し訳ありませんが、用事を思い出しましたので私はこれで──……」
「毎年他国の騎士と腕試しと親睦を兼ねた剣術大会が行われているのは知っているだろう?」
私が腰を上げたタイミングで本題に入りやがった。
「……存じておりますが?」
「ガドルからは我々竜騎士団が出る事になったのだが、今年の開催国が問題なんだ」
「ふ~ん。何処なんです?」
目の前のクッキーに手を伸ばしがら興味無さそうに聞き返した。
まあ、社交辞令として聞くだけ聞いてやろうてね。
「スミリアだ」
「………………………………ご愁傷さまです」
もう、その言葉しか出てこなかった。
開催国がどのように決められているのかは知らないが、スミリアとはまあ……
大方、あの戦闘狂の国王が周辺国に上手いこと言ってうちの砦である竜騎士をぶっ潰そうとでもしているんだろう。
(まあ、私には関係ない事だけど……)
クッキーを食べて口の中がパッサパサの私は呑気にお茶を啜っていた。
「向こうの企みはおおよそ検討はついているが、こうもうちを舐めているのでな。それならそこを利用させてもらうと思ってな」
そう言うアルフレードの目は怒りと呆れが滲んでいた。
向こうのことを知るなら今が絶好の機会という事だろう。
まあ、勝手にやってくれ程度に聞き流していたらとんでもない言葉が聞こえた。
「ローゼル嬢には
「………は?」
思わず口に含んだお茶が垂れでる所だった。
冗談じゃない。なんで私がそんな国同士の争いに巻これにゃいかんのだ。
「……ゴホン。え-……閣下。冗談は顔だけにしていただけないでしょうか?私はこう見えてか弱い令嬢なのですよ?それを敵国に連れていくなど……見てください。恐怖で鳥肌が立ってるじゃないですか」
そう言いながら腕をこれ見よがしに見せてやった。
「ほぉ?私の顔を冗談だと言う令嬢は初めてだな。こう見えて中々評判があるのだが?それに、ローゼル嬢がか弱いと言うならば他の令嬢はさぞ弱過ぎて大変だろうなぁ?……鳥肌が立つほど臆病者のローゼル嬢?」
嘲弄したように言われた言葉を聞き、怒りで握っている拳に爪が食い込むほど力が入る。
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