第33話

ギロッとアルフレードを睨みつけていると、更に火に油を注ぐようなことを口にした。


「そういえば……ローゼル嬢は最近を拾ったようだな……しかもスミリア産だとか?」


「黒猫じゃなくて黒豹や!!」ってルドがいたら突っ込みそうな場面だけど、今はそんな事大した問題じゃない。

ルドの事がバレているのが問題なのだ。

慌てて父様の方を振り向くと不敵な笑みを浮かべている。

その時点で告げ口した犯人が分かった。


(くっそジジィ!!!!)


まどろっこしい言い方してるけど、要はルドを連れてついて来いって言ってる。

もう怒りを収めて諦めるべきなのか自分でも分からなくなっていた。


「因みに、この件に関しては陛下からも承諾を得ている……ローゼル嬢に拒否権は無い」


真っ直ぐ目を見ながら言い切られた瞬間、堪忍袋の緒が切れた。


「冗談じゃない!!なんであんたなんかと一緒にスミリアに行かなきゃ行けないの!?竜騎士ってこんな小娘の手を借りなきゃ敵国に乗り込めないの!?はんっ!!竜騎士の名が廃るわね!!……だっさ」


嘲笑いながら言えば、アルフレードの眉間に皺が寄り険しい顔になったが、もう止められない。


「国の争い事に巻き込まれるなんて冗談じゃないわよ!!私は絶対に行かない!!行けと言うなら私は家を出るわ!!」


まさかの家出発言に父様までも険しい顔になった。

しかし、言ってしまった手前引くに引けない。


しーーーーん……


沈黙が重い。


「あはははは!!お嬢の啖呵はおもろいなぁ~」


その沈黙を破ったのは、どこから現れたのか肩にヒョイっと乗ってきた黒豹ルドだった。


「……どっから現れてんのよ」


睨みつけながら言えば「まあまあ」と言いつつ、肩からテーブルの上に移動した。


「どうも、こうして面と向かって喋るんは初めましてやね」

「……ほお。上手く化けるもんだな」


アルフレードはルドの首根っこを掴み上げながら興味津々に全身を隈無く見ていたが、尻尾に手をかけられた所でルドが焦って飛び退いた。


「もお~、そこは流石にダメや。顔に似合わずすけべやねぇ~。僕男の子やで?付いてるもん同じやん。ああ~……もしかして、男色な人?ごめんなぁ~、僕女の子が好きやねん」

「なっ!?」


揶揄うような言葉にアルフレードは狼狽えながら顔を赤らめた。


(おやおや。珍しい。一応恥じらいってもんはあったのね)


いつも飄々としていて隙のない様に見えたが、一応人間らしい部分もあったのかと思うとおかしくなった。


「お嬢の機嫌も良うなったようやし本題に入ろか。」


ルドが来たことにより部屋の中の空気が和らいだことに気がついた。

本当に場の雰囲気をぶち壊すのはお得なようだ。


「単刀直入に言うと、僕はお嬢をスミリアに連れて行くんは反対やね」

「……理由は?」

「誰が考えても分かるやろ。竜騎士に紛れて女の子が来とるんやで?真っ先に狙うんは女の子お嬢やろ」


珍しくルドがド正論を吐いている。


「そもそも連れていくなら僕だけでええやろ。なんでお嬢を連れていくんや?」


あっ、それは私も思った。

百歩譲ってルドを連れていくと言うのは筋が通るが、私関係ない。


「そこからは私が話そう」


口を開いたのは、今まで黙っていた父様だった。


「前に令嬢の誘拐事件があったのを覚えているかい?」

「……はい」


初めてシャーリンと出会った事件であり、目の前の男と出会うきっかけになった事件でもある。

今更その話を掘り出すとは……


「どうもその時、ある者にお前の姿を見られていたようでな……一目でお前を気に入り寄越せとほざいた事を言ってきた奴がいる」

「なっ!?」


あの時は必死すぎて周りの気配が読めなかった……

まさか他に人がいたとは……


「そんなくだらん戯言を言っているのが、スミリア唯一の王子であるアラン王子だ」


まあ、「寄越せ」なんて上から物を言うあたり王族に関係する者だと思ってたから驚きもしないけど。


「お前がシェリング家の娘だと言うことも知った上で言っているのだ。大方、お前を手篭めにすればシェリング家はスミリアに手を出せなくなりこの国の勢力を落とせるとでも思っているのだろう。あいつらが考えそうな事だ……そこに来て今回の開催国……まったく舐められたもんだと思わんか……?」


心底呆れたように言いながらもその目には娘を物様に扱うスミリアの奴らに対しての怒りが感じられた。


「我々もそれは承諾できないと何度も掛け合ったものの、何せ簡単に話の通じるような相手じゃなくてな……最終的にはローゼル嬢を渡すか鉱山を渡せと言い出した」


そう話すのはアルフレード。

どうやら、こちらはこちらで交渉しようとしてくれた様だ。


(以外ね……)


そう言えば二人とも心なしか疲れているような気がする……


「早い話が、お前自らスミリアへ行きしてこいという事だ」


……ふ~ん。話が通じるような相手じゃないから直接行ってお断りして話をつけて来いってことか。


「馬鹿につける薬はないからな。直接身体に教えてこい。半身不随になろうが四肢が欠乏していようが息をしていればいい」


物騒な事を淡々と口にする父様は殺気が駄々洩れ状態。部屋で待機している侍女が震え上がっている。

ここまで殺気を洩らすのも珍しい。思った以上に激おこのご様子。


「……なるほど。ほな、僕が行くんはお嬢のボディーガードか?」

「ああ、向こうは魔術師が溢れているからな。流石のローゼルでも防ぎきれんだろう」


それこそ意外だった。

てっきりルドを使ってスミリアの内部を探らせるのかと思ってた。

まさか護衛役として連れて行くなんて……


「まあ、大会は一週間ある。ローゼル嬢ならば二、三日で話をつけれるだろ?残りはしっかり働いてもらうがな。どうやら我々竜騎士は小娘の手を借りないと威厳を保てないらしいのでな?」


睨みつけられるように言われ、ぐっと言葉に詰まった。


「あははははは!!お嬢の負けやねぇ、まあええんちゃう?僕もおるし。お嬢の事は命をかけても護ったる」


ルドは騎士のように私の手を取るとそのまま唇を落としてきた。……が、唇が手に触れる直前でルドが吹き飛んだ。

一瞬の出来事で反応が遅れたが、現れたのは……


「その件、私も同行させて下さい」

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