第34話
現れたのは執事服に身を包んだエルスだった。
病み上がりでまだ本調子じゃないエルスはしばらく休養するように言われていたはずなのに何故ここに?
「──ってててて……なんや?もう起きてきたんか?案外丈夫いな」
「いつまでも貴方にお嬢様を任せておけませんからね。それに、私に黙って勝手にお嬢様を連れ出そうとしているなんて……」
投げ飛ばされたルドは頭を擦りながら体を起こし、早速食って掛かってはみたが、エルスに蔑むんだ表情で言われてしまい顔を引き攣らせながら笑っていた。
「旦那様、お嬢様の専属従者として私の同行を許可していただけないでしょうか」
「……エルス。確かにお前はローゼルの専属だが、まだ完全ではないだろう?その身体じゃまだ無理だ。今回はルドもいるし、閣下も一緒だ。お前は自分の事に専念しろ」
当然のようにエルスの言葉は却下された。
いつもなら大人しく従うが、今回ばかりは違った。
「いえ、私は何があろうとお嬢様の元を離れるつもりはありません。もし、私が足でまといになったなら潔くこの身を散らしましょう。ですから、旦那様どうか許可を……」
深々と頭を下げ願い出た。
こちらとしてもエルスが付いてきてくれるのなら心強いと思うが、瀕死の状態を脱っしてからの日が浅すぎる。
頭を抱えて答えに困っているとルドが「別にええやん」と一言。
「足でまといになるんなら自分で死ぬっちゅーことやろ?そこまでの覚悟があるんならええんちゃう?」
「──そうだな。そこまでの覚悟があるのなら私も構わない」
ルドに同感と言わんとばかりにアルフレードまでもがそんなことを言い出した。
騎士団長にそこまで言われたらもう何も言えず、大きな溜息が聞こえた。
「閣下がそう言うのなら……仕方ない。同行を許可しよう」
「ありがとうございます……」
エルスは安堵した表情で深々と頭を下げた。
◇◇◇◇
スミリアへ立つのは三日後。
この三日間はしばしの充電期間。
とは言え、エルスは通常運転で休む暇なく働いている。
ルドはお気に入りの木の上で日向ぼっこ。
そして、私は……
「ローゼルちゃん。ちょっと……」
剣の手入れをしていると母様の自室に呼ばれた。
母様の自室に呼ばれるなんて珍しいと思いながら行くと、テーブルの上には今世で初めて見る銃が置かれていた。
「うわっ~~……!!」
「これは引き金を引けば弾が飛ぶ仕組みになってるの。母様が若い時の物だけどまだ使えるはずよ。これを持っていきなさい」
そっと手に取ると、その懐かしい感触に思わず顔がにやけてしまう。
「ローゼルちゃんは初めてでしょう?少し慣らしたほうがいいわね」
前世でめちゃくちゃ撃ってきたとはいえ、今世ではお初だ。
この世界では銃より剣が主流で、銃を扱える人は少ない。
という事は、銃を上手く扱えれればそれだけで有利になるという事。
前世ではナイフよりも銃派だったが、腕が訛っていないという確証もない。
ここは慣らしと言う模擬体験をしといた方が良さそうだと判断し、ニヤつく顔を引き締めて庭へと出ることにした。
パンッ!パンッ!パンッ!!!!!!
「ふぃ~~……やっぱり少し訛ってるわね」
的にしているのは、ルドに出してもらった影の人型達。
ご丁寧に攻撃能力まで搭載されている。
まあ、気持ちよくお昼寝していた所を邪魔された腹いせも含まれているんだろうけどね。
「──……見た?うちの子天才かしら?」
「はい。奥様、お嬢様は誰が見ても優秀です」
弾は全て人型に命中。
初めて手にした銃を華麗に使いこなせている姿を見て、親バカ全開の母様と侍女達。
(けど、現役の頃より数段腕が落ちてる……)
命中したとはいえ、ほとんどが致命傷から外れている。
これでは意味が無い。
『飛び道具は一発で仕留めなきゃ意味がない。自信がねぇなら持つんじゃねぇ』
そう教えてくれたのは前世で親代わりだったボスだ。
母様達からすれば満点なのかしれないが、私の実力はこの程度じゃない。
スミリアに行くまでの間に現役の頃とまではいかないにしろ、致命傷を狙える程度まで感覚を取り戻す事を目標に決めギュッと拳を握った。
幸いなことに銃の造りは前世で使っていたものとさほど変わりは無い。
何度か使えば感覚を取り戻せるだろう。
そんなことを思いながら、再び銃を構えた……
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