第54話

怪しい人物がいたのは東側の登場口付近。

私とクラウスは急いで向かったが、すでに人影はない。

辺りを見回しても特別変わった様子はない。杞憂なら良かった。とホッと安堵していると。


「……ローゼル嬢」


クラウスの強張った声が聞こえ、指さしている所を見ると何やら術式が壁に描かれている。


「えっと……これは?」


なにせ魔術に関してはほぼ無知と言っていいほど知識がない。


「これは召喚術です。それも強力な……」

「は!?」


流石聖騎士の団長。すぐになんの術式か判明した。

この術は魔獣を召喚し暴走させる……要はスタンピードを引き起こすものらしい。


このままこの術式をほっておくとここはたちまちここの場は魔獣の巣窟となってしまう。

かといって、これを解術するには私達では……


(ルドを呼ぶしかないか)


あまり目立つ事にルドを呼びたくないが、今は緊急事態だ。


「る──……」

「離れてください」


私がルドの名を呼ぼうとすると、それを遮り素早く私を背後に庇いながら術式に剣を突き立てた。


すると、術式がスゥと消えていくでは無いか。


「おおおお!!!!凄い!!!!」


パチパチパチと手を叩いて称賛すると、クラウスは照れながらも剣を鞘に収めた。


「これでも聖騎士の団長ですからね。これぐらいは……と言いたいところですが、私の剣は少し特別なんです」


我がガルド国は鉱石の名産地と言うのは皆さんご存知の通り。

その中でも特に聖力を含んだ鉱石。聖石を使用し、特別に作った剣が今クラウスが持っているものらしい。


「知らなければ普通の剣ですけどね」


なんて言うが、確かにその通り。全然気づかなかった。


以前誘拐事件の際、ルドの陣を破ったのもこの剣だったと教えてくれた。

ルドの陣を破れるなら最強じゃない!?なんて思っていると、クラウスが険しい顔をした。


「……とりあえず先ほどからこちらを見ている彼を捕らえるのが先ですね」


クラウスの目線の先にはこちらを見ているフードの怪しい人物。

相手もこちら側に気づいたのか「チッ!!」と舌打ちをして逃げて行った。


「ローゼル嬢はここに!!」

「何言ってんの!?私が見つけた相手獲物よ!!」

「貴方は令嬢で騎士ではありません!!大人しくここに残ってください!!」

「グダグダ言っている場合じゃないんじゃないの!?」


小競り合いをしている隙に犯人は物凄い勢いで逃げている。

それに気づいたクラウスは普段の上品な雰囲気を捨て「クソッ!!」と言い捨てると急いで犯人を追った。

当然私も一緒。


「いいですか、絶対私から離れないでくださいよ!!」

「それは時と場合によるわね」


どうやら私を置いていくのは諦めたしくそれならと新たに条件を出してきたが、その条件に従う理由がないので正直に言ってやった。


「……アルフレードが手を焼いている意味が今わかりました……」


なんて溜息交じりに言われた。


犯人はとても人間とは思えない速さで逃げ続けていて、距離が縮まるどころか離されている。

このままだと逃げらると思った所で、カチャと脚に付けていていたモノに気づいた。


「──なッ!!!ローゼル嬢!?」


気付いたのと同時に素早くスカートを捲り上げると、クラウスは顔を赤らめて背を向けたが今は事情を説明してる場合ではない。

すばやく太腿に付けいた母様愛用の銃を取り出し逃げる犯人獲物に全身の神経を集中させ、引き金を引いた。


パンッッッ!!!!!


「うっしッ!!!」


見事一発命中。

犯人の左足に命中し、その場に倒れた。

私はガッツポーズでクラウスを見ると、クラウスは「あの距離を……?ありえない」なんて呟いていたが、あの程度どうってことない。


何か言いたげなクラウスに「拘束するには今がチャンス」という圧をかけ、黙らせて急いで倒れた男の元へ駆け寄った。

案の定、うずくまり痛みに悶えていた。


「貴様が犯人か……事情は後で聞く」


酷く冷たい声で言いながら、どこから出したのか縄を取り出し悶えている男を捕らえようとした。


「……ふふ……あははははははは!!」

「なにがおかしい」


急に笑い出した犯人を怪訝そうに見つめながら問いかけると、不気味なほど笑顔の男が口を開いた。


「お前、聖騎士だな?そっちのお嬢さんは想定外だがまあいい」

「何を──……ッ!?ローゼル嬢!!逃げてください!!」

「へ?」


クラウスが何かを察し、慌ててこの場から逃げるように促した。


「もう遅い」


ニヤッと不気味に笑う男と物凄い形相で私の元に駆け寄るクラウスが見えたのと同時に私の視界は暗闇に染まった……

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