第10話
シャーリンの件から数日後、私は父様に呼び出されていた。
「──ローゼル。お前に頼みがある」
おや?任務ではなく頼みときた。
それは珍しいなと思いながら、父様の話を聞くことに。
「今流行りの劇団があるのは知っているだろ?」
そういえば、シャーリンが「今度一緒にいかがですか?」と言っていたのを思い出した。
各国でも人気らしく、頻繁に他国に行っては出張公演を行っているらしい。芝居も然ることながら演目の選出も素晴らしいと評判の劇団だ。
「そいつら表向きは劇団だが、裏では人身売買をしている」
「──なっ!?」
父様が言うには、各国巡りながら子供や若い娘、目麗しい男などを拐かしそう言う嗜好の貴族達に売っているらしい。
更に、その売った金の三割はスミリア国に入っていると。
そして、その劇団と手を引いている者がこの国にいるという。
「その者は、ヘルツェグ男爵家。この間のシャーリン嬢の件もこの男爵の手引きだ」
「……ああ、確か令嬢が一人いましたね」
お世辞にも性格が良いとは言えない令嬢が……
容姿も振舞いもシャーリンには到底及ばない。
「──……まったく、この国には
そう言う父様の顔は般若も真っ青な顔をしていた。
娘の私ですらヒュッと息を飲んだほど。
(あ~あ、男爵は馬鹿だねぇ。敵に回しちゃいかん人を敵にしたよ)
ここまで怒る父様も珍しい。
私は心の中で静かに男爵に向けて合掌した。だって確実に生き地獄を見るからね。
「……で?私はその男爵を捕えれば宜しいですか?」
「ああ、シェリング家を舐め腐っている男爵の捕縛、その後尋問だ。今回は陛下からの依頼では無い。これは
なるほど、それで任務じゃなくて頼みね……うん。理解した。
あれ?待って、ちょっと気になることがある。
「あの、父様。男爵を捕らえるのは私が承りましょう。ですが、劇団の方はどうするのです?このまま見逃すのですか?」
「まさか、そんな事はしない。当然そちらは手を打ってある」
だよねぇ。父様が見過ごすわけないもんねぇ。
言い方からして、劇団の方は父様が誰かを派遣するのだろう。
(じゃあ、私はサクッと男爵でも捕まえに行きますか)
さっさと終わらせて部屋でゴロゴロしたい。
「では、父様。私はヘルツェグ男爵の捕縛へと行ってまいります」
そう伝え、父様の執務室を出ようとする私の後ろから「──ちょっと待ちなさい」と聞こえた気もしたが、気が急いでいて耳に入らなかった……
◇◇◇
さて、私は仕事着に着替え屋敷の外へと出たのだが……私の隣にも一人、同じく身支度を整えている男がいる。
チラッと横を見ると、視線に気が付いたその男は手袋を嵌めながら私に向かって笑顔を向けている。
胸元にはこの国の聖騎士団の勲章が光っている。
そう。この人は聖騎士団団長、クラウス・ヴェルナーだ。
今から数刻前、私が父様の静止を聞かず執務室を出た時まで遡る──……
執務室を勢いよく出た私は、丁度入れ替わりで入って来た人にぶつかってしまった。
「すみません!!前をよく見ていなかったもので」
慌てて謝りつつ、ぶつかった相手を見て驚いた。
眩しいほど真っ白な団服に白銀の髪、息を飲むほど美しい容姿。
その姿に思わず目が奪われてしまったが、その人は──……
「お初にお目にかかります。ローゼル・シェリング嬢。私は聖騎士団団長のクラウス・ヴェルナーと申します。今回、劇団摘発の件は我々聖騎士団が任されましたので、その挨拶へとまいりました」
私に気づいた男は胸に手を当て、綺麗なお辞儀をして見せた。
(……父様。手を打ってあるって、これ?)
まさか聖騎士団を出してくるとは思いもしなかった。
しかも、団長がお出ましと来た。
ジロッと父様の方を睨むと、父様はニコニコしながら手を振っていた。
私は盛大な溜息を吐き、目の前の男と改めて挨拶を交わした。
──……そして、今に至る。
「本当にローゼル嬢お一人で大丈夫ですか?」
「ええ。その方が動きやすいですし」
クラウスはシェリング家の裏事情は知っているが、それでも女の私一人で男爵家に乗り込むのを心配していた。
「騎士を一人でも付けましょう」「ローゼル嬢は女性なんですよ?」「なんなら私がついて行きましょう」いい加減うるさい。
(過保護か!?)
実の両親ですらここまで心配しないのに赤の他人の、しかも会ったばかりの人間にここまで心配されるとなるとは思いもしなかった。
これは、私の力が疑われているという事なのか?
「──クラウス様。私とてシェリング家の端くれ。それなりに訓練は受けておりますのでご心配には及びませんよ」
ニッコリ微笑んだが、内心怒り沸騰中。
(グダグダ言ってないで、さっさと行けよ!!)
しかし、そんな私を見てもクラウスはまだ渋る。
「ですが、ヘルツェグ男爵には少し黒い噂もありますので……」
黒い噂?
「ヘルツェグ男爵は黒魔術師と契約していると」
なるほどね……
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