第9話
シャーリンが言うには、自分に寄ってくる令嬢は王子にお近付きになりたい者ばかりで、本当に友と呼べる者がいないから友達になって欲しい。
友達として一緒にいるのなら、ついでに護衛もお願いしようかしら?と言い出した。
いやいやいや、おかしいだろ。
今さっき私の所業は見ていないって言い切ったよね!?それで護衛をお願いするなんておかしいだろ!?遠回しに「私はガッツリ見てますよ」と言っているようなもの。
「ふふっ。私を疑っている顔ね。……確かに見ていないとは言ったけど、聞いたとは言ってないわよ?」
(聞いた?誰に?何を?)
「──私が無事に屋敷に戻った時、ローゼルさんに助けられたと伝えましたの。そうしたらお父様がこのシェリング家の事を洗いざらい話してくれましたのよ」
「嘘は申してないわよ?」と微笑むシャーリンに頭が痛くなった。
(
自分の娘が無事に戻ってきた事に喜んで口を滑らしたか、シャーリンが執拗に問いただしたかだが……
不敵な笑みを浮かべるシャーリンを見て思った。
(……こりゃ後者だな)
まさかシャーリンがこんな策士だと誰が思うか。アルベールといい、私に近寄ってくる人間は曲者揃いか!?
だが、残念な事に私には護衛に付けないちゃんとした理由がある。
それは、私と一緒にいる方がシャーリンに危険が及ぶからだ。
暗殺一家のシェリング家を狙う輩は数知れない。そんな奴と一緒にいれば確実に目をつけられる。
下手をすれば私をおびき寄せる餌として使われるかもしれない。
(明らかに私と一緒にいる方が危険なんだよ)
「──……シャーリン。お友達の件は喜んで引き受けましょう。ですが、護衛となると私よりも騎士の方にお願いした方が……──例えば、竜騎士の中から選ぶとか……」
暗にアルベールを選べと言っている。
この間会ったばかりだし、知らない仲ではない。
私なんかよりも余っ程護衛らしく、頼りになる相手だ。
いくら前世の記憶を持っている私でも、父様や母様からしたらまだまだ未熟。使用人以上両親未満の腕前。
一人二人なら対応できるが、数十人相手になると私一人では庇いきれない。
すると、私の言葉を聞いたシャーリンは何やら思い詰めたように話し始めた。
「……実はこの件の後、陛下から護衛を付けようと申し出を頂いたのですが、お断りしましたの」
「何故!?」
「──素晴らしい方を見つけたからです」
シャーリンの目は真っ直ぐ私を捉えて逸らさない。
その目にはしっかりとした覚悟も見えた。
「私は幼い頃からノルベルト殿下の婚約者候補として立ち振る舞いに気をつけて参りましたが、先日の一件で私よりも素晴らしい立ち振る舞いを披露した方がおりましたの」
いや、それは……
「私、一目でその方の事が気に入りまして、屋敷に着いてすぐ、その方の正体をお父様を脅……いえ、お父様に尋ねましたの」
(今この人、脅したって言いかけたよね?)
オースティン侯爵すまん。誤解していたよ。
あんたは娘に脅されて口を割ったのか……
「私のお友達兼護衛はローゼルさんの他には考えられません。ローゼルさんが護衛を引き受けてくれないのなら、護衛は一生涯付けませんわ」
私の目を見てハッキリと言い切った。
(おいおい、なんかとんでもない事になってきたぞ?)
なんかここまで言われたら引き受けちゃおうか?と思う自分もいるけど……ダメだ。
今の私の力ではシャーリンを護りきれない。
そう思ったその時。
「いいじゃない。ローゼルちゃん、引き受けなさい」
扉が開かれ、母様が部屋に入ってきた。
「貴女どうせ、多人数に襲われたらシャーリンちゃんを守れないとか思っているんでしょ?私如きが人の命を預かることなんて出来ないと……違うかしら?」
流石は母様。正解です。
「……私はまだ人を護れる程の力はありません。ましてや次期王妃様(仮)の護衛など、もってのほかです」
私の気持ちを正直に母様に伝えると、母様は盛大に溜息を吐いた。
「……いい事ローゼルちゃん。やってもみない内から諦めるのは良くない事よ?まずはやってみる。やってみて無理なら、その時考えなさい」
いや、母様、それだとシャーリンの命いくつあっても足りません。
「大丈夫。貴女ならやり遂げれるわ……──というか陛下からもその様な
頬に手を当てながら「やるわよね?」と不敵に笑う母様に「無理です」と即答したかったが、太刀打ちできる相手じゃないので諦めた。
「……えっと、じゃあ……」
仕方ない。
「……前向きに検討します……」
これが限界。
シャーリンは不服そうだったが、この場は友達で落ち着いてくれた。
こうして正式に私はシャーリンのお友達という任務につく事になった。
お友達と言っても何をしていいのか私には分からない。
前世、今世を通して友達と言う者がいた事がない。
……違うな。
前世では敢えて、仲の良い友というものを作らなかった。
それは、情が生まれてしまえばその者が敵になった時に心に迷が出来てしまうから。
殺し屋ともあろう者が心に迷いなど持つなど以ての外。
だから私は部下であろうと、一歩下がった距離で接していた。
(──あぁ、一人だけ懐いていた奴がいたな……)
私がいくら冷たく接しても、何度突き放しても私の元へやってきた子犬みたいな奴。
あいつは私がいなくなった今、何をしているのだろうか。元気にしているだろうか。生きているのだろうか。
そんな事を考えて「クスッ」と笑みがこぼれた。
まさか私が部下の事を考える日が来るとは……
(人とは分からないものだ……)
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