第68話

「しみったれたのは終いや終い!!」


そうルドは言うが、中々そんな気持ちにはなれない。

私とクラウス、そしてエミールは神妙な面持ちでお互いを見合わした。


ルドも気丈に振舞っているが、きっと内心傷付いているし悔しくて仕方ないはずだ。

自分がこの国にいれば、イルダは悪魔に取られたりしなかったかもしれない。それ以上に怒りもあるはずだ。


けど、そんな雰囲気一切出さず、いつもの様に振舞ってくる。


(本当、ルドらしい)


私はフッと笑をこぼし、ルドの頭をわしゃわしゃと撫で回した。


「ちょ、お嬢!?なんやねん!!!」

「ん?頑張ったご褒美」

「……僕は子供ちゃうで?」

「そんな事は知ってるわよ」


なんとなく撫でたくなっただけとは言わない。

ルドは文句を言いながら照れる様子を見せるが、手を振り払う事はしない。

その様子が可愛らしくて、自然と笑みがこぼれる。


このまま暫く撫でていてもよかったのだが、いい加減にしろと言いたげなクラウスが「ゴホンッ」と咳ばらいをした。


「その辺でいいでしょ?彼もいい大人ですし」

「なんや?羨ましいんか?あ?そういや、あんた、さっきお嬢に手出しやがったな?」

出しておりませんよ?」

「あ゛ん?」


クスッと明らかにルドを煽るような態度のクラウス。

ルドもルドでそれに乗せられるんだから、子供と同じようなものだ。と呆れるように溜息がでた。


「もお!!こんな所で言い争ってんじゃないわよ!!」


というか、さっき事は掘り返して欲しくない。


「そうですよ。今は味方同士で言い争っている場合ではありません」


エミールも私に続いて二人を止めに入ってくれた。

変態騎士であるエミールがまともに見えるんだから自身の精神状態が不安定なのがよくわかる。


「──……チッ」


ルドが不機嫌そうに舌打ちをしたが、それ以上言い返してくることはなかった。


フゥと息を吐き、ようやく戻って来たルドに


「おかえり」


と伝えた。


気恥ずかしそうにしていたが、ちゃんと「ただいま」と笑顔で返事が返って来た。


その後、ルドに怪我を負っているクラウスとエミールの怪我を治して欲しいとお願いした。

まあ、そこでも一悶着あったが、なんだかんだ私のお願いに弱いルドはその願いを聞いてくれた。


「なんと……!!あの傷を……!?」

「人は見かけによらないとよく聞きますからね」


エミールとクラウスは傷の塞がった自身の体を見て驚いたように呟いていた。


これでこちらの戦力も戻った。

むしろ十分過ぎるぐらいだ。


(負ける気がしないわ)



「ふふふふふふふっ」

「なんや?お嬢、きっしょいな」


思わずニヤつく私にルドが毛虫を見るような目で見てきた。


「まっ!!主に何てこと言うのよ!!」


すぐさま言い返したが、そこで気が付いた。


「契約!!」


イルダが言う事が本当ならば、私とルドの主従関係は解消されている。

正直、解消されたことに安堵する一方不安もある。


またルドがいなくなっていしまうんではないかと……


「ああ、大丈夫よ。つうか、お嬢は首見たら分かるやん。僕の契約印入っとるやろ?」

「ああ~!!」


そこですかさず胸元を広げてみると、ちゃんと印が入っていた。


「ちょ──ッ!!ローゼル嬢!!」


顔を赤らめ必死に目をやらないようにするクラウスと、ガン見で見てくるエミール。

こういう所でも人間の本性って出るよね~。なんて思いつつ服を正した。


「一時的に共有を遮断しとったんよ。もし、僕になんかあってもお嬢に被害がいかんようにね」


淡々と言うが、これ結構すごいことだからね。

普通の術者じゃ到底できない技だから。


「貴方が腕の良い魔術師だという事は分かりました」


呆気に取られている私をよそに、クラウスがルドに声を掛けた。

ただ、クラウスが笑顔で人を誉めている。クラウスの性格して、何か企んでいるときの表情だろう。


ルドも気づいているのだろう、顔が曇り始めた。


「そんなに優秀な魔術師ならば、この洞窟から一瞬で我々を城まで送り届けることぐらい容易いでしょうね?」


「ああ~そう来たのね」と声に出そうになったが、私よりも早くルドが声をあげた。


「無茶ぶりにも程があるやろ!!」

「おや?自分は優秀だと言いたげな雰囲気でしたが、気のせいでしたか……」

「なッ!!」


クラウスの挑発的ともいえる言葉を聞いて、ルドの顔色が変わった。

まあ、なんだかんだ負けず嫌いなとろがあるルドだからな。そこを刺激するクラウスもクラウスだが……


「そこまで言われたら術者として聞き捨てならんわ」

「ほお?」


ニヤッと悪戯に笑うクラウス。

ルドはしっかりクラウスの口車に乗らされたらしく、陣を書き始めた。


しばらくすると、地面にこの場に居る四人が入れるほどの陣が書きあがった。


「ええか。先言うとくが、こない人数運んだことないねん。どこに出ても文句言いこなしやからな」

「優秀な術者であろう者がやる前から言い訳ですか?」

「阿呆!!忠告や!!」


まったくこの二人は……とエミールと私は呆れるように溜息を吐いた。


そして、いよいよ、城へと向かう時……

何処に出ようが関係ない。馬鹿王子を殴り飛ばし、国王に文句の一つでも言ってやらない事には死んでも死にきれない。

「じゃあ、いくで……」

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