第19話
夜会も無事に終わり、本日は前々から約束していたシャーリンとお茶会の日。
因みに、夜会はどうなったかと言うと……──
音楽が終わった後「次は私と踊ってください!!」とクラウス目当てに押しかけてきた令嬢達に弾き飛ばされ、その飛ばされた先で人の姿に戻り素知らぬ顔で令嬢を口説いていたルドを発見。すかさず捕獲。
「あれれ~?ルド君は何をしていたのかなぁ~?5秒以内に答えてくれる?」
壁に押付け、にこやかに問いただした。
「5秒って、そんな無茶や」
両手を挙げ降参のポーズで私の問に抗議してきた。
だが、私は飼い主。飼い犬が飼い主の言うことを聞かなければ躾が必要だ。
「ほお~?ペットの分際で随分と生意気だねぇ?」
「ちょ、ちょい待ち、話せば分かる!!それに僕ペットやない!!」
必死に言い訳を述べるルドを無視して、襟を掴み引きずって屋敷まで戻ってきた。
で、そのルドはお仕置と称し、今日は一日中正座で紳士の振る舞いとはなんぞやが書かれている本を読み感想文を書くと言う宿題を課した。
そんな訳でお茶会はルドはお留守番。エルスを共に連れて行く事に。
「ようやくお嬢様にもお友達が……」
「うっうっ……」と馬車に乗り込んだ途端、エルスが泣き真似をしながら言ってきた。
「大袈裟よ」
外の景色を見ながら返事を返した。
季節は夏から秋へと季節が変わり始めていて、木々も紅葉しだし景色を見ていてとても楽しい。
こんな穏やかな日々がずっと続けばいいのに……──そう思っていたのも束の間。
「……ねぇ、これ、シャーリンの屋敷と逆よね」
「……どうやらそうみたいですね」
オースティン邸は
しかし、今馬車が走っているのは街並み外れた森の中。
いくら
エルスはすぐに御者に声をかけるが応答がない。
「おい!!聞いているのか!?馬を止めろ!!」
そんな事をしてる間にも馬車は森の奥へと走っていく。
道は険しくなり、ガタガタッと馬車が激しく揺れる。
痺れを切らしたエルスがドアをぶち破り、御者の元に行こうとしたが「──チッ」と苛立った舌打ちが聞こえた。
「……ローゼル様。どうやら嵌められたらしいです」
「まあ、そんな気はしてたわよ」
今は悠長に話している暇はない。この馬車を止めることが先決。
「私が馬を止めます!!ローゼル様は万が一のことを考え飛び降りる準備を!!」
そう言うなりエルスは馬車から御者席へ飛び移ろうと体を外に出した。
しかしその時ガタンッと馬車が揺れ、エルスの体が外に放り投げられそうになった。
「エルス!!!!」
「大丈夫です。私を誰だと思っているんです?」
エルスは素早く馬車の上に飛び移り事なきを得た。
「──……申し訳ありません、ローゼル様。本日のお茶会は諦めて頂くことになるかと」
「何言って……」
エルスが前を見据えてそんなことを言うもんだから私も前を見ると、目の前から道が消えていた。
(崖か!?)
今から馬を止めていたら間に合わない。
助かる方法はただ一つ。馬車を捨てて飛び降りる。
「ローゼル様!!お手を!!!」
「舐めんじゃないわよ。自分の身は自分で守れるわ」
私は飛び降りた時にドレスの裾が車輪に巻き込まれる事を危惧して、ナイフでドレスの裾を破り膝丈にしてからドアの縁に手をかけた。
時速的にはそこそこ。地面は大小様々の石が転がっており、決して滑らかとは言えない。
このまま飛び降りれば確実に無事では済まない。
ゴクッと喉がなり、意を決しゆっくり手を離した。
「ローゼル様!!!!!」
エルスの叫び声と共に体は地面へ。
衝撃と共に馬車が崖から落ちる音が聞こえ、間一髪だったことが分かった。
飛び降りた後はゴロゴロと勢いよく転がり、木の幹に当たって止まった。……が、思った程の衝撃がなかった。
私が飛び降りたのと同時に柔らかく暖かいものに包まれたから。
「──……ッつ……」
私の頭上から苦しそうな声が聞こえた。
それは当然だろう。エルスが私を庇ってくれたんだから。
「エルス!!!」
「──……お怪我はありませんか?」
フラフラしながら私を腕の中から出してくれた。
エルスが庇ってくれたお陰で私は無傷。その代わりエルスの傷が酷い。
綺麗な顔には擦り傷、腕や足からは血が流れており、片腕は折れたのかヒビが入ってるのか腕を押え顔を歪めていた。
「何で私を庇ったのよ。これぐらいどうって事ないのに……」
「──何を馬鹿な事言っているんです?私は貴方の侍従です。主を守るのは当然の事」
いつものようにサラッと言いのけたエルスだが体はキツそう。
「ちょっと待ってて!!人を呼んでくる!!」
私一人じゃどうする事も出来ないと判断したので、助けを呼びに行こうとしたらエルスに腕を掴まれた。
「いけません。まだ敵の正体が分かりません。ここで個々に動くのは命取りです」
エルスの言葉を聞いてグッと拳を握った。
確かに、別々に襲われたらエルスの命が危ない。エルスは私の心配をして言っているんだろうが、エルスが思っているより私は弱くない。
だから、今最優先すべきはエルスだ。
「……分かった。でも、応急処置はするわよ」
私は膝丈まであったドレスを再び切り裂き、ミニスカートにして出来た布をエルスの腕に巻いた。
エルスはその姿を見て「ご令嬢ともあろう方が何してるんですか!?」なんて顔を真っ赤にしながら怒鳴っていた。
この世界で素足を晒すのは、はしたないとされている。
(……ショートパンツ何て履いたら発狂するだろうな)
そう思うと笑いが込み上げてきた。
当然、エルスには怪訝な顔で見られたけどね。
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