第18話

クラウスに王子の様子が気にならないか問われ、思わずベンチから上げた腰をまた戻してしまった。


(……本当、汚いよねぇ)


私が気になってること言って気を引くんだから。

まあ、でもそっちがその気なら知ってる事全部話してもらおうか?


クラウスは私がベンチに座り直したのを見ると満足そうに微笑み話し出した。


「殿下は元より……その……少々女性にだらしのないお方で、特定の人を愛さないと断言しておりました。しかし、王族ともあろうお方が伴侶を持たないのは許されません。そこで、白羽の矢がシャーリン嬢に刺さったのです」


シャーリンは幼い頃から王子の婚約者候補として王子に会っていたこともあり、王子の扱いが上手い。それに、シャーリンなら王子に愛の言葉を求めないし言わない。それならと婚約者はシャーリンに決定したらしい。


どうやらシャーリンが選ばれたのは人柄とかではなく、ただ王子の御目付け役として選ばれたにすぎない。


これだから貴族社会ってのは嫌なんだ。

自分の意思関係なしに結婚相手が決まってしまう。


「シャーリンはこの理由を知っているんですか?」

「はい。婚約を結ぶ前に陛下が直接お話しました」


……陛下から話されたら断れるわけなかろうに。話された時点で決定事項だ。


(それを分かってて話した狸親父陛下もどうかと思うんだけどな)


前までの私なら関係ないで済ましていたが、どういう訳だか腹が立って仕方ない。

この話を話した陛下にも、形だけだの伴侶だかと相手に無関心な王子にも、愛もなく一生王子の飼い主として生きていくことを決めたシャーリンにも……


「……結婚は人生の墓場とはよく言ったものですね」


前世、仲間がよく話していたことを思い出した。

結婚したら急に人が変わったようになったと言う奴や、自由な時間がないと言っていた奴、逐一居場所を報告していた奴。

だから結婚生活も長続きせず、すぐに独身に戻る奴も少なくなかった。


「──そんな事誰が言ったんです?」


真剣な顔をしたクラウスと目が合った。

いつもニコニコしているクラウスが、急に真顔になり驚いた。


「ローゼル嬢は勘違いしておられる。誰にそんな嘘を吹き込まれた知りませんが、結婚というものは愛を深めるのに大切なものです。そして、愛を深めた結果、子供というかけがえのない者が生まれるのです」


「すみません。今しがた愛のない結婚をする人達の話をしたばかりですが?」と口から漏れそうになり、グッと口を閉じた。


確かに、少人数だったが結婚して良かったと言っていた奴もいた。

子供が出来たと嬉しそうな顔で報告してきたり、結婚記念日だからと花束を買って帰る奴もいたが……


「私にはその気持ちが分からない……」


ボソッと呟いた。


別に分からなくてもいい。

私はこれから先も誰かを愛することはなく、お一人様を貫き通すのだから。


「……ローゼル嬢には気になっている方や好いている方がいないのですか?」

「いませんね」


キッパリ言い切ると、クラウスは「そうですか」と微笑むだけだった。


てっきり「婚約者もいないんですか?」って聞かれるかと思ったが……

まあ、私は売れ残り令嬢で社交界では割と有名だからな。

言うまでもなかったんだろう。


「さて、そろそろ会場に戻りましょうか?」

「そうですね……」


帰ろうとしていたのに、クラウスに手を差し出されてしまった。

団長でもあるクラウスの手を取らない訳にはいかず、渋々差し出されたを手を取り夜会会場へと戻った。


しかし、これが問題だった……


クラウスにエスコートされながら会場に戻った所。

ご令嬢達の悲鳴と共に妬み嫉妬が混じった視線を一身に浴びせられたのだ。


当のクラウスは私の手を絶対逃がさんとばかりに強く握り締め、笑顔で令嬢達の中を突き進んだ。

そして、クラウスはホールの真ん中へ。


(これは……)


私達が真ん中へ到着したのを見計らったかのように音楽が流れ出し、クラウスに腰を抱かれ踊り出した。


(やっぱりかぁ!!)


荒々しいアルフレードと違うスローテンポなステップだが、上品で美しい。リードも上手い。


「……何故、私はクラウス様と踊っているのでしょうか?」

「アルフレードと踊って私と踊らないとは言わせませんよ?」


いやいや、アルフレードと踊ったからって貴方と踊る理由にはなりません。

それに、アルフレードもクラウスも夜会で踊っているとこを一度も見たことがない。

なのに何故、今夜に限って踊る?しかも私を巻き込んで。


チラッと辺りを見ると、嫉妬に混じり殺気を放っているご令嬢多数。

その中に紛れて不機嫌MAXのアルフレードも視界に入ってきた。


そして、新しい玩具を見つけたかの様に微笑む狸親父も……


一刻も早く居心地の悪いこの場から去りたい衝動に駆られているがダンスの途中抜けることも出来ず、ただただ音楽が終わるのを踊りながらジッと耐えた。

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