第116話
アルフレードは黙って剣を抜くと、周りが竦みあがるほどの殺気を纏いながらイナンに向き合った。
「ふ~ん。まあまあ楽しめそうかな」
「それは何よりだ」
「は、余裕ぶっていていられるのも今の内だよ」
イナンは一切怯むことなく、後ろに控えていた騎士に合図を出した。その合図で一斉にアルフレードに斬りかかるが、所詮は下っ端騎士。団長であるアルフレードに勝てるはずない。
一瞬で片が付いたが、イナンはクスクス笑っている。
「まだ終わってないけど?」
その言葉に「何?」と顔を顰めていると、倒れた騎士が再び斬りつけてきた。慌てて剣を構えたが、頬を掠めてしまう。
「あはははは!!戦場での油断は命取りだって習わなかったの?」
「…………」
頬を伝う血を拭いながら、斬りつけた騎士に目を向けた。白目を剥き、口からは泡を吹いている。完全に正気を失っている。
(これも術の一種か?)
戦意喪失の者を無理やり立たせるなど、傀儡として扱っているようなもの。人としての人権を害している。
アルフレードは怒りで、血が滲みそうなほど剣を握りしめた。
「使える者は使うのが道理でしょ?」
「人は道具ではない」
「道具だよ。君もその一人だったこと忘れないでよ?」
「貴様……!!」
アルフレードは苛立ちを露わにしながら、イナンに飛び掛かった。
◇◇◇
「さて………」
イナンはアルフレードに任せた。イナンの事を熟知している私が相手した方が効率はいいが、
そう思いながら、剣を振るうアルフレードに背を向けた。
(残る
こちらはクラウスとエミールが既に戦闘中。エミールは顔を輝かせて剣を振るっていたが、どいつもこいつも骨なしだという事に気が付き、顔を歪めている。
「という事で、残ったのはあんただけね」
腕を組みながら向き合ったのは、鬼の形相で睨みつけている聖女様だ。
「あらあら、聖女様とあろうお方が酷い顔」
嘲笑いながら言うが、聖女からすればこれが精一杯の抵抗なのだろう。まあ、睨みつけてくるだけ、他の聖女よりは肝が据わってる。
目の前で剣が飛び交い自分を護るはずの騎士が血を流しながら倒れて行くのを目にすれば、普通の聖女なら竦みあがってる所だ。
「力のないあんたを傷つけるつもりはないわ。大人しく捕まってくれればの話だけど」
今だにしゃがみこんでいる聖女の腕を持って、立ち上がらせようとした。その時
「………ふ…ふふ………あははははははは!!」
その場に高笑いが響き渡った。
「な、なに!?」
思わず手を離して身構えた。
「愉快愉快!!いいですわね。その眼。気に入りましたわ」
「は?」
顔を覆いながら立ち上がると、魔術とは無縁の私でも分かる程、聖女の背後からどす黒い靄が溢れ出ている。
「何が起こっているんです!?」
「それが分ったら苦労はしないわね」
クラウスが叫びながら問いかけてくるが、こちらとしては最早笑うしかない状況に、顔を引き攣らせながら笑っていた。
大きくて可愛らしい瞳はギロッと吊り上がり、愛らしい微笑みは今や不気味に微笑んでいる。聖女というより悪魔にしか見えない。
「あの靄に触れたらあかんよ」
「ルド!?」
ようやくやって来たかこの男は!!と文句も言いたいところだが後回しだ。
「簡単に説明して」
「なんやよう分からんが、
「どういう事?」
ルドの言っている意味が分らないが、説明を聞いている余裕はなさそう。
「ふふふふっ。流石、イルダの愛弟子ですわね」
「ッ!?」
(どういう事!?)
なぜ、この人が
私達よりもルドの動揺が大きく、その場に茫然と佇んでしまった。その一瞬の隙を狙わない馬鹿はいない。
ルドは見えない力で壁にまで飛ばされ、思いっきり体を打ち付けた。
「──がッ!!」
「ルド!?」
慌てて駆けつけようとする私を、ルドが苦しそうに手をあげて制止してきた。
「………あんた、何もんや」
口端から垂れ出る血を拭いながら問いかけた。
「聖女。そう呼ばれておりますが?」
「あほな事抜かせ!!あのババア、
とぼけた応えに、目を吊り上げ怒りを露わにするルド。こんなに怒りを露わにしている所を見たことがあっただろうか……
「──そいつは、女神の化身じゃよ」
声がした方向を振り返ると、そこにはユーシュとユーエンの姿があった。
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