第45話

すっかり忘れていたが、ルドもいたんだった……


「いや~、流石はお嬢やね。見事な立ち振る舞いやったわ」


どうやら、どこかに隠れて今までの経緯を見ていたらしい。


ルドは今回影の護衛として付き添ってくれているが、自身もカタをつけたい事があるとそれとなく言っていた。

深く追求しなかったが、それが自身の師匠の事だということは何となく分かった。


ダークウルフの一件以来ずっと悩んでいた。

ルドは気づかれていないと思っているだろうが、主従関係を結んでいる私に嘘は付けない。


けど、言いたくないことを言わせる気も無いし、この件に関しては私が口出しすることじゃない。


(早く片が付け修復出来ればいいけど……)


そんなことを思いつつ、疲れた体を癒す為に早めにベッドへと潜り込んだ。






バサバサバサ──……


眠りについてどれぐらいたった頃だろうか、で何かが羽ばたいている音が聞こえた。

まだ意識のはっきりしていない頭を無理やり起こし、うっすら目を開けた。

すると、私の上に真っ白なフクロウがチョコンと羽を下ろしこちらを見下ろしていた。


「……え?フクロウ?え?どうやって?」


窓を見ればしっかり施錠してある。

扉も開いた形跡はない。じゃぁ、このフクロウはどうやってここへ?


私が困惑していると「フッ」とフクロウが笑った気がした。


そのフクロウは目を細めおもむろに翼を広げると、その羽根が鋭いナイフの様に私目掛けて飛んできた。


「なッ──!!」


ドスッドスッドスッ!!


慌てて身をかわし振り返ってみると、羽根は先ほどまでいたベッドや壁に突き刺さっている。


「あっっっっっぶな!!!かわいい顔してなんてことしてんのよ!?」


刺さった羽根を取って指でなぞってみると、薄皮が切れ血が滲んだ。

これが刺さっていたらただ事では済まされない所だった。


「……なるほど。この国は客人だろうと、そう易々と寝かせてくれないってことね」


苦笑いしながら言うが、フクロウは私から一切目を逸らさない。


正直、寝起きにの相手はきつい。

見たところ術者のペットか何かだと思うが、そこそこの力の持ち主だろう。


(参ったな……)


この場にはエルスはもとよりルドもいない。

頭を抱えたくとも目の前のフクロウはそんな暇すら与えてくれない様で攻撃を止める素振りがない。

何とか剣を手に取ったはいいが、羽根を叩き落すのに手いっぱいでフクロウ本体に近づけない。


「ちょっと!!そんなに羽根を使うとハゲるわよ!?」


苛立ちが募り、思わずそんな事を口にしていた。

しかし、その一言が効いたのか攻撃はピタッと止んだ。

これで少し落ち着けると思ったが、全くそんな事はなかった。


フクロウがスーッと深く息を吸うような仕草をしたかと思えば、私の目をジッと見つめてきた。

その目は、赤くルビーのように美しく綺麗で思わず見入ってしまった。

それが失敗だった……


「んッ!?」


手を動かそうとしたが、体が石のように動かない。

そこでようやく術にかかったことを知った。


(ちょっとこの状況はまずいんでない!?)


冷や汗を流している私の元へフクロウがゆっくり飛んでくる。

頭ではどうにかしなければと思うが如何せん体が動かない。

何も出来ず、ただただ怪しいフクロウの動向を見届けるしかなかった……


「お嬢ッ!!!!!!!」


覚悟を決めたところでルドが天井をぶち破って私の前に降り立った。


「大丈夫か!?って、動けんよな。ちょっと待っとり」


ルドが私に触れると、ガクッと膝から崩れ落ちた。


「──おっと!!大丈夫か!?」

「まあ、何とかね……それよりも、は何者?」


ルドに支えられながら問いかけると、ルドは眉間に皺を寄せ険しい顔をしたがすぐに笑顔になり「ちょっと待っとって」と優しく言うと、私をベッドに座らせフクロウに向き合った。


「──お久しゅう……と言っとくべきか?」


溜息混じりに言うが、その声には怒りを含んでいた。


フクロウは微笑むような素振りを見せると、グルンッと空中で一回転した。

すると先程までのフクロウの姿はなくなり、代わりに妖艶な雰囲気を纏った美しい女性がその場に現れた。


「おやおや。随分と嫌われたものよのう……」


女性は私とルドを見つめながら艶めいた表情で微笑んだ。

その笑顔は女の私でも溜息が漏れてしまうほど美しいものだった。


「嫌われとる自覚はあったんやね」

「ふふ……相変わらずの口ぶりやのう」

「あんたも相変わらずやな」


目を細めながら話す女性に対し鼻で笑っているルドだがその表情は硬く、部屋全体に神経を集中しているようだった。


「──……何しに来たん?」

「おやおや。それが久しぶりに会った師匠への言葉かえ?」


その一言に私の目が大きく見開いた。


「え……?師匠……?この人が?」


まさか女性でこんなに美しい人が師匠だと誰が思うか。

まあ、それは偏見だな……

勝手に男性だと思っていた節があったな。


私の表情を汲み取ったルドが盛大な溜息を吐いた。


「……お嬢。見た目に騙さたらあかん。この人、結構な年増やで?ただのババア──ッいで!!」


「ババア」その単語を言ったと同時にルドの頭に衝撃があったようで頭を抱え蹲った。


「なにすんねん!!クソババア!!」

「そのクソババアに育てられたお主はクソ息子かの?」

「はああああ!?誰があんたの息子って言いました!?頭だけやのうて耳までおかしゅうなったようやの!?」

「……ほお?」


師匠と呼ばれる人の目付きが変わったその瞬間、部屋全体がきしむような音と共に窓ガラスにヒビが入り始めた──

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