第46話
──バキッ……パキッ!!
二人は笑顔でにらみ合うばかりで、こちらのことなど眼中にないようだった。
窓には大きく亀裂が入り、今にも割れそうだ。
このままだとこの部屋が破壊される!!そう直感した。
「ちょッ!!たんま!!一度落ち着きましょう!!」
堪らず二人の間に入った。
「なんやねん。お嬢には関係ないことや。黙っといて」
「あのね。確かに私は無関係だけど、これだけは言わせてもらうわ」
私は思いっきり息を吸い込みルドの胸倉を掴み怒鳴りつけた。
「拾ってくれた人に対して親面するな!?お前は何様だ!!ふざけんじゃないわよ!!反抗期には遅すぎるわ!!」
前世の私も拾われて育てられた身。
確かに反抗することもあったがその都度私と真っ直ぐ向き合って話を聞いてくれたし、殴ったり殴られたりもした。
けど、感謝はすれど恨むことなどなに一つない。
だからこそ、同じ境遇のルドの態度に腹が立った。
本当に親子関係にあるのかなんてどうでもいい。
仮初でも育てられたという事実がある以上、感謝をしろって話。
まさか自分が怒鳴られるとは思っていなかったルドは目を見開いて驚いていたが、師匠と呼ばれる人は肩を震わせて笑いをこらえているようだった。
「~~~~ッ……くく……あははははは!!お主なかなかに愉快じゃの!!」
「ええ~と……?」
「すまんすまん。そうじゃ、自己紹介がまだじゃったの。妾はそこの阿呆の師匠でこの国の第一級魔術師のイルダ・ルメイじゃ。お主はシェリング家の者じゃろ?なかなかやりおるな」
「妾もこう見えて結構強いぞ?」そう付け加えられたが、それは言われなくても分かってる。
「ふふっ。そう身構えんでも、もうなにもせん。──……今宵はな?」
その言葉に私もルドもイルダの方を振り返った。
イルダは妖艶に微笑みながら、私達を指さした。
「妾はこの国の魔術師ゆえ、上からの命令は絶対での。お主をこの国から出すなという命を受けててな。今宵は挨拶がてら顔を拝見しに来たのじゃ」
「ふざけたことぬかしてんなや!!どこの世界に寝込みを襲う挨拶があるねん!!」
「おや?この国に弱き者は不要じゃ。それこそ王太子妃となるような者が寝込みを襲われたぐらいで命を落としていてはいくら命があっても足らんぞ?その点、お主は妾の攻撃を避けただけではなく、こちらに殺気を向けて来おった。まあ、妾の勝ちには変わりはないが、妥協点じゃな」
イルダの言葉を聞いて、私は呆れるしかなかった。
(こんな碌に睡眠も取らせてくれない国に誰が嫁ぐか!!)
とはいえ、私の知らないところで話だけは進んでいるようだ。
これは、手遅れになる前に手を打たないとマジでやばい。
「今日は愛弟子の顔も見れたことだし、妾は帰るとするかの」
満足気のイルダに対し、ルドが「待て!!」と引き留めようとしたが、煙のように姿が消えてしまった。
残された私達はぐったりとベッドに倒れこんだ。
「………………………とりあえず寝る?」
「……そうやね」
そのまま同じベッドで眠ってしまった。
次の日。私を起こしに来たエルスの悲鳴に似た叫び声と共に目が覚め、暴れるエルスを止めるのに体力を使ったのは言うまでもない。
◇◇◇◇
「……なんで……?」
本日から始まる剣術大会の開会式に出席するために会場へとやってくると、目の前には眩しいくらいの笑顔を向けているクラウスがいた。
「お久しぶりですね。お元気でしたか?」
「いやいやいやいや!!お元気ですけど、なんで貴方がここにいるんです!?聖騎士は出場しないはずですよね!?」
「ええ。出場の為に来たのではありませんよ」
にっこり微笑む後ろから「クラウス」と呼ぶ声が聞こえた。
ゆっくりこちらに歩いてくるのはボンクラ王子こと、ノルベルト殿下だった。
どうやら、来賓として殿下が呼ばれたらしい。
(なるほど……扱いやすい奴を呼んだか……)
ボンクラと言え次期国王だ。ここでこちら側に引き込んでおけば国を乗っ取ることも容易い。って魂胆だろうけど、そう簡単にいくかしらね?
あの親父の事だ。何も考えなしに寄こしはしないだろ。……多分。
そんな事を考えていると「クスクス」と笑う声が聞こえた。
「本当にローゼル嬢は素晴らしいですね」
「こちら、陛下からです……」そう言って手渡されたのは国王直々の書状。
嫌々ながらも中を確認すると、自然と笑みがこぼれた。
「なるほどね……」
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