第47話

書状を読み終えると誰かに見られる前にすぐ燃やし灰に変えた。

その様子を見ていたクラウスはクスクスと笑っていた。


「いい顔してますね」

「あら?そう見えます?」


クラウスが言うのならばそうなのだろう。

確かに思わず笑顔になるような事が書かれていたが……


「クラウス!!何をしている!!早く行くぞ!!」


私と長々話している事に痺れを切らしたノルベルトが強い口調でクラウスを呼びつけた。

クラウスは困ったように眉を下げ、私に軽く会釈をするとノルベルトの傍へと急いだ。

その後姿を見送りながら、先ほどの書状の内容を思い出した。


書状には今回ノルベルトが来ることになった経緯が書かれてあった。


こちらの国王から来賓としてノルベルトが指名で招待されたと聞いた瞬間に使い捨ての駒に使うつもりだという事は分かっていた事。

だが、自国での評価の悪いノルベルトにとってはこれは名誉挽回のチャンスだと思ったらしい。

やはり腐っても自身の息子であるノルベルトに少しは期待を持っていると、珍しく父親らしいことが書かれていた。

それを踏まえて、万が一にも期待を裏切るような事があれば即刻切り捨てる覚悟はできている事も書かれていた。


そして最後に『すべての権限はローゼル嬢お主に一任する』とあった。


(期待していると言っておいて、私に一任するって時点で信用性はゼロだよね)


坊やの子守なんて勘弁願いたいところだが、こうして指名されては仕方ない。


「せいぜい短い王族気分を味わっといてもらいましょ」


クスッと微笑みながら呟いた。




◇◇◇




「只今より、剣術大会を開催する!!皆のもの優勝目指し励むがよい!!」


ワァァァァァァァァ!!!!!!!


熱い歓声が湧き上がる中、開会式が無事終わった。

我らが竜騎士の出番まではしばらく時間が空くので部屋に戻ろうとエルスを引き連れ、廊下を歩いていた所でアランと遭遇した。


「ローゼル、今からどこへ?」

「竜騎士の出番まで暫くあるので自室で休もうと思っていた所です」


愛想よく微笑んで対応してやると、分かりやすく頬を染めた。

後で黙っているエルスの視線が痛いが、気にせず話しかけた。


「アラン殿下はどちらへ?」

「私か?私は特に用事もないからな……そうだ。もしよければ一緒にお茶でもいかがだろうか?」


なんともわざとらしく言ってきたものだ。

「私が通り過ぎる頃合いを見て出てきた癖に」と心の中で叫んだが、一切顔には出さず微笑み返した。


「そうですね。そろそろお話がしたいと思っていたところです」


そういうと、アランは嬉しそうに「そうか!!」と早速侍女にお茶を用意するように手配していた。


「……お嬢様、お気をつけください。相手は卑怯な手を好むこの国の王子ですから……」


エルスがコソッと耳打ちしてきた。

そんなもの言われなくても承知の上だ。


偶然を装って接触してきた時点で罠でしかない事は分かっている。

そんな簡単に騙される女じゃないってーの。

まあ、相手はあのいけ好かない戦闘狂の息子だ。一筋縄じゃいかないことぐらい分かってるだろう。


だからこそ、この罠に乗ってすることにした。


アランに連れられてきたのは、アランの自室。


る気満々やな!!)


いくら何でもこれはない。

婚約者でもない者を自室に招くことがどういうことか分かっているのか?

この国の教育はどうなっているのか心底不安になるが、今更つっこむ気も起きず、溜息しか出ない。

エルスに至っては怒りを通り越して呆れていた。


「……こいつは馬鹿なんですか?」

「うちの王子様といい勝負よねぇ」


ヒソヒソと話していると、アランが扉をあけ「どうぞ」と部屋へ入るように促してきた。

仕方なく部屋へ入ろうとすると、エルスが扉の前にいた護衛の者に止められた。


「申し訳ありません。お付きの方はここで……」

「は?」


エルスは苛立ちを隠すこともせず、護衛騎士に食ってかかろうとしていた。

その本気マジな殺気に騎士は顔を青ざめていたが、そこは護衛を任されている者。

一歩も怯まずエルスへ反論していた。


私は心の中でその騎士に拍手を贈った。

普通の騎士なら腰を抜かしてもおかしくない。

とはいえ、エルスをこのままにすると騎士の首の一つや二つ飛びかねない。

現に苛立ったエルスが隠し持った短剣に手を伸ばしている。


「エルス!!!!」


一喝すればビクッと肩を震わせ、伸ばした手を大人しく引っ込めた。


「止めなさい。ここは私達の国じゃないの。──アラン殿下私の従者が申し訳ありません」


私が頭を下げると、不服そうにしながらもエルスも頭を下げた。

エルスの怒りも分からんでもないが、ここは私に任せて大人しくするよう目で合図を送った。


エルスは心配そうに眉を歪めたが私が折れない事を察し、大人しく部屋の外へ出て行った。


「あははははは、ローゼルは本当に従者に大切にされているようだね」

「ええ、少し過保護なところもありますが私にとって家族のような者です」

「……そう。少し妬けるな」

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