第48話
部屋に入ると、すでにお茶の用意が整っていた。
アランは侍女らにも部屋を出るよう言いつけると、目の前のソファーに座るよう促した。
「さあ、どうぞ座って」
「……失礼いたします」
テーブルには美味しそうな菓子が並んでいて、ティーカップからは茶葉のいい香りが漂ってくる。
せっかく用意してくれたのだからとお茶を口にすると、鼻から良い香りが抜ける。
薬でも盛られているかもと警戒していたが、どうやらその可能性はないようだ。
しばらくは他愛のない話を交わしながらアランの動向を見ていたが、これと言って変わった素振りは見せてこない。
私の考えすぎだったのか?と思っていたところで、アランが口を開いた。
「──ところで、ローゼルはいつ私の事をアランと呼んでくれるんだい?」
「……私は他国の人間で王族でもありません。そのような人間が気安く他国の王子の名を呼べるはずがありません。そこはご理解ください」
睨みつけるように言うとアランは一瞬肩をすくめたが、すぐに含みのある笑顔を作った。
その表情に警戒していると「ローゼル」と一切目を逸らさず真剣な表情で言われた。その瞬間、身体中の血が沸騰したかのように熱くなった。
「……なッ……!?」
胸を抑えつけ早まる鼓動を止めようとしていると、アランが傍へ寄って来た。
「……何を、飲ませた……?」
息が上がり身体中が熱くなる。更には密室に若い男女が二人きりとなれば思い当たる
それなのにこの反応……
「あははは、聞かなくても分かるだろう?イルダ特製の媚薬だ」
だろうね……
普通の媚薬ならば、カップ一杯飲んだぐらいでは到底倒れはしないと自負してる。
大方、私にバレない様に細工をしてあったのだろう。
即効性ではなく遅効性にしたのもその為か。
(しくった……)
今はまだ何とか自我が保たれているが、薬を作った人間がイルダという事は
出来るだけアランから距離を取ろうと試みるものの、距離を詰められ行き場を失った。
「ローゼル、私の名は?」
アランが私の頬を優しく撫でながら尋ねた。
「……あ……アラン……」
(ん゛な゛!?)
自分の意思とは関係なく、勝手に口が動いた。
「あはははは!!!あれだけ嫌がっていたのに、簡単に私の名を口にしてくれたね……嬉しいよ」
そう言うと、アランは私を抱き上げ隣のベッドルームへ……
トサッと優しくベッドの上に置かれ、その上にアランが覆い被さってきた。
その勝ち誇ったかのような顔が心底憎らしい。思わず殺意が湧くほどに……
「いくら武術に優れていてもこうして組み敷いてしまえばただの女と変わりないな……さあ、ローゼル。私の事を受け入れてくれるね?」
「……ぐぐッ……は、はい」
唇を噛みしめ声を出さぬようにしていたが、またしても勝手に口が開いた。
どうも自分の意思を遮断し強制的に相手が欲する言葉を口にさせる薬を混ぜ込んだようだ。
無理やり口を開かせ、自分の望む言葉を言わせたところで心は奪えないというのに。
まずは心よりも先に身体をってか?
随分余裕が無いこと……
「何を考えているのかな?ここから逃げようというのなら無駄なことだね。残念だけど、元々逃がすつもりも帰すつもりもないから」
そんな事はこの国に来た時から分かっていた。
「……こんな汚い手を使わないと私を捕まえられないなんてね。そんなに自分に自信が無いの?まあ、確かに自慢できるものはなさそうですけど……?」
クスッと挑発するかのように言ったら、顔を真っ赤に激昂し私の頬を思いっきり殴りつけてきた。
「折角優しく抱いてやろうと思ったが……」
馬乗りになり、ナイフでビリッっと派手に胸元を破かれた。
殴られたことで少し頭がはっきりしたが、まだ動くには早い。
私が動かないことをいい事に、アランは首筋に唇をあて舐めるようにキスをしてきた。
ぞわっと悪寒が走しり条件反射で手が出そうになったが、グッと堪えた。
「ローゼル、私の妻になれ。……まあ、今の貴方には
その相手の顔を殴った挙句にこの状況で何がプロポーズだ。
「さあ、返事は?」
黙っているとアランが返事を急かしてきた。
言質を取ってしまえば私の意思など関係ないと言うのだろう。
残念。私が言うこと聞くはずないじゃない。
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