第44話
エミールの剣は私を射止めることは無かった。
その代わり、エミールの首には二本の剣が向けられていた。
一本はアルフレードの物、もう一本は第一部隊隊長の物。
そして、私を護るように背に庇っているのはエルスだった。
「エミール。いい加減にしろ」
「ローゼル嬢も気は済んだろう?……終いだ」
「見てるこちらの身にもなってもらいたいですね。全く……」
三者が口々にした瞬間、ワァァァァ!!!!と歓声が上がった。
「ローゼル嬢!!素晴らしい腕前だった!!」
国王が満足気に微笑みながら称賛していたが、こちらとしては負けが確定した事でテンションだだ下がりだ。
「……はぁ~……」
溜息を吐きながらエルスの差し出した手を取り立ち上がると、エミールが私の前へとやって来た。
「見事な腕前でした。思わず我を忘れるほどに……」
「はぁ……それはありがとうございます?」
まだ高揚感から脱していないらしく、恍惚の表情を浮かべながら私に握手を求めてきた。
その手を取ろうと、手を伸ばした所でアルフレードとエルスが間に割り込んできた。
「いくら我を忘れていたとしても、ローゼル嬢は客としてこの国に呼ばれている。そんな客人に随分と手荒な事をしてくれるな」
「そうです。元を正せば、この様な事態になっていること事自体おかしいです」
二人ともエミールを睨みつけながら溜めていた鬱憤をはらさんばかりに文句をつけた。
「申し訳ない。こいつは普段穏やかだが、一旦戦闘モードに入ると周りが見えなくなる
第一部隊の隊長であるデヴォンがエミールの頭を掴み無理やり下げさせ、自身も同様に頭を下げながら謝罪してきた。
完全に異常性癖者だが、物は言いようだなと思ってしまう。
◇◇◇◇
──私的にはあの場で全ての鬱憤を晴らしといて貰いたかった……と今、切に思っている。
あれから怪我の手当の為、部屋に戻った私を待っていたのはイラつきと怒気を含む目で睨みつけるアルフレードとエルスだった。
「……さて、まずは弁解から聞いていこうか?」
「こんなにも痣を作って……痕が残ったらどうするんです!?」
「あの、二人とも一旦落ち着かない?ほら、まずは手当してもら──……」
「手当されるような事態を作ったのはどなたですか!?」
ド正論を言われぐうの音も出ない。
「私は何かあったら一人で突っ走るなと言ったはずだが?」
目を細め背後にブリザードを吹かせているアルフレードが詰め寄って来た。
「いや……だって、これは私の問題で──……」
もごもごと言い訳を述べるが、二人の機嫌は良くなるどころか悪くなる一方だった。
アルフレードは魔王さながらの顔で睨んでくるし、エルスはエルスで呆れるような表情を作ってはいるが、内心怒りで震えている様だった。
「あのさぁ!!二人ともいい加減にしてよ!!確かに相談無しに決めた私も悪いとは思うけど、そこまで責められる筋合いはないでしょ!!何度も言う様だけど、今回事は私と
こうなれば逆ギレだ。
すると、ダンッ!!!とエルスがテーブルを思いっきり叩いた。
「そういう問題ではありません!!私がどんな思いで見ていたと思っているんですか……」
「エルス……」
珍しく弱々しく話すエルスを見て、ズキッと胸が痛んだ。
こんな顔をするエルスは初めてだった。
すぐに罪悪感に飲み込まれ、エルスの元に駆け寄り肩を抱いた。
「エルス……!!ごめんなさい!!私が悪かったわ!!これからはこんなことはしない!!だから……!!」
「本当ですね?言質は取りましたよ?」
顔をあげたエルスは先ほどの弱々しい感じとは反して、それはそれは悪い笑みを浮かべながら嬉しそう口にした。
その瞬間「嵌められた!!」と思ったが、すでに後の祭り。
勝ち誇ったように微笑むエルスに口をパクパクして反論の言葉を絞り出そうとしたが、これ以上反論したところで私に勝ち目がないことが分かったので、もう黙ることにした。
「あの……ところで、エルスさん……このことは母様には……」
「報告するに決まっているじゃないですか。何言っているんです?」
「ですよねぇ~………」
国王の挑発に乗っておいて負けたなんて知られたら……
(終わった……)
顔面蒼白で俯いていると、アルフレードが傍へ寄って来た気配がした。
なんだ?まだ嫌味が言い足りないのか?と思って身構えていると、ホワッといい香りと共に暖かいものに包まれた。
「…………無事でよかった」
一瞬何が起こったのか分からなかったが、すぐに抱きしめられているのだと理解した。
アルフレードの腕は逞しく力強く抱きしめられているのでそっとやそっとじゃ抜けれず、腕の中で必死にもがくことしかできない。
「──……アルフレード様。そろそろお嬢様が潰れてしまいます」
「おっと」
エルスが冷静に口にした事でようやくアルフレードの腕から解放され、大きく息を吸った。
「ちょっと!!軽く死にかけたわよ!!馬鹿力なんだから手加減てものをしてください!!」
「ほお。それは誉め言葉か?」
「違いますけど!!」
涙目になりながら怒鳴りつけるが、アルフレードはそれを一蹴した。
本当に女の扱いがなっていない。こんな男が何故人気があるんだ?
私には全くその魅力が分からない。
「何か失礼なこと考えているだろ?」
「いえいえ。閣下は素晴らしい思考をお持ちの方だと思っただけです」
ふふっと笑みを浮かべながら話す私をジッと見つめていたアルフレードだが、大きな溜息を一つ吐いた。
「今回の件はこれ以上口にはしない。──……だが、次はないぞ。分かったか?」
「…………………………はい」
もう返事は「はい」以外認めない空気で言われたもんだから、渋々了承した。
その後、明日から始まる大会の準備の為アルフレードは慌ただしく部屋を出て行った。
今日の手合いを見た騎士達の士気が上がったようで、いい余興になったぽいようで結果的には良かったのかもしれない。
「おっじょ~~~!!」
「──ぬおッ!?」
物思いに耽っていると、後頭部に衝撃が走った。
何事かとみると、黒豹のルドが飛びついていた。
(あ、ルドの事忘れてたわ)
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