第83話

思わず声が出てしまったが、アルフレードも思う節があるらしく咎めてはこなかった。


というか完全に詐欺集団のやり方だろ。え?なに、あの狸親父こんなやっすい手に引っかかったの?それはそれでうけるんですけど。


「星詠みってのは碌な集団じゃないわね」

「それがそうも言えんのだ」

「どういうこと?」

「私もただのまやかし集団と思っていたのだがな……」


アルフレードが言うにはその昔は確かにただのまやかし占い集団だったらしいが、近年その占いの信憑性が増しているらしく信仰する者も増え今や国を脅かすほどの力があるらしい。


いずれもお告げを聞き告げているのは一人の男らしく、その者の力は確かだと言われている。この国の重鎮らもその力を信じ恐れているらしい。


なんとも馬鹿げた話だ。


「そんなの信じてたら何百万する壺買わされてよしよ」

「……何を言っているか分からんが、いま上の者らは星詠みの言葉を信じ諍いが起きているのだ」

「ふ~ん……」


それを私に聞かせてどうしろと言うのだ?


心底どうでもよさそうに返事を返すが、アルフレードは目を逸らさず真っ直ぐに私を見ていた。

何となく嫌な予感がして、話を終えようとしたところで耳を疑う言葉聞こえた。


「ああ、星詠みを迎え入れる式典にはお前も登城してもらう事になっているからな」

「は?」


呆ける私を嘲笑うような表情を浮かべている。


「なんで私が!?無関係でしょ!!」


テーブルを力ずよく叩きつけながら怒鳴りつけるが、涼しい顔をしながらお茶に口を付けている。その仕草がいちいち癪に障る。


チッと軽く舌打ちをすると、鋭い眼差しに射貫かれビクッと肩が震えた。


「お前がそう思っていても、これは決定事項だ」

「いやに強気ね」

「お前は式には参列しない。参列するのはお前のお父上とお母上だけだ……勘の良いお前なら私が言いたいことが分かるだろ?」


私は深い溜息を吐きながら力なく座った。


参列しないのに登城しろということは、それはつまり裏の仕事だろう。

しかも父様と母様の耳に入っているのなら私に拒否権はない。


「要はその星詠みを探れと?」

「そうだ。これは王家からの依頼だと思ってくれればいい」


アルフレードら騎士は当日警護にあたるため、裏で動くことはできない。ならば暗躍に優れている者を呼びつければいいと語った。


「色々と言いたいことはありますが、私としても命は欲しいのでお受けいたしましょう」

「そう言ってくれると助かる」


白々しく礼を口にされても嬉しくないし。


「今日はそれだけ伝えに来た」


そう言いながら席を立つと、私の傍へ寄って来た。


「当日は私が迎えに来る。逃げるなよ?」


おもむろに手を取ると、その甲に唇を落とした。


「なッ!!」


慌てて手を引いたが、顔の熱は隠せなかった。

真赤に染まる顔を見て、満足気に微笑みながら踵を返して「じゃあな」とその場を後にしていった。


「……なんともまあ……」

「あれはわざとですね。鈍感なお嬢様には行動で示した方が早いと気づいた結果なのでしょう」


茫然としている私を横目に、エミールとエルスは淡々とした態度で話していた。


いくら鈍感だとしてもだ。不意打ちはよくない。というか心臓に悪い!!


「勘弁してよぉぉぉぉぉ!!!!」


その日、私の叫び声は屋敷中に響き渡った。




◇◇◇




「……お嬢様、観念してください」

「…………………………」


不貞腐れた私の前には正装していつもの数倍輝きを増したアルフレードが立っている。

今日は先日話していた例の星詠みがやってくる日。その為、宣言通りアルフレードが私を迎えに来たという訳だが……


「準備が出来たなら行くぞ」

「……本当に来やがった……」


屋敷の外には大きな黒竜が行儀よく座ってこちらを見ている。アルフレードは憎いが相棒の黒竜は可愛い。


何と言ってもすべすべとした鱗に、ひんやりとした肌質。最高に気持ちいい。会う度に撫でていたら懐いてくれて、更に可愛さが増した。

その事をルドに言ったら拗ねて暫く口を聞いてくれなかったっけ……


黒竜貴方が迎えに来てくれたのなら行かないとね」


撫でながら伝えると、嬉しそうに顔を摺り寄せてきた。


「んもぉ~、可愛すぎる!!どこぞの誰かにこの可愛さ分けてあげたいわ」

「……それは誰の事だ?」

「さあ?だれのことかしらねぇ?――って何するのよ!!」


黒竜に顔を摺り寄せながら言うと私の腰に手を回し、担ぎ上げられた。

いくらドレスじゃないとはいえこちらとら立派な令嬢だ。扱いが雑すぎやしませんかね?


じたばたと暴れるが、そこは団長。びくともしない。それどころか「大人しくしろ」と睨まれてしまった。


(何よ……)


何をそんなにイラついてるのか知らないが、私に当たるのは筋違いだろ。なんて思いながら大人しく担がれたまま黒竜に乗った。


黒竜の方もアルフレードの機嫌が悪いことに気が付いているのか、若干ビクつきながら大きな翼を広げて空へと羽ばたいた。

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