第102話

人集りを掻き分けて、目にしたのは……


「──ッ!?」


頭から布を被され、ギロチン台に頭を置いているアルフレードらしき人物。特徴的な髪色も顔も見えず、本人かどうかは判断ができない。


「あれ、本当にアルフレード様ですか?」

「いや、どうかと聞かれたら、何とも言えないのが正直な所ですね……」


流石のクラウスも、これでは判別出来ないらしい。まあ、当然だろうな。今の状況で分かったら色んな意味で怖いわ。


せめて、髪色でも分かれば本人か確認できるが……


そう思った所で「カンカンカンカン!!」とけたたましく鐘が鳴った。その合図で、頭に被せられた布が取り払われた。


「「!!!!!」」


私達の目に飛び込んできたのは、血を浴びたような真っ赤な髪色。顔は俯いてて分からないが、髪色が本人だと言っている。


「クラウス様!!」

「ッ!!騒ぎを起こしたくありませんでしたが、致し方ありません!!」


今まさに、執行人によって斧が落とされようとしていた。もうなりふり構っている場合では無い。


すぐさまクラウスと共にギロチン台に上った。


「何だお前達は!?」


そう叫び声を上げたのは、儀式を執り行っているであろう教皇らしき者。

下りるように騒ぎ立てているが、一向に退かない私達に執行人が刃を向けてきた。

だが、素人同然の刃など、赤子と同等。すぐに払い落とすと、執行人を殴り飛ばし観衆の中へ。そうなると、辺りは一瞬にして阿鼻叫喚の大騒動になった。


その騒ぎに乗じて、クラウスがギロチン台からアルフレードを救い出したのを見て「ルド、お願い!!」と叫んだ。


ルドは「はいはい」と面倒臭そうな返事が返ってきたが、すぐに動いてくれた。


だが、一向に術が発動されない。


「ちょっと!!何してんの!?」


供物生贄が奪われそうになっていると気が付いた群衆が押し寄せる中、ルドの方を見ると茫然としながら「あかん、術が使えへん……」と呟いた。


「はぁぁぁぁぁ!?!?!?」


アルフレードを奪い返そうとする人々を必死に抑えながら叫んだ。


このぐらいの人数を蹴散らすのは簡単だ。だが、一般市民を傷つける訳にはいかないので抑え込むのが精一杯。この状況からアルフレードを抱えて逃げるのは、正直厳しい。


「ローゼル嬢、考えている暇はありませんよ!!」


クラウスは素早くアルフレードを抱えると、その場から駆けだした。


「──……チッ!!」


私はその場にしゃがみこみ砂を一掴みすると思い切りぶちまけた。これで多少の時間は稼げるはずだと、クラウスの後を追った。



◇◇◇



どうにか上手く撒けた私とクラウスは、一先ず身を隠せれそうな場所を探して町外れまで来た。そこで丁度いい具合の廃墟が目に入り、そこへ身を隠すことにした。


「大丈夫ですか?」

「ええ、まさかの事態だったけど、なんとか撒けて良かったわ。……ルド、魔術が使えないってどういう事?」


険しい顔で座り込んでいるルドに問いかけた。


「……分からへん……」

「分からんて……貴方、今術でその姿になってるんじゃないの?」


今のルドは省エネモードで豹の姿だ。この姿になるには術を施さなければならないのに、術が使えないとなればこの姿も保てないはずだが、こればっかりはルドにも分からないらしい。


今の状態ではこの国からの脱出も難しいらしく、ルドありきで乗り込んだ私達からすれば完全に詰んだ状態になってしまった。


「とりあえず、ルドの術が使えるまではあまり動かない方がいいわね……それより」


チラッと視線を送ったのは、クラウスが抱えている人物。気を失っているのか、不自然なほどに動かない。

いくら体を鍛えている騎士とはいえ、大の大人をずっと抱えているのは辛いだろうと、適当なドアを外し即席のベッドにして、そこへ寝かせた。


「……え?」

「……これは……」


寝かせて、初めて顔を見た私とクラウスは思わず声を上げた。


「誰やねん!!!!!!」


アルフレードだと思っていた人物は、まさかの人違い。全く見知らぬ者だった。


「いや、確かに、アルフレードにしては小柄だなと……」


クラウスが首を傾げながらそんなことを言っている。それならそうと早く言え!!


「人間違いとは言え、我々が追われる理由には変わりありせんし、彼をこのまま放って置く訳にはいきませんね」


確かにクラウスの言う通りだ。人違いとは言え、今の我々は人攫い。それも、生贄にすべき者をかっさらって来たのだから、町の住人は血眼になって探しているだろう。


まあ、こちらとしては命を一つ助けたと思えば、人違いだろうと悪い結果では無い。


「……にしても、本物は何処にいるのよ」

「それが分かれば苦労はしませんよね」


アルフレード似の少年に目を向けていると、背後から近づく気配に、私とクラウスが反射的に剣を抜いた。


「おっと、そんな物騒なもの向けんでくれ」


両手を挙げて、うっすらと笑みを浮かべているのは……


「クソ爺……!!」


先ほどの老人だった。



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