第103話
「いやはや、酷い目にあったもんじゃわ」
「酷い目にあったのはこっちよ!!デマ情報寄越しやがって、このクソジジイ!!」
額の汗を拭っている老人に、掴みかかろうとしている私をクラウスが必死に押さえつけて「まあまあ」と宥めてくる。
「儂の話を最後まで聞かなかったお主らが悪かろう?儂は止めたぞ?」
「ぐっ……!!」
それを言われたら何も言い返せず黙るしかない。
(それにしても、この爺さん……どうしてこの場所が分かった?)
私達の後を付いて来た?そんなはずは無い。焦って集中力が欠けていたにせよ、こんな爺さんに背中を取られるほど訛ってはない。
それに、足の速さからしてもほぼ不可能。
(本当にこの爺さん、何者だ?)
更に謎が深まる老人にクラウスが鋭い目を向けた。
「今回の件は、貴方の言葉を最後まで聞かなかった我々に非があります。そこは謝罪致します」
深々と頭を下げるクラウスに思わず、チッと舌打ちが出る。
「それにしても、ご老人だと言うのに大した脚力と肺活量をお持ちのようですね。ここまでの距離を息も切らさずにやって来れるのですから。今後の為に是非、ご教示頂きたい所です」
嫌味ったらしく言うクラウスに、老人は不敵な笑みを浮かべている。
「ほっほっほ、時期が来たら教えてやってもよかろう?だが、今は儂のことよりやるべき事があるんじゃないのか?」
この爺さんの言う通りだが、肝心なアルフレードの居場所が分からないし、ルドの術も使えないとなっては為す術がない。
それに、
今だ目を覚まさない男を眺めつつ考えを巡らせていると突如、老人が気を失っている男を蹴り飛ばした。
「はっ!?」
「ちょ、何してるんです!?」
私とクラウスが慌てて止めに入るが、気にせず蹴り続けている。
傍らではルドが「爺さん、ご乱心か!?」と爆笑していて、この場は一瞬でカオスな状況と化していた。
「………っ………て……………痛ってぇって言ってんだろ!!このクソジジイ!!!!!!」
男は目を覚ましたと同時に、老人の胸ぐらを掴みあげた。
「おや、なんじゃ生きておったのか?てっきり死んだもんかと思うとったが」
流石にあれだけ蹴られば目も覚めよう……
男は散々蹴られて、助けた時よりボロボロになっていた。
(この爺さん、加減つーもんを知らんのか?)
呆れながら見ていると「そういえば、僕はどうして……」と口を開いた所で男がこちらに気がついた。
「す、すみません!!人がいるとは思わず、お恥ずかしい!!……もしかして、僕を助けてくださったのは……?」
「まあ、完全に人違いでしたが、結果的にはそうなりますね」
クラウスがニッコリと微笑みながら伝えると、男は「す、すみません!!」と首がもげそうなほど頭を下げてきた。
別に彼が助かった事に対しての怒りは無い。むしろ良かったとすら思える。元はと言えば……
「爺ちゃん!!あんた
「お前は今までの話聞いとったか!?儂は悪くわないわ!!失礼な事を申すな!!」
「何言ってんだ、クソジジイ!!現にこの人達に迷惑かけてんだろ!?」
取っ組み合いの喧嘩を始めた二人。
会話から察するに、この二人は血縁関係である事が分かった。それと、この爺さんが時折他所で人を騙していると言う事も。
(碌でもない爺さんだわ)
孫に迷惑かけて……
要はこの爺さん、自分の孫を助けたいが為に私達を利用したんだろう。憎たらしいこと言っているが、孫は可愛いって事か。
「祖父が大変申し訳ありませんでした。なんとお礼を申し上げたら……」
自分の祖父を容赦なくボコボコにした男は改めて、こちらに頭を下げて謝罪した。
「僕はユーシュと申します。そこに転がってるのは、祖父のユーエンです」
ユーシュに両親はなく、ユーエンと二人で山の小さな小屋で細々と生活してきたらしいのだが、ある日、町におりて来た時に風でフードが煽られ、顔が露になってしまった。
その顔を見た町の衆は次の生贄をユーシュに決め、すぐに拘束されてしまったという事らしい。
「え、ちょっと待って、このフードって
「そういう意味合いもあるという事じゃ」
元々は宗教的なものだったが、女神に見初められないように自分を護るという意味合いもあって全身を包んでいるらしかった。
「それで、どうやって助けようかと悩んでいた所へ丁度良く
「断片的に言えばそうじゃな」
「…………チッ、完全にやられた」
勝ち誇った顔で口元を吊り上げて言うユーエン。
焦っていたとはいえ、爺さんの手の上で転がされていたという事実が悔しくて腹立たしい。
話を聞いていたユーシュは、こちらが気の毒になるほど頭を下げ続けている。
「ここで揉めていてもしかたありません。アルフレードの居場所を早急に特定しなければ」
クラウスの登場で、その場はとりあえず黙った。
「そういえば、爺さんあんた、私達に警告があるとかどうとかって言ってたわね」
思い出したように私が問えば「ああ、そんなことも言ったかな?」と髭を触りながら、誤魔化すように明後日の方向を向いている。
「……もしかして、それも嘘って言うんじゃないでしょうね?」
「ろ、老人虐待だぞ!!」
胸倉を掴みながら睨みつけると、ここぞとばかりに老人だという事を主張してくる。
この爺さんと長年一緒にいたユーシュがすごく不憫に思えてきて、思わず憐みの視線を向けてしまった。
視線に気づいたユーシュは、苦笑いを浮かべていた。そして──
「その件につきましては、僕からお話いたします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます