第78話

アルフレードと国王の一戦は互いに一歩も引かず、相変わずの苦戦を強いられていた。


だが、大分国王の方に疲れの色が見え隠れし始めた。口では何と言えようとも歳と身体は正直だ。

ここら辺で一気にカタをつけたい所だが、相手の負けん気は人一倍強いらしく、中々隙とタイミングが合わない。


まあ、自ら負けた者は国に不要だと宣言してるぐらいだからなぁ。自分が負けたら目も開けられないよねぇ。


「どうした?大分スピードが落ちてきたみたいだが?」

「はっ、なんだ?この程度落ちた位でもう勝ったつもりか?──小童が舐めるなよ」


アルフレードに煽られて反論するようかのように口を開いたが、傍から見たら強がっている風にしか見えない。


これはこのまま勝負が付きそうだと安心していたが、不敵な笑みを浮かべた国王が胸元のネックレスに手をやると荒々しく引きちぎった。かと思えばそれを躊躇なく飲み込んだ。


「……は?」


ネックレスを飲み込んだ国王は、先程とは打って変わって禍々し雰囲気に変わり、一瞬にしてアルフレードを吹き飛ばした。


「わはははははは!!どうした?先程の勢いがないようだが?」


高々に笑う国王を茫然と見ていたら、エルスが素早く剣を取った。


「完全にやられましたね……あれは黒魔術の類でしょう。 最初からこの時のために隠していたんですね。こうなっては四の五の言ってる場合ではありませんよ」

「…………」


私も剣を取ると、エルスの合図で同時に斬りかかった。


「無駄だわ!!その程度では私には勝てん!!」


剣は国王に届く前に何らかの力で弾かれ、私とエルスは体ごと吹き飛んだ。


「ちょっと!!これじゃどうする事も出来ないわよ!?」

「──ちっ、こんな時、あの駄犬がいてくれれば……」


エルスがそんな事を呟くと


「呼んだぁ?」

「…………………ルド!?!?!?!?」

「はぁい、ルド君です」


いつもの様に場の空気をぶち壊すぬるい感じで現れた。この時のルドはまさに救世主の様に輝いて見えた。


まあ、本人には言わないけどね。調子に乗るから。


「ルド、もう平気なの!?」

「おかげさんでな。……と言いたいとこやけど、まだ力はそこまで戻っとらん」

「は?では何しに来たんです?見学なら他を当たって下さい」


エルスが辛辣な言葉をかけるが、ルドは気にする様子もなく続けた。


「嫌やわあ、そっちが僕ん事呼んだんやろ?」

「呼びましたけど、まさか駄犬で現れるとは思いもしませんでしたよ」

「あ、その件はあとで話がありますぅ」

「くだらないお喋りはいいから!!打開策を簡潔に教えなさい!!」


この二人が言い合いだしたらキリがないから早々に止めに入り、ルドに鋭い視線で問いかけた。


「答えは簡単や。核を狙えばええ」

「いや、貴方……」


簡単と言いつつ、難易度高っ!!流石のエルスも頭を抱えているし……

そもそも、飲み込んだものを狙えという方がおかしいんだよ。


「……お嬢、飛び道具持っとるやろ?」

「え、ああ」


母様から預かった銃があるけど。


「僕が核の場所を教えるから、お嬢はそこに弾を打ち込んでくれたらええ」

「………………………………はぁぁぁぁぁぁ!?」


ルドは簡単だと言い張るが、こちらとしたらプレッシャーと責任が重く押しかかるのを分かっているのだろうか。

向こうだって馬鹿じゃない。きっと一発で仕留めないと二度目はない。いくら銃に自信があったとは言え、中々の無茶ぶりだ。


「そういう事でしたらお嬢様に任せましょう」

「は!?ちょっとエルス正気!?」

「失礼ですね、私はいつだって正気ですよ。それに、お嬢様はやれば出来る子ですから」


エルスの不意に見せた優しい笑顔に、私は慌てて顔を逸らした。

いつもは鞭しか出してこないくせに、たまに出す飴の威力たるや言葉にならない。

急いで熱の篭もる顔を冷まそうと手で仰いでいると、頭に大きな手が乗せられた。顔を上げると、そこにはボロボロのアルフレードがいた。


「難しく考えるな。いざとなれば私が何とかする」

「それって……」


死ぬ気?とは聞けなかったが、アルフレードには言いたいことが分かったようで、眉を下げ小さな子供に話しかけるように優しく語りかけてきた。


「安心しろ。私は死なん。お前に話したい事もあるからな」


いつもなら子供扱いされて怒る所だが、今は何故か胸が熱い。


エルスといいアルフレードといい、いつもは憎まれ口しか言ってこないのに、こう言う時に限って甘やかしてくる。

二人を見れば、大丈夫だと言わんばかりに微笑んでいる。


(まったく……)


私は意を決したように深呼吸した。


「分かった。やってやるわ」


そう宣言すると、改めて国王と向き合った。


「なんだ?作戦会議は終わったか?まあ、無駄な事だがな」

「無駄か無駄じゃないか、直に分かるわよ」

「言うな小娘。ではお前から殺してやろう!!」


私目掛けて振りかざされた刃はアルフレードとエルスによって食い止められた。


「こちらを忘れてもらっては困る」

「──雑魚共が」


エルスとアルフレードが囮になってくれている間にルドが身体の中にある核の場所を探していた。


「ルド、早く早く!!」

「そないに急かさんといて!!」


なにぶん派手に動き回ってくれているので中々焦点が合わないらしい。こうしている時間さえ惜しいが、私にはどうする事も出来ない。


その時、鈍い剣の音が響いた。


見ると、アルフレードの剣が真っ二つに折られている。あれではもう戦えない。エルスだってもう長くは持たない。

国王は下品な笑いを見せながらアルフレードに剣を向けている。


私は唇に血が滲むほど強く噛み締め、この場から動かない様足を踏ん張った。本当は助けに行きたくてしょうがない。目の前で殺られそうになっている者を黙って見ている事しか出来ない、このやるせなさ。二度と経験したくない。


「──よっしゃ!!見つけた!!」


ルドの言葉と同時に私は銃を構えた。ルドは私の肩を抱くと、記憶を共有する様に頭をくっ付けた。


「ええか、よく見ぃ。あいつの中心部。小さく光っとる場所があるやろ」


目を凝らし見つめていると確かに一箇所、小さく光る場所がある。あそこを狙えという事か……


ぐっと銃を握りしめる手に自然と力が入る。その力の籠った手を包むようにルドの手が置かれ、強ばっていた身体が嘘ように軽くなった気がした。


フーと深く息を吐き再び国王に目をやると、今まさにアルフレードに向けて剣が振り下ろされようとしている場面だった。が、こちらとしては好都合。


(懐がガラ空きね)


そして、一発の銃声音が響き渡った……







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