第79話

パーーーーン………


大きな銃声音が響いた後、しばらく静寂が訪れた。

それをぶち破ったのは……


「な、な、何故だ……!!!認めん……認めんぞ!!私が負けるはずがない!!」


私の放った銃弾は見事、核に命中。核を失った国王は、力を使った代償に体が徐々に砂に変わり風に溶けている。だが、己が負けたという事実が受け入れなれないようで体が砂に変わりながらも必死にアルフレードに牙を向けている。


「もう諦めろ。お前は負けたのだ」

「私は負けん!!この国の王なのだぞ!!」

「……確かに、お前は強かった。だが、魔術に手を出した時、お前は我々に勝てないと思ったのだろう?その時点で既に勝敗は決まっていた」


アルフレードが言っていることは最もだ。今の実力ではアルフレードに勝てないから魔術の籠ったペンダントを口にした。戦略としては悪くないが、それは己自身の力とは言えない。


「違う!!!私が、私が最強なの──!!!」


その叫びを最後に、国王の姿は砂となって消えた。

最期の最後まで自分の行いを認めずこの世を去ってしまったが、まあ、これはこれで良かったのかもしれない。最期まで自分が最強だと信じながら逝ったのだから本望だろう。


(何はともあれ、ようやく終わった……)


私はその場にドサッと腰を下ろしながら空を見上げた。



◇◇◇



その後──


まず、魔術師達と戦っていたクラウスとエミールは、国王がこの世を去ったと同時に魔術師達が自分達が負けた事に気付き、一斉に攻撃をやめたらしい。不思議に思ったクラウスだったが、魔術師の一人が「陛下……」と呟いたのを耳にして察した。

まあ、すぐにルドが駆けつけ経緯を説明したのち、魔術師達を拘束したのだけどね。


そして、国王が崩御したという報せはあっという間に国全体に広まった。妻であった王妃は、後を追う様に自室で自害しているのを侍女が見つけた。この人は良くも悪くも国王に人生を縛られた一人だったが、最期は共にありたいと願ったのか……それとも、自身に向けられる目を恐れたのか……真相は分からない。


これで遺された王族はアラン一人になった訳だが……


「ローゼル。いや、ローゼル嬢、本当に申し訳なかった」


ベッドに横になる私に深々と頭を下げるのは実質上この国の王となったアランだった。


アランの身体に纏わり付いていた呪いだが、解術させようと魔術師を連れて行ったが、いつの間にか綺麗に消えていた。

魔術師曰く、父である国王が身罷ったので、それが影響したのではないかと言っていた。


「私の命を助けてくれたばかりか、この国を守って頂いた。この恩はこの身が終わるその時まで忘れる事はない」


最初の印象とはまるで違うアランの雰囲気に若干驚きつつ、嬉しいとも思ってしまう。アランはアランでこれから背負っていくものの大きさを感じ取り、自分を見直そうとしているのだろう。それが嬉しいのだ。


「硬っ苦しい挨拶はそこまでにして、一緒にお茶でもどう?」

「……いいのか?」

「当然よ。私達友達でしょ?」


そう言ってベッド横へ座るように促すが、アランは躊躇しているのか中々傍によらない。


「?どうしたの」

「……いや、目が……」


言いにくそうに言葉にされてようやく気がついた。私の傍で殺気を纏っているエルスがいることに。


スミリアここに来る前からアランに良い印象を持っていなかったエルスだが、媚薬の一件や父親の不道徳。嫌悪感を増すには十分過ぎる。

だが、アランはこうして目に見えて改心する姿が伺えている。


「エルス。威嚇はやめなさい」

「失礼ですね。威嚇とは……私は獣ですか?牽制ですよ」


眼鏡を光らせながら言っても同じ事だ。


「どちらも同じ事でしょ?いい加減にしないとこの部屋から追い出すわよ?いいの?私とアラン、になってしまうわね」

「…………………分かりました」


渋々だがアランにもお茶を煎れ、私の横に大人しく立っている。それを見て、アランもようやく席につき一息ついた。


席に着いても暫くは俯いたまま黙っていたが、意を決したのか随分と小さな声が聞こえた。


「……ローゼル嬢、ひとつ聞いてもいいだろうか」

「なに?」

「……私は立派な王になれるだろうか……」


この国は腐ってる。それはアランが一番よく分かっているからこその言葉なのだろう。

国王を支持していた者は一掃し、イルダの一件に加わった者も全員捕えてある。


とはいえ、この国はガドル国の管轄下になるから王なんて名ばかりで、殆どの決定権はガドル国にある。それでも国王としての役目を果たそうとするその姿勢は認める。

暫くは監視の目があるだろうが、今のアランならしっかり功績を残し、元のあるべき姿のスミリアに変えてくれるだろう。


その意味合いを込めて「当然」と一言だけ伝えた。


アランはその一言だけでも十分だったらしく、満足気に微笑んだ。落ち着いた空気が漂い、ゆったりお茶を啜っていると部屋の外が騒がしくなった。


「ええ加減にしいや!!しつこいねん!!」


勢いよく扉が開かれるたのと同時にルドが飛び込んできた。その後ろには魔術師をゾロゾロ引き連れている……


「何事!?」と私が口にするより先にエルスがルドの胸ぐらを掴んでいた。


「この駄犬が……獣の分際で主の部屋をノック無しで入ってくるとはどういう了見でしょうね?」

「誰が獣や!!つうか、なんやねん!!なんでこいつがここにおんねん!!」


ルドが指さしたのはアラン。指さされたアランはビクッと肩を震わせたが、すかさずエルスがルドの頭を殴りつけた。


「人を指さすんじゃありません」

「はあ!?なんで僕が殴られるん!?」


そんなやり取りをしている後で魔術師達がルドを必死に呼んでいて、この場はまさにカオスな状態。


「ちょっと、落ち着いて──」


皆を宥めようと声を掛けるが、聞いているものは誰もいない。その内、イライラが募り父様譲りのナイフを思いっきり壁に投げつけた。

ナイフはルドとエルスの顔の間を抜け、魔術師のフードを突き破り壁に突き刺さった。


そこでようやく大人しくなった者らに、満面の笑みをお見舞すると一斉に頭を下げた。

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