第80話

落ち着いたところで、なんでルドが魔術師らに追いかけられていたのか話を聞いた。


「ルドルフ殿には是非、この国に残って魔塔主となり我々と共に、この国の未来を担って頂きたい!!」


どうやら、ルドのお師匠様であり魔術師達のトップであったイルダがいなくなり魔術師達も混乱しているようで、目を付けたのが魔術も魔力も同等レベルにあるルドだった。


「嫌や!!この国の未来がどうなろうが、僕の知ったこっちゃあないわ!!」


当然ルドは上につくような者では無いし、適当が代名詞の様な人間がトップになんてなったら、それこそアランの問題の種が増えるだけなので、この件に関しては全力で私も止めた。


「……そんな……ルドルフ殿に見限られたら我々は……」


ガックリ肩を落とす魔術師達を哀れには思うが、こればかりは仕方ない。


「ああ、そうやわ、あいつがおったわ!!」


ポンッと手を打ちルドが言うが、あいつとは?


「ほら、おったろ?この国に来る前に一悶着やった奴が」

「…………………………ああ!!」


それは雨で視界が悪くなり急遽野営をする事になった時に会ったルドの兄弟弟子のダズの事。


「あいつはここにおる奴よりは力はあるで適任やろ。まあ、僕にはまだまだ及ばんけどな」


皮肉混じりに言うが、同じ弟子で認めているところはあるのだろう。


(本当、素直じゃないんだから)


ダズはガドル国に送られた後、尋問の為に捕らえられているがクラウスが話をつけてこちらに引き渡す様手筈を踏んでくれるらしい。


魔術師達もそれでいいと言ってくれたし、これでこの国の問題は粗方片付いたかな。


──後は、我が家に帰るだけだ。




◇◇◇




国王の一件から数日後、ようやく帰国の目処が立ち本日帰国します!!


「本当に世話になった」


身支度を整えた私達に向かって頭を下げるのはアラン。それに新たに迎えた臣下らと、第一、第二部隊の近衛隊も揃って頭を下げている。


第一部隊の隊長であるデヴォンは、傷を負ったアルフレードを見舞いに行った際、知らなかったとはいえ己が仕えていた国王の醜態を恥、誠心誠意謝罪したようだ。


当然、大会は中止。各国から呼ばれていた騎士らは早急に帰国の途に着いたが、その際アランは騎士らの口を塞ぐ様なことはしなかった。

国に戻った騎士はこの国について様々な憶測混じえながら経緯を報告をするだろうが、どんな言葉でも甘んじて受け入れるつもりだと言っていた。そして、その言葉を自らの力で払拭していくと力強く宣言していた。


なんとも逞しくなったものだ。


安心してこの国を出れる。そう思っているのだが、一点だけ気になる事がある。


「……………なんであんたがこっち側にいるのよ」


当然のように私の隣にいるエミールに声をかけた。


「おや、私は貴女について行くとお伝えしてましたが?貴女もそれを承知してくれましたよね?」

「いや、まあ、考えるとは言ったけど、些か性急じゃない?」

「私はもうこの国の騎士ではありません」

「は?」


どうもエミールは本気で私に付いてくるつもりだったらしく、既に近衛隊を除隊していて、完全に無職の状態。


「すまない。こいつは一度決めたら曲げないんだ。どうか一緒に連れて行ってやってくれないか?と言うか、誰かが手網を引いていないと危ないんだが、貴女なら上手く扱えると思う!!だから、頼む!!」


デヴォンが私に向かって頭を下げる。その後ろで第二騎士達も「隊長をお願いします!!」と一斉に頭を下げている。


おいおい、面倒事を押し付ける気満々じゃねぇのかい?


まあ、今ここで私が断ってもこの粘着質な変態騎士は諦めないだろうし、しつこく付き纏われるのならば傍に置いて置いた方が時間も体力も無駄にならない。


「はぁぁぁぁ~……分かった。分かりましたよ。一緒に連れて行きます」


深い溜息を吐きながら伝えると、デヴォンは嬉しそうにしているエミールの肩を抱き「良かったな」と言っていた。


「……お嬢様……この件につきましては後ほどお話いたしましょうね?」


背後でエルスの落ち着いた声が聞こえたが、とても顔を見れず私は前を見据えたまま顔を引き攣らせていた。


「準備は出来たのか?そろそろ行くぞ」


アルフレードの急かすような言葉が聞こえ、振り返ると沢山のご令嬢や侍女らに囲まれたアルフレードとクラウスの姿があった。


(お~お~、相変わらずおモテになる事で……)


アルフレードは王弟という事もあり、ここぞとばかりにお近づきになりたい貴族らが縁談を持ちかけたが全て撃沈。ならば聖騎士の団長であるクラウスはどうだとチャレンジしたが、笑顔で論破され撃沈。それでも女性の人気は絶えず、こうして帰国寸前まで迫られている。


一人ぐらいお手付きにしても良かろうものを、何が気に食わないんだ?とジト目で見つめていると、視線に気づいたクラウスが近付いて来た。


「何かよからぬ事を考えている顔ですね」

「別に。ただ、それだけの女性を侍らかせているのは如何なものかと思っただけです。とっとと身を固めた方が宜しいのでは?」


嫌味ったらしく伝えるが、クラウスは何故か嬉しそうに微笑んでいる。


「そうですね。貴女が言うのなら身を固めるのもいいかもしれませんね」


おや、珍しく素直だ。てっきり嫌味で返ってくると思ってたのに、拍子抜けしてしまった。


「おい、くだらん話は終いだ。行くぞ」


ご機嫌なクラウスとは反対に、何故か不機嫌MAXなアルフレードに腕を引かれつつ、アランに別れを告げた。


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