第77話

アルフレードが今まさに決着を付けようとしていたその時……


ドンッ!!!!!!!


凄まじい爆発音が聞こえ、城の一角は大穴が開き瓦礫と共に土埃が舞っている。その様子を目にした者達は一瞬にしてパニックになり、場内は阿鼻叫喚に変わった。


「何が起こった!?────ッ!?」


ふと城の方に目をやると、ローゼルと従者の男が下に落ちるのが見えた。

冷静沈着と呼ばれるアルフレードもこの時ばかりは全身の血が失われるような感覚に陥った。


「ティーダ!!すまん!!ここは任せた!!」

「はあ!?どこ行くのさ!!あ!!ちょっと──ッ!!」


ティーダの言葉を聞き終える前に、ローゼルが落ちたであろう場所へ急いだ。ティーダすらもあそこまで慌てているアルフレードを見るのは初めてだった。

まあ、瞬時にローゼル絡みだなとは察したティーダは深く溜息を吐くと、現場を纏める為に騎士達に指示を出し始めた。




◇◇◇




「いたたたたた………」

「お嬢様無事ですか?」


ガラガラと瓦礫の中から這い出でると、先に出ていたエルスが手を差し伸べてくれた。


「ええ。エルスは大丈夫?」

「私を甘く見ないでいただけますか?」

「はいはい。それはすみませんでした」


土埃まみれの服を叩きながら軽くあしらっていると、背後から私の名を呼ぶ声が聞こえた。


「ローゼル!!!」

「閣下!?」


振り返るとものすごい勢いでこちらに向かってくるアルフレードの姿が見えた。

呆気に取られてるうちに傍に寄って来たアルフレードは額に汗を浮かべていた。それほど急いでここに駆けつけてくれたのだろう。


「一体何があった」


額の汗を拭いながら前髪を掻き上げる姿は艶っぽく目に毒。私は赤らむ顔を気づかれぬよう顔を逸らしながら経緯を説明した。


「クラウス様と変態騎士だけで大丈夫でしょうか?」

「まあ、あちらはクラウスがいれば大丈夫だろう」


変態騎士で通用してしまうのだから人の言葉と言うのは恐ろしい。クラウスの事は一応心配している様だが、心配の分だけ信頼と実力があるって事だろう。


そんな悠長に考えいる私を他所に、アルフレードは城を見上げながら溜息を吐いた。


「まったく、自らの城を破壊してまで我々を陥れようとするとはな」


見上げた先には薄ら笑いを浮かべる国王の姿があり、その手には大きな剣が握られている。


「あら、誰かと思えば……逃げ隠れするのは止めたの?」

「本当に口の減らん女だ。私がいつ逃げるなんて言った?こうして目の前に壊れにくい玩具があるんだ。私も楽しませて頂こうか?」


なんともまぁ、戦闘狂らしい見事な発言。百点満点だわ。思わず拍手を送りたくなる。


とは言うもののいくら名を馳せた戦闘狂とて、よる年波には勝てまい。こちらは今だ現役。負ける訳がない。



──と、若干タカをくくっていたのだが



「く──ッ!!!」

「閣下!!!」


しばらく戦闘から離れていたにもかかわらず、大振りな剣を見事に扱う姿はブランクなど微塵も感じせない。


あれだけの大きさの剣を振るうには相当な体力も必要だと思うが、疲れの色すら見られない。なんならスピードすらも変わらない。


(化け物か!?)


思わずそんな言葉が浮かび上がる。


今まで培ってきた力の差を見せつけるように、服から覗かせる肌には幾多の剣傷がある。どれだけの死闘を繰り返して来たのか……


「噂に名高い竜騎士も大したこと無いな。私にかすり傷すら付けられんとは」


侮辱するような事をぶつけられ、アルフレードの顔が一気に険しくなった。


こういう場面では一対一が暗黙の了解とされてきたが、アルフレードが押されているのではそうも言ってられない。

私は自然と剣に手が伸びた。


「それを抜くなよ」


剣を抜こうとしたら射殺さんばかりの睨みを効かせてきたもんだから、一瞬で竦み上がってしまった。


「……すまん。加勢が必要だと思わせた私も悪いのだが、ここは一人でやらせてくれ」


珍しく素直なアルフレードに鳥肌が立つが、言っていることは分からんでもない。

誇りに思っている竜騎士を馬鹿にされたんだ。怒らない方がおかしい。


全ての意図を汲み取り、私は黙って剣から手を下ろした。


アルフレードは満足気な顔をして、再び国王に飛びかかって行った。


「……宜しかったのですか?」

「何が?」


前を見据えていると、横からエルスが口を挟んできた。


「正直申しますが、この勝負五分です。むしろ若干押されているこちらが不利。お嬢様と私が加われば確実に勝算があります」

「……そんなこたぁ分かってるわよ。けど、ここで私達が手を貸してしまったら竜騎士団長としての面目丸潰れになるでしょ?それに、あの人なら大丈夫よ」


額の汗を飛び散らせながら剣を振るうアルフレードを見ながら呟くと、エルスは呆れつつも黙って勝負の行く末を見守った。

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