第12話
──その頃、聖騎士団は……
「団長!!これ以上は無理です!!」
「泣き言は聞きかん!!それでも騎士か!!」
移動劇団だからと高を括っていたが、思った以上に入り組んだ内部に私達は手を焼かれていた。
それに、この場にいるはずもない魔獣が私達の行く手を塞いでいる。
斬っても斬っても、何処からともなく湧いて出てくる。そんな魔獣に部下達の体力にも限界が来ている。
「……どうなっている?」
明らかにおかしい。普通じゃない。まるで魔法にかかったみたいな……
そこでハッとした。
「何処かに魔法陣があるはずだ!!探せ!!」
部下に命令すると樽や棚を蹴り飛ばし、陣を探し始めた。
しばらくすると、紫色に光る陣を発見した。その陣からは魔獣が勢いよく飛び出していた。
「やはり……」
私はその陣の真ん中に自分の剣を突き刺した。
すると、陣はスゥと消えていった。
全員がホッとしている中、後ろから拍手が聞こえてきた。
「流石は聖騎士団の団長様やね。僕の術を見破るとは流石やわ」
真っ黒いローブを深く被り、チラッと顔が見えるが表情は読み取れない。唯一、片耳に付いた耳飾りがシャランと揺れているのが見えた。
「褒められても嬉しくはありませんね。……察するに、貴方が噂の黒魔術師ですか?」
「どんな噂が流れてるか知らんけど、僕が魔術師なんは正解」
まさかここに魔術師がいるとは思いもしなかった。
(てっきりヘルツェグ男爵家にいると……)
それとも、そちらは片が付いたのか?
いや、それなら何故奴が目の前にいる?
(……もしや、ローゼル嬢!?)
一瞬、考えてはいけないことを考えてしまった。
シェリング家の者が簡単に殺られるはずがない。──そう頭で言い聞かせるが、最悪の事態しか思い浮かばない。
「ん?もしかして、
その言葉に思わず男を睨みつけてしまった。
『あの令嬢』と言うのはローゼル嬢で間違いない。
「ははっ、まさか本当やの?駄目やで?団長共あろう方が戦場で心を乱すんは。──……それは、死を意味すんで?」
口元がニヤッとしたのが分かり、身構えたが一足遅かった。
「「ぐはっ!!!!」」
何が起こったのか分からなかった。それ程一瞬の出来事だった。
その一撃で周りの騎士がほぼ壊滅。息はあるものの到底動ける様子ではない。
ギリギリ持ちこたえているのは私だけ。
「へぇ。流石やん。今ので倒れんかったんは凄いなぁ。でも、もう動けんやろ」
「──ぐっ」
「じゃあ、僕の仕事は終わりや。男爵、これ、どないすんの?」
男が振り向きながら誰かを呼んでいた。
(今、男爵と……?)
ゆっくりと階段を下りてくる姿を見て驚愕した。
「……ヘルツェグ男爵?」
「おや?聖騎士団団長のクラウス様ですか。お久しぶりですな」
なぜ、ここにヘルツェグ男爵が?
ヘルツェグ男爵はローゼル嬢が拘束したのではないのか!?
私は考えたくない……いや、
「……一つお聞きしたいんですが……ローゼル嬢はどうしました?」
堪らず私はその名を口にしていた。
「ローゼル?──……あぁ、シェリング伯爵家のご令嬢ですかな?──さあ?私はずっとここにおりましたからな。あぁ、そう言えば、私はもう屋敷に戻るつもりが無いので、処分するつもりで爆薬を仕掛けてきましたな。もしかしたら今頃は瓦礫の中じゃないですかね?がははははは!!!」
(なんて事だ……)
私はヘルツェグ男爵の言葉に絶望した。
やはり私が一緒に付いていくべきだった……私なら異変に気づけたかもしれない。
いくらシェリング家の令嬢とはいえ、年端も行かない少女じゃないか。
そんな子を私は……
ギュッと拳に力が入った。
「まあ、団長様に恨みはありませんが、色々と知られてしまっていては、このまま生きて返す訳にはいきませんなぁ。──……大人しく死んでくれますかね?」
男爵がそう言うと、数人の男が裏から出てきて私達を囲んだ。
なるほど、外道は最後まで外道という事か。
ギリッと歯をくいしばり、姿勢を正した。
(……もって数分……)
ここで殺られる訳にはいかない。ローゼル嬢の為にも……
「──やれ」
その一言で、男共が襲いかかってきた。
だが、足を踏ん張り剣を構えた私に辿り着く前に男共は倒れていった。
一人の男は頭が弾け飛び肉片と血飛沫が辺りを染め、一人の男は体が真っ二つ。他の男共も片腕や両足が無くなっていた。
「──……まったく、手間かけさせてくれちゃって」
カツカツと靴を鳴らしながらやって来たのはローゼル嬢だった……
「ローゼル嬢!!無事だったのですか!?」
「……失礼ですね。私が殺られると思っていた言い草ですよ?」
彼女が不機嫌に返してきたので「すみません。失言でした」と謝罪した。
彼女は急いでここに駆けつけてきたのだろう。汗は滴り、必死に息が切れていないように振舞っているが、バレバレだ。
見たところ怪我などしている様子もなく、私は安心した。
それよりも、驚くべきことは彼女が手にしている武器だ。
彼女のその武器は鞭。
(まさか、あれでこの惨状を!?)
それに、血飛沫を浴びた彼女の姿はとても美しく思わず目を奪われた。
「すみません、クラウス様。話は後です。こいつらは私が殺っても問題ありませんよね?」
前を見据えて、こちらを見ずに問いかけてきたローゼル嬢は殺気にまみれていて、少女とは到底思えない顔をしていた。
(この私が怯むなんて……)
「……どうなんです?返答がないのは了承したとみなしますよ?」
私が黙っていると、ローゼル嬢に睨まれた。
私は両手を挙げて降参のポーズで返事を返した。
「えぇ。結構ですよ。──……私が手を出すとお邪魔になりそうですしね」
「いい決断です」
なんと言う娘なんだ。こんな令嬢見たことがない。
──そう言えば、少し前にアルフレードも「面白い令嬢に会った」と言っていたな。
その令嬢とはきっとローゼル嬢の事だろう。
アルフレードが令嬢に興味を持つなんて珍しい事もあると思ったが、確かにこれでは興味を持たずにはいられない。
(……もっと知りたい……)
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