第13話
クラウス達を探して劇場へ乗り込んだまではいいが、場所がわからない……
手当たり次第に部屋のドアを蹴り破りながら進んで行くが、中々出くわさない。
「あ゛ぁ゛~~!!もう!!何処よ!!」
いい加減面倒くさくなり、壁ごとぶち破りながら先に進もうかと考えていた矢先、どこかから幼い子供の啜り泣く声が聞こえてきた。
「……確か人身売買してるって言ってたっけ?」
という事は、囚われている人がいるという訳で……
私はすぐに泣き声のする方を確認した。すると、それは地下に続く階段の下から聞こえてきた。
階段を降りて行くにつれ、ツンとした臭いが鼻をついた。
(なんだ?この臭い?)
その臭いの原因はすぐに判明した。
「これは、酷い……」
薄暗い地下には一つの牢があり、そこには何人もの人が閉じ込められ、食事もろくに食べさせてもらっていないのだろう。頬は痩せこけ、身体はガリガリ骨と皮だけ。髪もボサボサでお風呂に入っていないから身体は垢まみで薄汚いくなっている。
中には生きているのか分からない人もいた。
誰一人、目に光が灯っていない。それは、まるで前世での幼い頃の私みたいに……
苛立つ気持ちを押さえ込み、鍵を壊した。
そして、動けるものは外へ行くよう促し、動けないものは騎士が来るまで残るように伝え、その場を後にしようとした。
すると一人の女の子が私の服を掴み、泣きながら私を見ていた。
「お姉ちゃんは?どっかに行っちゃうの?また、私捕まるの?」
まだ三、四才歳の幼い女の子。まだまだ母親が恋しい時だろうに。
こんな子を誘拐するなんて……
(ほんと、胸糞悪ったらありゃしない……)
私は女の子と同じ目線になるようしゃがんだ。
「お姉ちゃんは今からちょっとお仕事があるの。いい子だから、騎士のお兄ちゃんが来るまで待っていられる?」
私はそっと女の子の頭を撫でながら優しく問いかけるように言うと、女の子は「うん。分かった。待ってる!!お姉ちゃんも早く戻ってきてね!!」と、可愛らしい笑顔で言ってきた。
女の子に手を振りその場を後にすると、今度は悲鳴が聞こえた。
「こっちか!!」
声を頼りに進んで行くと、扉から光が漏れていた。
その扉を開くと、血の海が広がり騎士が倒れていた。
辛うじてクラウスだけが立っているが、何時までももたない。
そして、その先には魔術師だと思われるローブの男とヘルツェグ男爵の姿があった。
(やっぱり、ここにいたか……)
すぐに捕らえようとしたが、それよりも先にクラウスを助けるのが先決っぽい。
クラウスは数人の男に囲まれ、今まさに最大の危機だと思われる。
スルッと背中に忍ばせておいた鞭を手にし、一人二人と攻撃した。
私が現れたことにクラウスは目が飛び出さんばかりに驚いていた。
どうも私が死んだと思っていた様だ。
大方、ヘルツェグ男爵が屋敷に爆薬を仕込んだとでも言ったのだろう。
(残念。生きてますけど?)
まあ、驚いているのはクラウスだけではなく、当然ヘルツェグ男爵もその一人。
「──な、な、な、何故生きている!!?間違いなく屋敷は吹き飛んだはず!!」
「ええ。ちゃんと吹き飛んだわよ?あんな手の込んだことをしてまで私を亡き者にしたかったの?──……残念ね。計画がおしゃかになっちゃって」
クスッと微笑むと、顔を真っ赤にしたヘルツェグ男爵が残っている男達に私を始末するよう命令を下した。
男達は一瞬怯んだが、金で雇われてい以上主人の命令は絶対。
覚悟を決めた一人が私に飛びかかってきたが……遅い。
「がはっ」
男の剣を足で上に弾き飛ばし、その剣を手に取りそのまま男を串刺しにした。
「……ねぇ。準備運動にもならないんだけど?」
血のついた剣を舐めながら問いかければ、残っていた男共が「ば、化け物!!」「こんなの聞いてた話と違う!!」「金はいらねぇ!!俺は降りる!!」様々な言葉を残し、金と剣をその場に捨てて逃げて行った。
残されたヘルツェグ男爵はブルブル震え顔色が悪い。
そりゃそうだ。目の前には化け物の私。金で雇った用心棒はもういない。
(いや、もう一人いるな)
一番厄介で手強い奴が……
男爵もその事に気づいたらしく、魔術師の男に縋り着いた。
「頼む!!俺を助けてくれ!!金ならいくらでも払う!!」
しかし、男は氷のような冷たい目で男爵を蔑んでいた。
その男の目の色が紫色から赤に変化したかと思っていたら、男爵が急に苦しみ出した。
「──……ぐぁぁぁぁぁぁ!!!!」
穴という穴から血が吹き出しその場に倒れた。
もう、息はない……
生かして連れ帰る予定だったが、こうなっては仕方ない。
それよりも、こちらの命の方が大事だ。
そう思いながら、ゆっくりこちらに向かってくるローブの男を警戒した。
グイッと顎を掴まれ顔を上げられると、男の顔がよく見えた。
髪は黒の短髪。目は紫色……術を使う時は赤になるようだ。
まあまあの顔立ちの男は、私の顔をまじまじ見ると「ふっ」と微笑んだ。
(な、な、なんだ!?)
自慢じゃないが顔を見て顔を赤らめる人はいたが、笑われたことは一度もなかった。
そりゃ、人の好みは人それぞれだから私が文句を言える立場ではないんだけど、面と向かって笑われれば腹立つよねぇ。
バシッ!!と私の顎を掴んでいる手を叩き落とし睨みつけてやると、更に顔が綻んだ。
「君にきぃめた」
「は?」
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