第110話
ユーエンが言うには、今のアルフレードには何らかの術がかかっているようだが精神が異常なまでに強い為、術を限界まで何重にしてまでかけている状態らしい。
このまま長期間かけ続けていると精神が蝕まれ、元には戻れなくなると。
「普通の人間なら当に壊れとる」と言っている所を見ると、相当強固にかけている事が分かる。
ユーエンの口ぶりからして、アルフレードの状態はイナンも分かっている。分かった上で解術を拒んでいる。
(そう言う事……)
キッとイナンを睨みつけるが、イナンはほくそ笑みながらこちらを見ているだけ。
「爺さん解術できないの?」
「出来ん事もないが、相当な時間と体力がいる。それに、そちらさんが大人しく待ってくれるとは思えんしな」
爺さんの言う通りだ。解術するから待っててって言って待つ馬鹿はいない。
(本当、卑怯な手を使ってくる)
昔からそうだ。ハーデスは派手な殺し方はしない。精神を病ませて自死に追い込んだり、仲間同士で殺り合うように仕向けたり自分の手を汚さず、人を道具のように扱うのを好んでいた。何度もそんな陰険なことはやめろと言ったが、自分には自分の殺り方があると言って聞かなかった。
今回も、アルフレードが壊れようが死のうが関係ない。道具として扱っているのだ。
前世は魔法も魔術もない世界だったのが救いだったが、ここはイナンにとって最高の環境だ。
「……あんた、いい加減にしなさいよ。人が人の記憶を触っていいはずないでしょ!!神にでもなったつもり?」
「あははははは!!いいね。僕がこの世の神になろうか」
「はっ、あんたが神の世界なんてこっちが御免よ。それに、あんたは地獄の方がお似合いよ?」
「地獄は散々見てきたよ。姉さんが手に入るなら僕は鬼にでも悪魔にでもなれる」
「ッ、あんた……」
急に昔のように子犬のように縋る表情を向けられ、言葉に詰まってしまった。
「さあ、話は以上だね。赤髪の騎士さん、姉さんを捕まえてくれる?ああ、怪我はさせないでよ?」
「…………仕方ない」
そう言うなり、アルフレードが飛び掛かって来た。
自分よりも爺さんを庇う方に意識が向いていて「ヤバッ!!」と思った時には目の前にいた。
手が伸びて腕を掴まれそうになったが、同じような速さで横から手が伸びてきた。
一瞬の出来事だったが、気付いた時にはアルフレードは壁まで投げ飛ばされていた。
「クラウス様!!」
「理由は分かりませんが、向こうの狙いは貴女のようです!!アルフレードは私に任せて早く脱出してください!!」
「でも!!」
「こんな時ぐらいかっこつけさせてください」
ほわっと笑うクラウスに、胸が締め付けられた。
「ローゼルさん!!」とユーシュに腕を引かれ、無理やりその場から連れ出された。
クラウスはローゼルの姿が見えなくなると、ゆっくりと剣を抜いた。
「さて、久しぶりですね。貴方と剣を交えるのは……」
「折角の命を無駄にしに来たのか?」
「前回と同じだとは思わないでくださいね」
アルフレードも剣を抜き、完全に臨戦態勢。
「あ~あ、逃げられちゃったか」
深い溜息を吐きながら呟くと、団長二人に目をやった。このままここにいたら、この二人に巻き込まれるのは目に見えてる。イナンは頭を掻きながら、戻ろうと踵を返した。
すると「イナン様」と聖女に呼び止められた。
「なに?」
「あの娘……いえ、あの方はイナン様の好いている方ですか?」
「好きって表現では表せないね。僕の命そのものだよ。あの人がいなきゃ僕はいなかった。流石の貴女でも、姉さんに手を出したら許さない」
牽制するように言うと「ふふふッ」と聖女は笑みをこぼした。
「まあ怖い。大丈夫ですよ。私は女には興味ありませんもの。いざとなったらわたくしが手をお貸ししますよ?」
「やめてよ。貴女が手を出したら碌なことにならないのは目に見えてる」
それだけ言うとイナンはその場を後にして行った。
残された聖女は、剣を交える二人に目をやりクスッと不敵な笑みを浮かべた。
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