第36話
私は黒竜を前に乗るのを拒みに拒んだ。
「なんで私がこの人と乗らないといけないの!?絶対いやよ!!ルド!!代わって!!」
「ええ~、いややわ。その子オスやろ?僕竜でも女の子に乗りたいねん」
小柄な竜に乗っているルドに頼んだが、竜の背中を撫でながらとんでもない言葉が飛んできた。
「日中に言っていい言葉じゃないわよ!!──じゃあ、エルス!!」
「私みたいな者が乗ってよいお相手ではありません。格が違います」
副団長の竜に乗っている男が言う言葉じゃないだろ……と思いつつ辺りを見渡し代わってくれそうな人を探したが、大半の竜はすでに飛び立った後で残されたのは私達だけだと知った。
「いつまで駄々を捏ねているつもりだ?」
頭上から「早くしろ」と急かす声が聞こえた。
「貴方以外の人ならすぐに乗ってるわよ!!」
そう伝えるとアルフレードの眉間に皺が寄り、明らかに苛立った様子を見せている。
「お嬢さぁん早くしてくれないかな?」
アルフレードに続き、副団長のティーダまでもが急かし始めた。
「そんなこと言うなら貴方の方に乗せてくれます?」
「それだけは絶対無理だわ!!俺だって命欲しいし」
慌てるように言うだけ言って早急に飛び立ってしまった。
今この場に残こされたのは……
「さて、私とローゼル嬢だけになってしまったが……どうする気だ?」
ぐぬぬぬぬと拳を握りしめ恨めしそうに目の前の男を睨みつけるが、相手は勝ち誇った顔でこちらを見ている。
本当に腹立たしい。
しかし、こうしている間にも無情にも時間は経過している。
それでなくても足止めを食らって時間を取られているって言うのに……
ギュッと拳を握り、覚悟を決めた。
「…………分かりました。今回限り乗せていただきます」
大きな溜息を吐きつつ、差し出された手を掴み黒竜の背に乗った。
「まったく、最初から素直に乗ればいいものを」
そう耳元で囁きながら、その大きな体で私を包むようにして手綱を握った。
その行動に不本意ながらドキッとしてしまった。
慌てて顔を伏せて誤魔化したが、相手の目ざとさを忘れていた。
「おや?どうかしたのか?なにやら顔が赤いようだが?」
「~~~っ!!」
本当にこの男は……!!
「閣下って女性にモテる癖に女性の扱い方が全くなっていないと言われませんか?」
「残念ながら女性の扱いにも定評があってね」
「へえ、そんな偽りの評判を鵜呑みにしているんですか?」
「なるほど、そこまで言うのならば正しい扱い方を伝授いただこうか?」
──……おかしい。
言い返せば言い返すほどなんでこの男はこんなにも楽しそうなんだ?
「ほら、もっと私の方に寄らないと雨で滑ってしまうぞ?」
腕を腰に回されより密着する形になり、カアーと顔が火照るのが分かった。
「だ、大丈夫です!!それよりちょっと離れてくれます!?」
「──ああ、そんな心配せずとも子供には手は出さないから安心してくれ」
その一言で火照った顔から熱が冷めるのが分かった。
それと同時にこんな男に遊ばれていたことが悔しくて仕方なかった。
「……子供子供っていい加減鬱陶しいんですが」
「間違ってはいないだろ?」
「……ならば、子供で結構。ですが、その言葉にしっかり責任を持ってくださいね」
「は?」
そっちがその気ならこっちにも考えがある。
それに、
アルフレードは怪訝な表情を浮かべていたが、自分が言い出したことには責任を取ってもらおう。
時に言葉には重大な代償が付くことがある。簡単に口にして後々後悔してきた奴を何十人とみてきた。
(口は災いの元よ)
まあ、いい、自分の言葉にせいぜい後悔するがいい。
「……また喧嘩しているんですか?」
「あんたらほんに飽きんなぁ~」
いつの間にか合流地点に到着したらく、目の前には呆れたように呟くエルスとルドがいた。
(喧嘩したくてしてんじゃないわよ)
「団長ー!!この霧じゃ無理っすわ」
「──ああ、今日はここまでだな」
この時になって、初めて辺りの霧の濃さに気が付いた。
流石の竜でもこの霧の濃さでは目が効かないと見え、今日はここで野営するらしい。
騎士達は寝床の為のテントや食事の準備を手際よく始めていた。
こんな時、騎士達の順応さは素晴らしいと思う。
「すみません。ご令嬢にはきついかと思いますが、一日だけ我慢してください」
「いえ、私の事は気にしなくて結構よ。枕さえあれば何処でも寝れると自負してるの」
新人らしき年若い騎士が気遣って声を掛けてくれたが、野営なんて大したことない。テントがあるってだけで充分。
(前世どんだけ野宿をしてきたと思ってんの)
むしろ久々のことに胸が高まってるぐらいだ。
「そう言っていただけると有難いです……あっ、僕グラムと言います」
「ふふっ、こう見えてテント泊には抵抗ないのよ?」
優しく微笑みかけるとグラムの頬が赤くなって落ち着きがなくなった。
その様子に女性の免疫がないことが分かったが、逆にその姿が初々しくて可愛くて母性本能をくすぐられるとはこの事か!!と思った。
「やだぁ~!!貴方めちゃくちゃ可愛いじゃない!!」
気づけば胸を押し当てて頭を撫でていた。
グラムが「いや、ちょっ!!」と顔を真っ赤にして慌てていたが、またその姿も可愛くて仕方ない。
更に胸を押し付けていると、後ろから地を這うような低音、それでいて周りの空気を一瞬で凍らてしまう程冷たい声が聞こえた。
「──……何をしている?」
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