第53話
クラウスの言葉に「あっ!!」と声が出た。
色々あって忘れていたが、今日は待ちに待った竜騎士達が試合の日だった。
慌てるようにしてクラウスと競技場の方へ向かうと
「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
外からでも分かるほど大きな歓声が上がっている。
「え?なに?」
「ああ、今第二部隊の隊長殿が試合をしているみたいですね」
第二部隊……ああ、あの変態騎士か……
「一人一人相手するのが面倒だからと、一度に数人を指名した様ですよ?」
あの変態ならやりかねない。
一人では物足りないのだろう。
そんなことを思いながら競技場へ入ると「ブワッ」と熱気が襲ってきた。
「すごい……」
自然と言葉が出た。
中央を見るとそこには既に三人倒したエミールが真剣な表情で剣を手にしていた。
残っている二人は化け物でも見るような目で見ながら剣を構えているが、その手足は震えている。
あんなんじゃ勝てるはずがない。
案の定、決着はすぐに付いた。
同属の騎士たちは歓喜し、見ていた令嬢達は悲鳴に近い歓声を上げていた。
しかし、エミールはつまらなさそうに剣を見つめている。
その理由はすぐに分かった。いや、分かってしまった。
(あんなんじゃ、あの変態騎士様は満足できるはずがない……)
そう思っていると、エミールと目がかち合った。
エミールは瞬時に笑顔になり、こちらに手を振ってきた。
その顔は相変わらず恍惚としていて、思わず顔が引き攣る。
まあ、それでも手ぐらいは振ってやろうと手を挙げると、クラウスがそれを制止した。
「……何です?」
「あの者は敵国の者ですよ。容易に手など振るものじゃありません」
変わらず笑顔のはずなのにその目付きは酷く冷たいもので、思わずヒュッと息を飲むほど。
「さあ、次は我らが竜騎士の登場ですよ」
「え、ああ……」
すぐにいつもの表情に変わり登場してくる竜騎士を指さした。
あまりにも切り替えがスマート過ぎて、さっきのは幻?と自分を疑う程だった。
竜騎士と対決するのはスミリアと同盟を結んでいるマルーガスと呼ばれる国。
ここもスミリアに負けず劣らず血の気の多い者が多いと聞く。
まあ、あれだけ傷だらけで筋肉質の体をこれ見よがしに見せつけてくれば誰だってすぐに分かるんだろうけど。
「噂に聞く竜騎士と試合が出来ると楽しみにしてきたが、噂も大したことないようだ」
「噂とやらがどんなものかは知らんが、うちをそう舐めてもらっちゃ困る」
明らかな挑発もサラッと聞き流すアルフレードは流石だ。
マルーガスの大将は長い髪を手櫛で適当に纏めたのかボサボサ。更には髭もじゃで正直生理的に受け付けない男だがアルフレードより大柄な体格であり剣もデカい。
「大丈夫ですよ」
横からクラウスが声をかけてきた。
「心配はいりませんよ。アルフレードはローゼル嬢が思っている数倍強いです。剣術では私でも勝てませんから」
恥ずかしそうに眉を下げて言うクラウスに「心配なんてしてませんよ」と返した。
だって、勝つのは目に見えて分かっているもの。
デカさアピールして虚勢を張ってるつもりなんだろうけど、そんなもの弱い者がやるやり方だ。
その証拠に竜騎士の皆、痛々しそうに見ている。
戦いは体格だけじゃない。
スピード、能力、そして度胸が大事だ。
初歩的な初歩を忘れているマルーガスに勝ち目なんてあるはずない。
「選手は前へ!!」
第一試合は副団長のティーダが出てきた。
対する相手は背丈はティーダと変わらないが、筋肉の質量はあちら側が圧倒的。
「おたくが相手?」
「お前、副団長らしいな。ツイてないなぁ、しょっぱなから俺に当たるなんてな」
「がはははは!!」と品もかけらもなく笑う相手を見て、ティーダは呆れるように溜息を吐いた。
(完全に負けフラグ)
ああ言うのを負け犬の遠吠えって言うんだよねぇ。
隣で見ているクラウスも呆れて何も言えないようだった。
「開始!!」
審判の声と共にティーダ目掛けて攻撃を仕掛けたが、そのスピードの遅いこと。
思わず自分の目を疑ったね。
(あそこまで吹っ掛けておいてこれ!?)
しかし打撃の強さは本物だった。地面がえぐれるほどの威力はある。
これでスピードが伴っていれば互角程度には戦えたと思うが、なにせ体が重い。
しばらく様子を見ていたティーダもいい加減飽きたのか最後は鞘を脳天にお見舞いし、気絶させたところで勝負がついた。
剣すら抜かずに終わらせたティーダを見物客は称賛していた。
「まあ、当然だわね」
「いくらなんでもあれはありませんね……」
これなら他の奴らも大したことないだろうな。と思って場内を見ていると、真黒のローブを深く被ってコソコソと怪しい動きをしている者を捉えた。
ここは魔術師も多いからさほど気にすることもないとは思ったが、何やら嫌な予感がして黙ってはいられなかった。
「すみません。ちょっと席を外します」
「え!?もうすぐアルフレードの番ですよ!?」
「すみません。ちょっと気になる人物を見かけたので……」
そう伝えると、クラウスは少し考えるような素振りをしてから「では、私もお供いたします」と自分も連れて行けと言い出した。
「いえいえ!!きっと大したことないんです。この目で見て何事もなければ戻ってきますから」
「ならば私がご一緒しても問題ないですよね?」
「──…………わかりました」
笑顔の裏に黙って連れていけという圧を感じ渋々了承した。
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