第42話
侍女に連れられやって来たのは、長いテーブルに豪華な食事が並んでいる晩餐会だった。
そこには、王子であるアランは勿論。
両親である国王夫妻の姿もあった。
(こいつが戦闘狂の国王……)
見た目は普通の国王だが、よく見れば所々に剣傷があり手には長年剣を振るっている為に出来た剣ダコや指の曲がりがあった。
(それにこいつ、隙がない)
こちらが少しでも隙を見せたら殺られそうな圧を感じる。
「晩餐会にご招待頂きありがとうございます。ガルド王国から参ったローゼル・シェリングと申します」
ふ~っと気持ちを落ち着かせる為に一呼吸置き、頭を下げた。
「ああ、話はアランから聞いている。堅苦しい挨拶は無しにして、食事にしよう」
「はい。ありがとうございます」
そう言って指定された席はアランの真正面。
(こいつの顔を見ながら食事をするのか……)
食べる前から胸焼けしそうだ。
改めて目の前に並べられた料理を見ると、他国と言うこともあり見たことの無い料理が並べられていた。
まあ、豪華な食事には変わりはないが。
とりあえず目の前にあった肉料理に手を伸ばし、口にすると驚いた。
「……美味しい……」
自然と呟いていた。
「口にあったようで良かった」
アランが嬉しそうに微笑んだ。
こんなあどけない顔もするのかと正直驚いた。
「──……そういえば、ローゼル嬢は剣が立つと聞いたのだが?」
国王がおもむろに口を開いたかと思えば、戦闘狂らしい質問だった。
「そんな陛下が思っているほどの実力はありません。自分の身を護る程度です」
流石に無碍にもできず、当たり障りのない答えを返した。
まあ当然これで満足してくれるとは思っていない。
「そう謙遜せずともよい。中々に見事な剣捌きだったと聞いたぞ?」
ニヤッと不敵な笑みを浮かべながら言った。
(チッ……誰だ面倒なこと言ったのは)
内心苛立ちながらも笑顔を絶やさず、国王に向き合った。
「いえいえ、本当にその様なものではありません。所詮は騎士の真似事です。陛下に褒めていただくほどの実力はありません」
「だからこれ以上突っかかって来るんじゃねぇ」と言いたかったが、グッと言葉を飲んだ。
ここで大人しく引き下がってくれればいいが、何せ相手は
話が通じるわけが無い。
「そこまで言うのなら、うちの兵と手合わせしてみないか?」
「父上!!!」
ニヤつきながら言う父王にアランが声を荒らげた。
どうやら、息子の方は少しは常識があるらしい。
「なに、本気で手合わせしろとは言っていない。少しローゼル嬢の剣を見たくなってな。……あの
(こいつ……!!)
隣でアランが必死に止めるよう言っているが、そんなもの聞くはずがない。
私は覚悟を決め、溜息を吐きつつ応えた。
「──分かりました。ですが、一つだけ条件があります」
「なんだ?」
「相手は私に選ばせてください」
「ほお?」
「いいだろう」と微笑みながら承諾してくれた。
◇◇◇◇
次の日、近衛騎士演習場──
「ローゼル嬢!!!!これは一体どういう事だ!!!」
ストレッチをしている私の元に鬼の形相で駆けつけてきたのは、言わずもがなアルフレードだ。
どこで聞き付けて来たんだ?と思ったが、アルフレードの後ろのエルスを見て察した。
晩餐会の後、部屋に戻って一部始終をエルスに話すと血管が切れそうな勢いで怒鳴られ、いい加減私の手に負えなくて無理やり部屋から追い出し、朝も顔を合わせる前に
アルフレードならどうにかしてくれると思ったのか味方につけてきやがった。
「何故この様な事態になっている!?」
「えっと~……なんででしょうね?」
つかみかからんばかりに詰め寄られ、ヘラヘラ笑いながら言えば、アルフレードとエルスに睨まれ「……すみません」と即座に謝った。
「今からでも遅くない。陛下には私から話をつけてくる!!」
「ちょ、ちょっと待って!!」
アルフレードが踵を返し、国王の元へ行こうとするのを慌てて止めた。
「──……なんだ?もしやと思うが、止めに行くのを止める気か?」
「その通りです。これは私、しいては
凍てつくような目で睨まれたが、こちらとて「はいそうですか」と聞く気はない。
「お嬢様。貴方はあのバカ王子の求婚を断りに来ただけです。他国の客人である令嬢に手合わせをと言ってくるこの国がおかしいのですよ!?分かってますか!?」
いつもの冷静さを失ったエルスまでも苦言を呈して止めるように言ってくる。
けど、もう私は覚悟を決めている。
それに、
あの男というのは……
「お待たせいたしました」
揉めている私達の後ろから静かに声がかかった。
振り返るとそこには私の手合わせ相手、エミールが手袋を嵌めながらこちらに向かってきた。
そう、私が指名したのはこの人。
「………まさか、貴殿がお相手か?」
「ええ、光栄なことにご指名いただきました」
キッとアルフレードに睨まれたので、すぐに顔を背けた。
「申し訳ないのだが、ローゼル嬢はこう見えて
「練習相手になるかどうかは私が決めることです。それに、女性に怪我はさせませんのでご安心ください」
眉間に皺を寄せ不機嫌なアルフレードとは対照的に笑顔のエミール。
「さあ、時間ですよ」
そう促され、演習場中央へと足を進めた。
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