第106話

私の言葉に真っ先に飛び出したのはクラウスだった。


「アルフレード!!無事でしたか!!」


警戒して来てたのに、こうもあっさり見つけてしまったことに拍子抜けと言うかなんと言うか……と言うか


連絡の一つも寄越さず心配かけさせて、こんなところまで迎えに来させたのに、自分は呑気に礼拝ですか!?


言いたいことは山ほどあったが、クラウスの嬉しそうな顔を見たら文句も言えなかった。

今回の件で一番心配していたのはクラウスだ。団長という立場から自分がしっかりしなければと、気を張っていたのを知っている。


笑顔でアルフレードの元に駆け寄るクラウスを見ると、こちらまで笑顔になってしまう。


(子供みたいね)


腹黒騎士様もちゃんと人らしい感情を持っていたらしい。と呆れるように溜息を吐いた。


これで、一件落着。そう安易に思っていた。


ザシュッ──


「え?」


急に目の前が真っ赤に染まったかと思えば、クラウスがその場に倒れた。


「貴様ら何者だ」


アルフレードの手には血の滴る剣が握られている。


「あ、あんた!!何してんの!?」


すぐにクラウスの元に駆け寄った。

大きく斬られた傷からは止めどなく血が溢れてる。一発で仕留めようとしていたのが良く分かる斬り方だ。


「……アル……なぜ……」


クラウスは苦しそうにアルフレードに問いかけるが、冷く鋭い目で睨みつけるばかり。


「何者だと聞いている。答えがないのなら、それでいい」

「は!?ちょっ!!」


アルフレードは躊躇なく剣を振り下ろして来た。何とか受け止めたものの、アルフレードの本気マジの剣を受けたのは初めて。

腕がビリビリする程の衝撃で、よく剣を落とさなかったと自分で自分を褒めてやりほどだった。


(どうも様子がおかしい)


私の事はともかく、クラウスが分からないなんておかしすぎる。


「ルド!!これどうなってるの!?」


術関係は無知な私は、ルドに助言を求め叫んだ。


「う…ぷっ……あかん…この空間、酔う……」

「あんたも何してんのよ!!!!」


口を押えて必死に吐き気を抑えているルドに、絶望感すら漂ってきた。


「──くそっ!!ユーシュ!!クラウス様を!!」

「は、はいっ!!」


まずは手負いのクラウスをこの場から逃がして、手当手するのが先決。その為には、私が囮になるしかない!!


「逃がすか!!」

「あんたの相手は私よ!!」


クラウスを担ぎあげ、逃げ出すユーシュをアルフレードが追おうとするが、前に出て止めた。


「退け。女だろうと容赦せんぞ」

「上等じゃない」


完全に敵意丸出しで刃を向けてきた。

強気な態度で応えたが、正直本気のアルフレードに真っ向から挑んだところで勝てる気がしない。それでもいい。あの二人が逃げるだけの時間が稼げれば……


アルフレードも私の意図を分かっているはず。その為には最短で攻撃を仕掛けてくるだろう。


(はは…死んだら三代先まで呪ってやるからな)


「考え事か?」

「ッ!?」


気付いた時には剣先が目の前にあり、慌てて避けたが瞼を斬ってしまった。傷口から血が流れ出て、いくら拭っても止まらない。これでは片目は使い物にならない。


(油断した……!!)


女にも容赦ないとは、悪魔よりタチが悪い。


「デカい口を叩いていた割には手ごたえがないな」

「は、この程度で勝った気になってんの?随分と甘ちゃんになったんじゃない?」

「何?」

「あんたは私の事なんて忘れたかもしれないけどね、私やクラウス様の中にはあんたがちゃんと存在してんの!!何一人だけ忘れてんの!?……ねぇ、知ってる?忘れられる方が、忘れる方より何倍も辛いのよ!!」


自分でも驚くほど感情的になり、叫んでいた。視界は涙なのか血なのか分からないが滲んでいて、あるアルフレードの表情は良く見えない。


だが、悲痛な思いは届いたのか、茫然としている事だけは分かる。


「──ぐッ!!」


急に頭を抱え苦しそうに顔を歪めてしゃがみこんだアルフレード。

「大丈夫!?」と近寄ろうとするが「寄るな!!」と痛む頭を押さえながら剣を向けてきた。


そのまま足元をふらつかせながら、どこかへ向かって歩いて行く。


「どこ行くの!?」

「……今日の所は目を瞑ってやる。今すぐ出て行け」

「はぁ!?ちょっと!!」


呼び止める声を無視して、その場から去ってしまった。


このまま追っても良かったが、どちらにせよ勝算はないので悔しさで唇を噛みしめながら、クラウス達の後を追う事にした。



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