第56話
「──ッは!!!」
ガバッと起き上がると、そこは見慣れぬ部屋だった。
「これは戻って来れた……の?」
顔は涙でぐしゃぐしゃ。それでも今まで抱きしめられていた熱は感じれる。
経緯はどうあれ、プレゼントを渡せなかったことが心のどこかに引っかかっていたから、これはこれで結果オーライなのかもしれない。
とはいえ、いつまでも感情に浸っている場合ではない。
私の記憶が確かなら、あの時クラウスが一緒だったがその姿がない。
捕まった?まさか、あのクラウスがそんなはずない。
それに今の私の状況はどういう事だ?
今の私は真白なレースを基調とした中々にきわどい夜着に身を包んでいる。
「これは……」
「おや?起きたかの?」
呟くと同時に部屋に人の気配が
バッ!!と身構えると、そこにはいつぞやの妖艶な美女。ルドのお師匠が腕を組みこちらを見ていた。
「いい夢は見れたか?」
「……ええ、過去一最高で最悪の目覚めよ」
苦笑いを浮かべながらも警戒は怠らない。
「そんな警戒するでない。取って食いはせん」
「貴方。ルドのお師匠の……」
「イルダじゃ」
「そのイルダさんが何用で?」
怪訝な表情で問いかけると、イルダは相変わらず艶っぽい笑みを浮かべながら口を開いた。
「お主の監視を頼まれての。まったく人使いの荒い王で困っておる」
溜息を吐きながらいうが、その顔はまったく困っている感じがしない。
むしろ楽しんでいる感じがする。
「ふふふっ、ほんに勘の良い娘じゃ」
「そんなお主に吉報じゃ」と私の顎を掴みながら言ってきた。
「この国の王子。アラン殿下との婚約が正式に決まった」
「──……はっ!?!?!?」
意味が分からない。アランとはその話はもう終わっているはず……!!
「お主の所の王子、何と言ったかの……まあ、よい。その王子がお主とアラン殿下の婚約を正式に受理したようじゃ」
「あのボンクラ!!!!!」
思いっきりベッドに拳を打ち付けた。
「更にそのボンクラの王子が我々と同盟を組むと言ってくれての。話を聞くとどうやらお主らの王子も中身は
やられた!!
自国の王子が取り決めた婚約は簡単には覆せない。
「そんなわけで、お主はもうこの国からは出られぬ」
パンパンッ!!とイルダが手を叩くと、扉が開き現れたのは
「アラン!?……と、クラウス?」
しかし二人とも様子がおかしい……
「アラン殿下はお主にこれ以上嫌われるのは嫌だと駄々を捏ねたのでの。自分の気持ちに忠実になってもらった。そっちの騎士は見届け人じゃ。自国の騎士に純潔を奪われるところを見てもらえばお主も自国に戻りたくはなくなるじゃろ?」
「……いい趣味をお持ちなようね?」
「そうじゃろ?」
「褒めてねぇ!!!」と心の底から叫びたかったが「邪魔者は消えるとしよう」と颯爽に姿を消してしまい、このえも言わえぬ感情をどうすることもできず、ベッドに当たるしかなかった。
(この国は変人ばっかりなのか!!!??)
ボンボンとベッドを殴りつけるが、気が晴れない。
怒りで周りの気配に気づくことが出来なかった。
「──ん!?」
気づいたらクラウスに羽交い絞めにされていた。
「ちょっと!!クラウス様!?なに変な術にかかってんですか!?貴方聖騎士の団長でしょ!?」
喧嘩腰で言うが反応はない。
しかも美しい顔に似合わず力が強く抜け出せない。
(このままじゃ昨日の二の舞じゃない!!)
折角無事に事なきを得たのに、またこの手のトラップは本当に勘弁してほしい。
二日続けては精神的に結構来るんだよ……
そうこうしているうちに、アランは上着を脱ぎ棄てベッドの上に乗って来た。
「本当にいい加減にしてよ……アランも次はないって言ったよね?クラウス様もクラウス様よ。『私についてこい?』はっ……?こんなことなら私一人の方が良かったわよ。聖騎士の団長もこの程度ってことでしょ?」
流石に言い過ぎか?って思ったがどうせ正気じゃないし、ちょうどいいからストレスのはけ口にさせてもらう。
「この際だから言わせてもらうけど、今のクラウス様はただのお荷物でしかないの。分かる?お荷物よ?言われたことある?そんなお荷物には敬称もいらないかしら?ねぇ?クラウス?」
こんな酷いことを言われているのにクラウスは表情を崩さないし力も緩めない。
アランは私の脚を舐めるように見ながら擦ってくる。
「──~~~~ッ!!!クラウス!!いい加減目を覚ましなさいよ!!」
「………………そんな大声を出さなくても聞こえていますよ」
「へ?」
ドカッ!!!
私が間抜けな声を発している間にアランは壁に打ち付けられ気絶した。
「え?あれ……?」
私は今背後から漂う只ならぬ空気に全身から血の気が引き既に真っ白だ。
この感じ、多分最初から……!?
「──……で?なんでしたっけ?お荷物……でしたっけ?」
優しく話しているように聞こえるがそんことない。冷たい空気を纏いながら話をするもんだから全身が凍えそう。
「いや、あの、それは語弊があるって言うか……」
「ああ、聖騎士団長の私はこの程度らしいので、詳しく教えていただけますか?」
(やっぱり最初からご存じですよねぇ!!)
「あ、あの、クラウス様……?」と意を決して振り返ったがその表情にヒュッと息を飲んだ。
「おや?こんな
魔王……!!魔王がここに!!
綺麗な人が怒ると怖いとはよく言ったものだ。
この人の怖さはアルフレードとは違う恐ろしさがある。
アルフレードは黙っていてもその面持ちで怖さが分かるが、この人は違う!!
皆騙されてる!!これはアルフレードより断然
「さあ、先ほどのようにクラウスと呼んでください。さあ」
笑顔で詰め寄られ、もう泣きそう……こうなれば!!
「──~~~~ッ!!ごめんなさい!!すみません!!調子に乗りすぎました!!」
床に降りるなり華麗に土下座を決めた。
「いけませんねぇ。ご令嬢が簡単に土下座なんてしては……」
もう土下座をすることに抵抗などにない。この場を逃げ切れるのならプライドなんて殴り捨ててやる。
「いいんですよ。今回は私のミスでもありますし、ローゼル嬢を危険に晒してしまった……」
「え?じゃあ……!!」
「けれど、流石に
「えっと~……それは……?」
ニヤッと微笑むと「慰謝料、いただきましょうか?」なんて言い出した。
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