第27話

「おやや?さっきまでの勢いはどうしたん?」

「貴方にはこれぐらいで充分だと判断したんですよ」


相変わらず二人の攻防は続いている。

エルスは思ったより長期戦になると思ったようで、力を少し加減しだした。

ルドは、どこから出したか分からぬ剣でエルスと対等に殺りあっている。


「貴方こそ、剣など構えてなんのつもりです?術者と言うのははったりでしたか?」

「はぁ~~~!?あんたが剣で勝負するなら剣で殺らんとフェアじゃないやろ?──まあ、僕が術を使った時点で僕の勝ちなんは見えとるでな。それはつまらんやろ?」

「ほお?私が貴方ごときに負けると?」


エルスは眉間に皺寄せ苛立ちを隠せないでいる。

こんな殺気めいたエルスは初めて見る。

強いとは思っていたが、この殺気は常人の域じゃない。

流石の私でもゾクッと悪寒が走るほどだが、ルドはいつものように軽口をたたいている。


(流石というとか危機感がないというか能天気というか……)


そんな二人は話も終わり再び剣を交え始めた。

しかし、始まって早々に私はこちらに向かってくるあるの気配に気がついた。


(これは……)


ちょっと厄介そうな相手の登場だと察した。

普段ならこの手の気配にすぐに気付くはずのエルスは目の前のルドに夢中で全く気がついていない。


私一人でもいけると思うけど、知らせないと後々エルスがネチネチうるさい。

それに、数が多そうな感じ……


はぁぁ~と溜息を吐き、殺りあっているエルスとルドを止める為に剣が飛び交っている合間に入った。


「──っ!?あっっっっぶな!!!!」

「お嬢様!!!死ぬ気ですか!!?」


二人とも私の存在に気づき、スレスレの所で剣を止めた。

ちょこっと髪の毛が斬られたけど、この程度で済んだなら全然ラッキー。


「……お生憎とまだ死ぬ気は無いわね。そんな事よりも気づくことがあるでしょ?」


二人は何を言っているのか分からない表情だったが、すぐにその表情が曇った。

そしてすぐに怒鳴られた。


「……こりゃあかん」

「何故もっと早く言わないんですか!?」

「いや、だから身を呈して教えに来たでしょ!?」


そうじゃなきゃわざわざ死に行くようなことはしない。


「仕方ありませんね。この勝負は一旦お預けとしましょう」

「しゃぁない。さん先に片付けんとな」


ルドの言うさんとは、物凄いスピードかつ、中々の数の魔獣達のこと。

このまま魔獣を放っておけば街へに被害が及ぶ。


しかし、おかしい。

一匹や二匹なら分かるが、こちらに向かって来てるのは少なくとも数十頭。

そんな数が何故?


(いや、今はそんな事はどうでもいい)


足音は徐々に近づいてきている。


「さて、一人何匹相手にすればいいのかしらね?」

「お嬢様は危ないのでお任せ下さい」

「いやいや、僕一人で十分や」


私を押し退けてエルスが前に出て、そのエルスを押し退けて更にルドが前に出た。


「何のつもりです?」

「なんも?これぐらいで余裕やし」


再び一発触発の気配を感じ取りすぐに二人の間に入った。


「ちょい待ち!!あんた達いい加減にしなさいよ!?今は揉めてる場合じゃないの!!喧嘩ならこれを片付けてからにして!!」


私がもっともなことを言うとエルスが盛大な舌打ちをかましてきやがった。ルドは呑気に「はいはい」と相変わらず適当な返事を返してくる始末。


そうこうしている内に魔獣の姿が見えてきた。


「あら……ヤダ……ダークウルフだわ……」


ダークウルフ。別名森の死神。

ダークウルフは警戒心が強くとても獰猛。

それこそ鋭い爪と牙で死神のように人の命を奪っていく。

しかし、こいつらは群れではあまり行動を共にしないはず。

それなのに、何故群れでこちらに向かってきているんだ?


「……あかん。あれは術にかかっとるわ」


ルドがボソッと呟いた。


「目が赤くなっとるやろ?術にかかっとる証拠やね。しかもあいつらの周りに黒い靄がかかっとる。あれは僕と同じ黒魔術師のしわざやね」


ルドの話を聞いて理解した。

どうせまたどっかの馬鹿やつシェリング家うちを狙って起こしたものだろう。


「術者は?」

「おらんね。基本やり切り仕事やし、姿を見られたらまずいやろうしね」

「……この犯行を企てた奴を吐かせることは出来ないって事ね」

「そう言うことや」


激しく舌打ちをした。


別にシェリング家うちを狙ってくるのは構わない。

しかし、自然の中で暮らしている魔獣を使い捨ての物のように使う、その考えが腹立たしい。


いくら死神だと恐れられていても、この子達だって生きている。


「ルド、解術は可能?」

「同じ術者でもやり方が違がうでなぁ……」


ルドが唸りながら頭を搔いている。


「五分あげる。それまでに何とかして」

「はぁ!?無茶ぶりやろ!?」

「お嬢様の従者ならそれぐらい出来て当然ですね」


エルスが煽るようにいえば、ルドは渋りながらも解術に取り掛かる為の準備に入った。


「じゃあ、エルス。ルドの解術が終わるまで、ここから一匹も通しちゃダメよ」

「分かっていますが、あいつが解術できるとは限りませんよ?」

「大丈夫。ルドならできる」


エルスの目を真っ直ぐ見ながら言うと、大きな溜息と共に「お嬢様は簡単に人を信用し過ぎです」と言う文句が返ってきた。

それでもエルスはダークウルフと向き合って戦闘態勢に入ってくれた。


なんだかんだ言っても、エルスは私のわがままを聞いてくれる。

「ふふ」とニヤけると「……何ですか?気味の悪い」なんていつもの嫌味が返ってきたけどね。


「さぁ、五分頑張りますか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る