第108話

「……ぷっ……ふふ……に、似合ってるわよ?」


首輪を付けたルドの姿は想像以上に似合っていて、思わず笑いが込み上げてきて、必死に笑いを堪えながら感想を伝えた。


ルドは面白くなさそうにしていたが黙って立ち上がり、そして……


──ポンッ


「あっ!!」

「ほお」

「ルドさん!?」


豹の姿から人の姿に戻ったルドがそこにいた。


「……戻った……」とルド本人も驚きらしく、自分の手を眺めながら呟いてる。


「爺さん、あんたやるときはやるじゃない」

「儂はできる男じゃからな。惚れるなよ?」


ユーエンは得意げに胸を張っている。

一体どんなまじないを込めたのか分からないが、それを聞いたところで私に理解できるかと言えばできないので何も聞かない事にする。何事も結果が全てなのだ。


「だが、それも完璧じゃない。長くは持たんと思うとれ」


真剣な表情で忠告すれば、ルドの方もそれは分かっているようで「十分や」と一言伝えた。

例え、少しだろうと術が使えるようになったのが嬉しいのだろう。この国に来て初めて、あんな穏やかな表情のルドを見た気がした。


これでルドも本領発揮できる。後はクラウスの目が覚めるのを待つだけだが、その前に聞きたいことがある。


「アルフレード様のはどういうこと?完全に私達を敵認識してたわよ」


わざわざ助けにこんなところまで来てやったのに、私達の事を忘れただけではなく敵認識されて攻撃まで受けたんだぞ!?


「十中八九なんかの術がかかっとるのは分かっとったけど、なんせあの空間は僕には合わんわ。目が回って気持ち悪いねん。できれば二度と行きたくないわ」


思い出した様に口に手を当てて拒否反応を示すが、ルドが来ないと話にならない。


「あんたが行かなきゃ誰が元に戻すのよ」

「──儂が行ってみるかの?」

「はぁ!?」


まさかの回答が聞こえた。

見るとユーエンがフンッと鼻を鳴らしている。


「そこの小僧は闇使いじゃろ?聖力溢れる教会はそやつには毒沼に入ってるのと同じ事じゃ。首輪の効力で多少はマシだろうが、使い物にはならんじゃろ」

「そうは言うけど、爺さんを連れてなんて行けないわよ」


アルフレードが正気じゃない今、自分の身すら守れるか危うい。


「儂を甘く見るな。まだ若いもんには負けんわ」


いや、その若いもんが一番危ないんだって。悪魔の方が可愛く見えるレベルなんだけど?

実力はまあ、認めるけど、それにしたって相手が相手なだけに年寄りを連れては行けない。


「なぁに、心配するな。自分の身ぐらい自分で守れる。それにユーシュもいるしの。いざとなったらあいつを盾にでもするわ」


わはははっと笑っているが、冗談なのか本気なのか分からない。的にされたユーシュは当然笑えるはずもなく、凍てつかんばかりの目で睨みつけている。


「こんな老いぼれの命なんぞ、気にする必要はない。……儂は散々逃げて来た。自分にも決着を付けたいんじゃよ」


その瞳にはしっかりと、決意と覚悟の色を示していた。


この爺さんも顔には出さないが、色々と悩み苦しんでいたんだろう。


(全く…そこまで言われたら断る事なんて出来やしない)


「分かった。クラウス様が目を覚ましたら、作戦をたてましょう」



◇◇◇



クラウスが目を覚ましたのは昼を少し過ぎた頃だった。


「本当に申し訳ありません」


深々と頭を下げ、治療をしてくれたユーエンにも礼を伝えていた。


「ここは敵陣だと言うのに油断した私が馬鹿でした」


アルフレードの姿を見た時、クラウスは嬉しかったのだろう。その分、傷つけられたショックが大きいはずなのに、私達には気付かれないよう平然を装っている。


こちらからすれば、気持ちを押し殺している方が辛く見える。


「クラウス様、本当に大丈夫ですか?」

「おや、珍しい。心配してくれるんですか?そうですね…ローゼル嬢が膝枕してくれるって言うんなら──」

「はい、大丈夫ですね」


思わず声をかけてしまったが、すぐに後悔した。


(この人は、こういう人だった)


クスクスと笑うクラウスを見て、心配して損した気分だった。


「それで?アルフレードを元に戻すにはどうすればいいんです?」

「儂も見て見んと分からんが、恐らく魅了の類だと思うとる」

「すぐに解術できるんですね?」

「そりゃ、見てんと分からん」


クラウスがユーエンに訊ねるが、二言目には「見ないと分からん」と言われ、流石のクラウスも「チッ」と舌打ちするほど苛立っている。


「解術するにしろしないにしろ、もう一度教会に行く必要はあるって事よ」


二人の間に入りながら伝えると、クラウスは自身を落ち着かせるように深呼吸をしてから私に向き合った。


「そうですね」と言うクラウスは、いつもの笑みを浮かべていた。

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